ライオンクエスト ~スーパーヒーロー列伝~
友人「王道ファンタジーやりたいの分かるけど他と差別化しないと読んでもらえないぞ」
友人「相手は軍だろ? それなら勇者達に総掛かりで襲ってこない理由も必要だ」
友人「相手を馬鹿にするのはダメだ。魅力のある敵は大事だ。一目でラスボスって分かる風格を出せ」
友人「それとキャラに共感できる描写を混ぜるもいいな。“ああ。あるある”って感じで」
友人「短くコンパクトに、ここで切っても話として成立するようにするといい」
友人「話変わるけど○イガー○スクのアニメ面白いな。W○E、もっと日本で流行ればいいのに」
という素晴らしい助言を頂けたのでさっそく書いてみました。
1/
魔王城に雷鳴が響き渡った。稲光が二人の男を照らす。
一人は勇者。そして、もう一人は玉座に腰をかけた魔王。
両者の睨み合いが続く中、魔王はニヤリと笑みを浮かべた。
「こんな所まで来るとは、よほど父と同じ目に合いたいと見える」
「貴様!」
勇者は激昂した。勇者の父は往年の名レスラーだった。
しかし魔王軍との対抗戦で負った膝の怪我により引退を余儀なくされ、
今は駅前で割と繁盛している焼肉屋を経営している。
安くて量が食べれる店なので魔王軍も割と頻繁に訪れている。
だが、それとこれとは話は別だ。
怒りを露に勇者が玉座の間に設置されたリングへと駆け上がる。
「さあ、俺の相手はどいつだ!」
復讐の為、勇者は総合格闘技に転向した。ショーを無視したシュートスタイルである。
脚にはスパイク付きの金属製レガース。武器は装備しなければ意味がない。
勇者は手段を選ばぬ。噛みつきと目潰し以外は何でも使う。
これまでにも魔王軍の選手を何人も潰して来た。
「関係者以外立ち入り禁止を破った報いだ。キラースネーク、相手をしてやれ」
「はっ!」
リングサイドにいたローブの男が魔王の声に応じてリングに上がる。
勇者は非情である。ゴングを待たずに先制のローキックを仕掛ける。
魔王城に再び雷鳴が轟いた。まるで断末魔を掻き消すように。
2/
ワールドチャンピオンシップ第五戦、魔王城アリーナ3階席。
そこから王は祈る気持ちで前売り券の半券を握り締めた。
勇者を送り込んだのは彼だ。魔王軍のスター選手を潰す為である。
こちらのスター選手は魔王軍の選手に悉く潰され、興業もままならない。
(頼んだぞ、勇者よ……)
突如、観客席からどよめきが起こり、王もそちらを見た。
愕然とする彼の手から、クシャクシャの半券が零れ落ちた。
入場ゲートからやってくる魔王軍のスター選手たち、
そして、その中央、金色のキャデラックのボンネットに括りつけられている一人の男。
手酷く痛めつけられてはいるが、それは間違いようもなく勇者その人だった。
「おお、勇者よ。やられてしまうとは情けない」
王は頭を抱え込むようにして嘆いた。もう終わりだ。
「ヘイ!腰抜けのサルども!テメエらの刺客もこの様だ!」
リングに上がった魔王軍のエースであるハデスがマイクパフォーマンスで客を煽る。
激しいブーイングを物ともせず一層煽るようにキャデラックのエンジンを吹かさせる。
燃費を考えないエンジン熱がグリルのようにボンネット上の勇者を焼いていく。
「待て!」
そこに飛び込んだのは王子だった。若手のホープであり、王の誇りだった。
リングに駆け上がるとロープをくぐり、ハデスと睨み合う様に対峙する。
「よせ!お前の勝てる相手じゃない!」
王の制止を振り切りハデスからマイクを受け取ると、王子は指を突きつけて宣言する。
「我々はお前達なんかに負けたりはしない。最後の一人まで抗ってやる」
そしてマイクを放り投げるや否や、鋭いエルボーをハデスへと叩き込む。
だが揺るがない。ハデスの巨体は王子の一撃を、まるで意に介さない。
再びのエルボー。そして回転してのローリングエルボー。だが、それでもハデスは無表情のまま。
そして魔王軍の反撃が始まった。魔王軍のシャツを来た付き人2人が王子を押さえつける。
「フン!」
「がはぁ!」
ハデスの抉りこむようなボディブロー。王子の口から苦悶が飛び出す。
さらに首相撲からの膝蹴り。執拗なボディ攻撃は内臓を破壊する悪魔の所業そのもの。
そして膝を屈した王子を抱え上げるとハデスはロープ際まで歩き出した。
