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死してなお超能力  作者: 小鳥遊咲季真
一話「嘘心兵」
5/7

その四

 僕は一人でいるのが好きだった。誰かといたくなかった。



 親が考える親は親としてではなく自分自身がどうかということで、育児や教育はそのための手段であり道具でしかなかった。親であろうとは思わないような親だった。ただの大人だった。



 教師が考える教師としての教師は良き大人、見本となるべき大人の姿で接することができるかどうかだった。それは僕のことを考えてくれているようで、まるでそうでないのだからひどく傷ついた覚えがある。授業や学校での生活は僕のためのものであるが、教師の生活は当然僕のためではない。ただの大人のためのモノだった。



 当然だった。



 同級生は他人に自分がどう見られているか思われているかどいう存在であるかだけを考えており、これもやはり自分のことしか考えていなかった。僕に向けられた優しさは他人を気づけないようにするためであり、自分への好印象のためであった。



 僕に向けられた友達というのはブランド品と同意のもので縄張りを教諭するだけの存在だった。店の店員は店のことでも客である僕のことでもなく自分の身と将来について考えていたし、ぼくの夢と希望とあこがれでさえ、やはり僕ではなく現実を見ていた。



 自分の欲求を他人に求めるという実に身勝手で自己中心的な世界解釈ではあるのだが、一人で生きていく力のなかった僕にできるのはやはり求めることだけだった。対価として支払うのがいじめっ子へのお小遣いでも、ただ隣を歩いてくれる彼女とのデート代でも、そんな自分を作るための費用だとしても、求めた欲求に対すればずっと安く感じたし進んで支払った。



 でも、それは生きるためにしかならないから嫌だった。やっぱり一人の方がいいと思った。寂しさから他人を求め、僕のことを見てくれていないことをまた確認して、また一人の良さを知る。学習してきたはずなのに、繰り返す愚かさだった。それが虚空のものであり、僕に向けられた、与えられたと思っていたすべてが偽物で、実は何も実際は満たされていなかったのが分かった時。僕は人生とか、人間とか、幸せとか、生きる意味とか、宿命とか、道理とか。数学とか、国語とか、歴史とか、知識とか、教訓とか。愛とか、正義とか、悪とか、敵とか、味方とか、普通とか、世間とか、地位とか、名誉とか、偉大なこととか、卑劣なこととか、仁義とか、礼儀とか。僕が僕であるための僕としての僕が感じられるはずの指先の震えとか、息遣いとか、見ている景色とか、それらを認識している脳とか。

 


 心とか。

 


 感情とか。

 


 やっぱり、僕とか。



 解にも成れない分かるはずがないものを分かろうとするために求めたのが求まらなかったから僕は死んだ。死を選んだ。そうだった。そういえば、確か、それで僕は死ぬことよりも最低な、生きることを止めて命を投げ捨てる選択をしたのだ。



「クギュ!」



 僕の目の前に一匹の妖精がいた。僕はこの子に先ほどイフという名前を付けた。


 イフ。漢字にすると畏怖。ただ何かに怯えているだけで、震えていた感情だ。なのにこいつはまだ戦えというらしい。僕が生み出した僕自身でもあるというのに、なんと生意気なんだろう。



「お前に任せてもいいか」

「キュっ!」



 僕は自分の感情に任せることにした。感情というのはおかしなものだが、同時に最強なのだと僕は今日思い知ったんだ。敵うはずもないのに、理由も理屈も理論も損得勘定も何も持ち合わせないのに。僕はこの感情だけでまだ、生きようとするのだからおかしなものだ。死してもなおこの超能力的感情で生きてしまうのだからおかしいが、しょうがない。死を望んでいるはずの僕は生きることを選んでしまったのだ。あとはそんな僕自身に任せるしかあるまい。



 生きることに意味が見いだせないのならば、きっと死ぬことにも意味は生まれない。だから死ぬことが許されなかった僕はきっと生きることも許されないのだろう。僕がこの世界に、モグラが支配する世界に来たのは正解だったのだ、きっと。



 それならば仕方があるまい。



 僕がここに来るべくして来て、ここに立っているのだと、もしそう思うしかないなら。残念ながら僕に許されるのは死にながら生きることだけだ。



畏怖イフ――結鵺(コネクト)



 僕は顔を上げ、手の平にイフを乗せて言った。イフは何かを手に入れて僕から飛び降り、光って消えた。おぞましかった兵器たちはその光が散るのに続いて次々と火の玉になり、徐々に地の瓦礫にたどり着いて灯となっていった。敵チームが声上げる前にこれは始まり、腕のガトリングも気が付けば燃え落ちていた。灯が照らし出す光からは先ほど散っていった光が現われ、それは次第に大きな一つの形になっていった。輪郭はあるが、はっきりとした形を持たず、定形ではなかった。その立ち姿は牛を立たせたような姿で、体の主成分は炎。顔と思われる部分に燈る光が目のように見える。



「頼むよ、イフ。僕の感情」


嘘神兵(イフリート)



 僕がささやいたその火の巨人の動力源は畏怖、つまり劣等感だ。何かを恐れるがあまりに積もりに積もってしまった僕の劣等感。抱え込む他に使い道をこれまで知らなかったのだが、間違えないように使えばこんなにも強力になる。大事なのはタイミングで、それが今だと僕の感情は判断したのだろう。



「コオオオオオオォ」



 雪崩れた地に立ったイフリートは目の光をより細くすることで悦びを表した。先ほどまで最強象徴していた兵器はすべて炎上。腕のガトリングも燃え盛る丸太と化したため外さざるを得ない。畏怖を与えられた最強の二人はただ見ることしかできなかった。


 敵二人の足元で燃えていた炎が急につむじ風となり回り始め、それが分裂して両手足を拘束。自由を奪い、焼き尽くし始めていた。ようやく状況を把握した男の一人は絶叫を上げて続けて、もう一人は絶叫を上げられずに口を開けたままでいた。僕の周りには他の三体の妖精達が集まってきて、スプラも足音を引き摺って僕の隣に来た。会場はとても静かになり、開始時からの実況ですらなぜかしゃべるのを止めて、こちらを見ていた。放送機材が壊れたように音沙汰もない。後ろに座る僕らのモグラだけがご機嫌だった。



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