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本堂

 今日は味噌味の夕飯を食べた後、暇な私は何の気なしに本堂に行った。

「・・・」

 本堂はいつも独特の静けさが漂っていた。そんな静けさの中を私は歩いて行く。ロウソクの薄明かりの中、よく見ると本堂の片隅で和尚さんが座禅をしていた。私は邪魔をしないよう黒光りした本堂の床板の上を静かに滑るように歩いて、本堂の奥に安置されているバカでかい御本尊の前まで行って、それを見上げた。

「・・・」

 ゆうに三メートル以上はある巨大な仏像は、穏やかに、そして、しっかりとそこに鎮座していた。寺自体はボロボロだったが、この仏像だけは立派だった。なぜ、こんな立派な仏像がこんなおんぼろ寺にあるのだろうか。私がここに来てから、参拝客や檀家さんもまったく見たことはなかった。この寺は一体・・。

「還暦を過ぎても、朝勃ちが治まらんのです」

 振り返ると暗闇の中から、ギラギラとした巨大な目玉が私を見つめていた。

「私は性欲の塊なのです」

「・・・」

「私は性欲の鬼なのです」

「・・・」

「私は性欲の権化なのです・・、私は・・、性欲そのものなのです」

「は、はあ・・」

「私はどんな因果に生きているのでしょう」

 和尚さんの視線は私を通り越して仏像に向けられた。仏様は静かに私たち二人を見下ろしていた。

「男と女は不思議ですね。幸せにならないと分かっていても、惹かれ合ってしまう」

「ここには昔女の子がたくさんいた」

 私が言った。

「今は寂しい子が多過ぎるのです」

 和尚さんの鋭い視線が再び私を捉えた。

「悲しい時代です」

 視線は再び仏像を見上げた。

「人は一人では生きていけない。しかし、一人で生きていかなければならない時代。彷徨う魂の行き場所が無いのです」

 視線が再び私を捉えた。

「人はパンのみに生きるに非ず」

「それキリスト教じゃ」

「みんな愛を求めている」

「私も・・」

「そう、お前も・・、そして私も・・、みんな寂しいのです。それは、虫やトカゲもみんな同じなのです」

 和尚さんの視線の先でトカゲが壁をちょろちょろと這って行った。

 寂しさは永遠。愛は一瞬。誰の言葉だったろうか。

「よく焼けてますね」

 もろ肌に脱いだ和尚さんの肌はムラなく真っ黒だった。

「日サロです」

「日サロですか」

「女子高生にはウケがよかった」

 和尚さんの着物が全て滑り落ちた。真っ黒な肌に真っ白なふんどしが際立っていた。

「罰が当たりませんか」

 私は仏像を見上げた。素肌に本堂の床は冷たかった。その冷たさが私の背中に張りつくように沁み込んでくる。

「仏様は慈愛の塊です」

 援助交際の相場は今二万円だそうだ。慰安婦の稼いだ金は終戦と共に紙クズになった。

「和尚さんはどのくらい座ってらっしゃるんですか」

「もうすぐ五十年だね」

「・・・」

 和尚さんは、しかし、私を抱かなかった。

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