「やめろォ!!」
王の悲痛な叫びを無視して王子が報道席へと投げ込まれた。
着地点にあった折りたたみの長机が粉砕され、王子の身体が床に転がる。
報道陣がすかさず白目を剥いて昏倒する王子にシャッターを切った。
観客席から悲鳴が上がり、王は耳を塞いで俯いた。
王の目から涙が零れる。王子には将来があった。
まずは地道に地方巡業で経験を積ませて、それからタイトル戦。
ゆくゆくは魔王軍との他団体戦に臨ませるつもりだった。
しかし、それが無惨に打ち砕かれたのだ。
観客席から再び絶叫が上がる。今度は何が起きたのかと王は顔を上げた。
見れば、ハデスはコーナーポストに昇っていた。
ハデスのフィニッシュムーヴ、プランチャーである。
まさか、とどめを刺すつもりか? 選手生命どころか命さえ危うい。
王が息を呑んだ。もはや神はいないのか。
その瞬間、会場にBGMが鳴り響いた。同時に轟くハーレーの爆音。
ハデスはコーナーから降り、入場口を見た。観客も王も皆、そこに目を奪われた。
おお、見るがいい。吹き上がるスモークの中、バイクを駆ってリングに向かう獅子の仮面。
獅子は勇気の証。そして失われたローランド王国の紋章。
魔王軍と戦う謎の覆面レスラー、レオンマスクの堂々たる入場であった。
3/
「来たな、レオンマスク」
魔王が声を上げる。魔王軍は襲来を予期していた。
今日の試合のオファーを出し、ポスターにも名前を出した。
ギャラの面でエージェントとの交渉が難航したが、彼は来たのだ。
つまり、ここまでの流れは予定通りのアングルである。
ロープを掴むとレオンマスクは軽々とそれを飛び越えてコーナーに昇る。
突き上げられた一本指は、己が一番であるというアピールだ。
観客席から割れんばかりに歓声が上がる。彼こそは人類の希望。
これまでに多くの魔王軍の選手をマットに沈めてきた英雄。
そして、魔王軍にとっては看過できぬ強敵であった。
「お前の相手は、勇者を葬ったコイツだ。カモン、キラースネーク!」
入場口からスモークと共に現れたのは蛇の身体に手足を持つ蛇人間。
その鱗は艶かしく輝き、口元には歪な笑みを湛えている。
「聞いた事のない選手だ。気をつけろ、魔王軍がただの無名選手を送ってくるとは思えん」
セコンドにしてトレーナーの老賢者に頷き、レオンはキラースネークと対峙した。
ゴングが鳴る。レオンは細かくステップを刻みながら相手の出方を窺う。
レオンのたたかう。重厚なミドルキックがキラースネークの身体を揺らす。
レオンのたたかう。的確なローキックを受けて相手はたまらず後ろに下がる。
レオンのたたかう。すかさず放たれたローリングソバットが蛇人間をコーナーまで吹き飛ばす。
華麗な足さばきに観客席から声援が上がる。熱狂がアリーナを揺らす。
「よし、休む暇を与えるな。そのまま攻め続けるんだ」
老賢者がリングを叩いて叫ぶ。警戒は杞憂だったようだ。
キラースネークはこれまで倒してきたレスラーより遥かに弱い。
サイクロプスの化け物じみたパワーも、デュラハンのような苛烈な反則攻撃も、
ヴァンパイアの空中殺法といった特殊な技術もない。
だが、老賢者に悪寒が走る。そのようなレスラーがどうやって、あの勇者を倒したというのか。
レオンのたたかう。放たれたドロップキックがキラースネークをコーナーに串刺しにする。
その瞬間、キラースネークは笑みを浮かべた。打ち込まれた蹴り足を脇に抱える。
掴んだ足をロックして、そのまま一回転。レオンも膝を破壊されまいと自ら回転してマットに叩きつけられる。
ドラゴンスクリュー。キラースネークのカウンターが見事に決まった。
そして、そのまま逃がさない。掴んだ足を今度はヒールホールドへと持っていく。
「かかった!」
魔王は拳を握り締めた。これこそがキラースネークの真骨頂。
高度なディフェンステクニックとグラウンド、特に足関節へのサブミッションを得意とする。
レオンの悲鳴が上がる。渾身の力を込めてキラースネークの肩の付け根を蹴り飛ばして引き剥がす。
両者がリングを転がり再び体勢を立て直した。レオンは苦痛に、スネークは愉悦に顔を歪める。
「レオンマスクの武器は、軽快なフットワークと強烈な蹴りを繰り出す脚だ」
魔王が勝ち誇ったように実況席に着いてマイクを握る。
サイクロプスのコンクリリングデスマッチやヴァンパイアの棺桶デスマッチetc、
これまでの試合は無駄ではなかった。そのおかげで奴のデータを取る事ができた。
「今の奴は牙をもがれたライオンも同じ。もはや反撃の手段はあるまい」
4/
「クソ!魔王軍め、そういう事か!」
老賢者が悔しげにリングを叩いた。敵の思惑を読めなかった己のミスだ。
キラースネークは恐らく経験豊富なジョバー(負け役)だ。
防御に長け、どんな派手な大技や打撃にも怪我を負うことなく受けれるレスラー。
そして、そうした選手は他の格闘技からの道場破りの相手を務める事が多い。
スター選手に怪我を負わせる心配もなく、無名の相手にやられるという屈辱を与える。
その武器がサブミッション。地味だが確実に相手を破壊していく恐るべきテクニシャンだ。
レオンの動きが鈍い。得意のステップが生かせていない。
キラースネークが鎌首をもたげて襲い掛かる蛇の如く低空タックルを繰り出す。
普段の動きならば避けれたそれを受け、再びレオンがグラウンドに持ち込まれる。
アキレス腱固めからのリバースハーフボストンクラブで締め上げる。
残された両腕で這うようにしてレオンはロープに手を伸ばし、それを掴む。
「ロープだ。キラースネーク」
レフェリーがロープブレイクを確認して手を離すよう警告を出す。
このレフェリーも魔王軍の手のものだが、たとえ敵であろうとルールは絶対。
チッと舌打ちをしキラースネークは拘束を解く。
一方的にレオンがやられる展開と地味なグラウンドに観客からは悲痛な溜息が洩れる。
蛇人間が会場の時計を見上げる。20分経過。この試合は30分一本勝負だ。
今度は実況席を見やる。魔王の両目がギラリと輝き、親指を下にする。『やってよし』のキルサインだ。
キラースネークが頷く。そしてレオンの身体を一気に引き抜いてパワーボムの態勢を取る。
「蛇は一息に仕留めず、まず獲物を締め上げて破壊し、頭から丸呑みにする。
我が腕の中で息絶えるがいい、レオンマスク!」
勝利の笑みを浮かべながら抱え上げた蛇人間に、獅子は失笑を返した。
「お前、これまで大舞台に立った事が無いな? 気が逸って焦りが見えるぜ」
「なに!?」
レオンの挑発に反応するキラースネーク。その呼吸はスタミナを考えずに攻め続けた所為で荒い。
グラウンドで消耗する体力はスタンディングよりも遥かに多いのだ。
レオンにリフティングを堪える脚力はない。だが獅子の両腕は健在。クラッチを力任せに引き千切る。
そして両足を絡めると首を支点に振り子のように身体を振ってのウラカン・ラナ。
キラースネークを投げ飛ばしながら、そこから流れるように飛びつき逆十字に派生する。
今度は蛇人間が絶叫を上げる番だった。
「バカな!」
魔王はコーラの入った紙コップを握り潰した。
データには無い技だ。隠していたのか、いや、違う。この短期間でレベルを上げたのだ。
「それだ!」
焼肉屋の親父が立見席から声を上げてガッツポーズを取る。。
ポップコーンを撒き散らしながら王は観客と共に立ち上がり歓声と声援を上げた。
そして控え室でモニターを見ていた王子も親指を立てる。
キラースネークはレオンの膝に手を押し当てて外そうとする。
だが、どこにそれほどの力を残していたのか、己の首に掛かった足が外せない。
であればロープブレイクだ。必死に手を伸ばした瞬間、レオンは技を切り替える。
レオンのたたかう。フルネルソンに捕らえ万力の如き力でキラースネークを締め上げる。
サイクロプスと力比べをしたレオンならば、このまま両肩を粉砕するのも不可能ではない。
恐怖に駆られたキラースネークは必死に足を伸ばしてロープブレイクを図る。
「迂闊な真似はやめろ!」
セコンドにいたハデスが叫ぶ。だが、もう遅い。
片足となって踏ん張りの利かないキラースネークをレオンがリフトする。
レオンのたたかう。轟音と共に弧を描きながら蛇の頭がマットに叩きつけられた。
フルネルソンスープレックスが決まり、レフェリーがマットを叩きながらカウントを取る。
「ワン……ツー、……スリー!」
ゴングが高らかに鳴らされ、勝者であるレオンマスクの腕が掲げられる。
会場からは割れんばかりの拍手と応援。観客の足踏みが会場を激しく揺さぶる。
今日も魔王軍の野望はレオンマスクによって阻止されたのだ、
5/
「セミファイナル、レオンマスクVSキラースネーク30分一本勝負。
22分32秒、レオンマスクのフルネルソンスープレックス。
ファイナル、ハデスVSギガンテス無制限一本勝負……」
雷鳴轟く魔王城。巨大モニターの前に恭しく跪き、魔王は報告を続けた。
モニターの向こうにはペルシャ猫を撫でる老人のローブ姿が映っている。
彼こそが魔王軍の真の支配者、大魔王その人である。
「以上、前売り券も当日券も完売、立見席も収容限界まで入り、グッズの売れ行きも好調。
予定の12%増で収益が推移しております。次回のチャンピオンズリーグも期待できるかと」
「レオンマスクに助けられたな」
報告を聞き終えての一言に魔王は凍りついた。
動揺を押し殺して、彼は大魔王の言葉を否定する。
「お言葉ですが、事前のマーケティングによると……」
「では聞くが、単独興業でキラースネークにセミファイナルが務まるか?」
魔王は自分の心臓が掴み出されたかのように錯覚した。
キラースネークは優秀なベテランジョバーだが華がない。
その燻し銀なスタイルはコアな固定ファン層を持つが、まず一般受けはしないだろう。
今回は勇者を倒したという肩書きで盛り上げたが、観客の反応はシビアだった。
キラースネークをセミファイナルに持っていくならば、
スター選手全員のバトルトイヤルをメインイベントにし、空いた枠で無理に押し込むぐらいか。
これまで魔王軍に尽力してくれた選手だけに何とか機会を与えたいが、それさえ難しいレベルだ。
冷酷非情である大魔王には、客が呼べるかそうでないか、それだけが全てなのだ。
これがプロモーターでしかない魔王と、オーナーである大魔王の明確な差だ。
「レオンマスクには利用価値がある。駐車場での闇討ちなどで仕留めるには惜しい」
魔王の頬を冷たい汗が伝う。もはやレオン抜きの単独興業では客は呼べない。
だが正面から戦うにはあまりにも危険すぎる。
魔王軍はヒール団体だ。ベビーフェイスは負けが許されるがヒールは許されない。
一度でも土がつけば只の大口のやられ役となる。もはや客は呼べない。
絶対王者のハデスならば勝てるだろう。だが奴にはチャンピオンズリーグがある。
既にポスターも刷り終わり、前売りチケットも売り出している。
ここで怪我を負って休場すれば返金騒動に繋がりかねない。
かといって格下の刺客を送り込んだ所で返り討ちとなり魔王軍の名声は地に落ちる。
焦りを浮かべる魔王に、大魔王は助言する。
「奴を使ってはどうだ?」
「奴、とは……」
「そう、奴だ」
大魔王は、団体参加選手の膨大な数に加え、歳相応の物忘れから咄嗟に名前が出てこない。
かろうじて思い出した特徴を身振り手振りを交えて魔王に説明する。
その選手に思い当たった魔王はハッと顔を上げた。
その男は練習生でありながら、尊大な態度でトレーナーに制裁を課された。
しかし、逆にリンチに参加した練習生を含めた魔王軍5名を返り討ちにした挙句、
トレーナーさえも半殺しにし、そのまま独房(トレーニング器材付き)に送り込まれたのだ。
「獣の相手は獣が相応しかろう」
奴ならば確かにレオンマスクを倒せるかもしれない。
それに倒された所で、魔王軍には何のデメリットもない。
大魔王の恐るべき謀略に、魔王は討ち震えた。
遠く、魔王城の奥深く、独房から猛獣の如き咆哮が上がった。
レオンマスクは湾岸線をハーレーに走らせる。
今日の相手も強敵だった。だが奴ではない。奴は追い求める仇ではない。
亡き父、ローランド国王を駐車場で闇討ちし、再起不能にした覆面レスラー。
過去の幻影を払うようにレオンマスクがアクセルを吹かす。
奴は必ず魔王軍、それもスター選手たちの中にいる。
こうして相手選手を潰し続ければ出て来ざるを得ないはずだ。
レオンマスクは勇者ではない。復讐の獣だ。
控え室や焼肉屋で会った時には魔王軍とも挨拶を交わすが、リングの上は別だ。
『我が軍門に下るがいい。グッズのロイヤリティの半分をくれてやろう』
魔王の言葉を思い出し、レオンはさらにアクセルを開ける。
獅子の双眸が爛々と輝く。次の獲物を求めてバイクは走り出す。
次回『猛獣VS猛獣。掴め、チャンピオンズリーグ出場権!』に続かない