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死してなお超能力  作者: 小鳥遊咲季真
一話「嘘心兵」
4/7

その三

 何も理解できないままに試合が始まってしまった。

 


 落ち着け。

 


 整理してみよう。これは明らかにイベント事で見世物だ。生死は問わないことから内容はおそらく人間同士の殺し合い。スプらが唯一説明してくれたのは超能力の発動の仕方だけ。グラサンとスプラの話から分かるのはこれが〝ココロ〟の能力を使用した超能力戦だということ。相手はさっきちらっと見えた大きな奴と小さな奴。小さい方はツインテールだったことから女子だと推測できるが、おそらくスプラのように秘技を隠し持っているのだろう。大きな奴はパワー系だろうか。それともテクニシャンか。得てして僕はどうだろう。自分のことさえわからないしわかりたくもないのに、自分自身の心なんて理解できるわけもない。



結心コンタクト……これ、なんだろうか」



 ただ豆を出されてもな。いや、出したのは僕なんだけど、一体どうすりゃいいんだよ。植えるのか? 食べるのか? 投げるのか?



「うらうらうらぁぁ、死ねやこらぁ」



 近くで起こる戦闘音はどこか隣町の出来事のように遠く聞こえた。くそう、戦いは始まっているではないか。このままではスプラは二対一で戦わなければならない。でも、どうすれば。



「ドースル?」


「……え?」



 僕の肩の少し上。そこにそいつはいた。緑色の葉っぱのような服を着た、よくアニメのキャラを縮めたキャラの……そう、ちびキャラがそこにいた。僕はなぜか反射的に豆を渡してみた。



「スルッ!」



 するとそれを口に入れて頬を膨らませてかじりだした。飲み込むとその妖精は両手に中国の刀のようなものを手にした。さらに、キンキン、と音を立てると同じようなキャラが三体増え、合計四体になった。僕は妖精のようなキャラの彼女らにそれぞれ豆をやると、皆それぞれ武器を手にした。一匹だけ手にしていたのは武器ではなく、何か粉のようなものだった。その妖精は何かに怯えるようで、見るからに引っ込み思案で恥ずかしがり屋な性格だった。彼女はそれでも勇気を振り絞って「はぅはぅ」とか「えいえい」言いながらそれを掛けてくれた。するとどうしたことか、僕は軽くなった。いや、体重がなくなったとか、不安とかの重荷が肩から降りたわけでもない。ただ、動きに重力とかの抑制がなくなったのだ。なるほど、これなら素人の僕でも少しは戦闘に参加できそうだ。



「僕の超能力は妖精を生み出すことか……ってことは、こいつらが僕のココロなのか?」



 それぞれ何か言っているが、擬音語ばかりでよくわからない。



「とりあえず、スプラを見つけないと」



 僕は手近にあった時計台に駆け込み、最上階の更に上にある時計の歯車が回る部屋まで行き、文字盤の隙間から周囲を見渡した。すると、スプラとあの大きな奴――やはり男のようで見るからに超能力は人智を超越したバカ力だった。触れた物質を分子レベルで分解できるとかかもしれない。後者の方でないことを願うが、見るからに戦況は圧倒的な劣勢。



「さあ、最強の二人が刀の少女を追い詰めていく。防戦一方のチームスプラは一体どうする」



 アナウンスも加勢し、更にはあのちびっこガールがどこからともなく爆薬を飛ばしている。なるほど、相手の手の内は何となく把握できたが、さて、どうしようか。



 今手元にある超能力は種から要請を生みだすモノ。出てきた僕の妖精は、



 ・弱気な性格で、主に僕に対する身体サポートのイフ。

 ・強気な性格で、二刀流を駆使するルー。

 ・純粋で天真爛漫な振る舞いを見せる回復ガールのキキ。

 ・無口で無表情で素直な性格の爆弾ガールのシイ。



 それぞれがアクションやジェスチャーで背丈以上の能力を僕にしっかりと教えてくれた。その可愛らしいしぐさに、緊張も和らいで落ち着いたので、その特徴を捉えるのに時間はかからなかった。名前もその場で決めた即興で便宜上のものだ。主に見た目やその性格から決めた。僕はようやく自分のできそうなことが分かってきたところで、何とか、どちらか一方を引き離して一対一にしないといけないのが最優先だと考え始めていた。



 あの屋上で終わらせたはずだったのに。終わらせる意味をまた探し始めるというのか。とりあえずは、始まる意味を探してみようと、そう思い、戦うことにした。もちろん、戦わない選択肢もあったが、スプラの力になれる可能性があるこの状況で何もしない選択肢が、なぜか僕の中にはなかった。



「おお……」



 次々空から襲い掛かってくる公園のベンチを、刀の切っ先で切り裂いて応戦するスプラの姿に会場は感嘆させていた。降り注ぐ爆弾もすべてやり過ごしている。予感通り、やっぱりスプラは強かったのだ。いや、たとえそうでも、このままではスプラもいつやられるかわからない。形勢というか、戦況というか、とりあえず反撃するための環境を作らなければ、このまま二人とも死んでしまう。それはそれでありかなとも思うのだが、せっかく手に入れたこの力だ。もう少し使ってからでも遅くはないだろう、と思い始めていたのも事実。なにせ超能力はすごい力を秘めているそうだからな。



 「よし」と一人意気込んで、建物からまた別の建物に飛び移って移動した。重力がなくなるのは新感覚で笑みが思わず出る。建物の陰から影へ移動。派手にやっている向こう側から、まだ気づかれていないはず。



「よし、シイ。こっから爆撃して気を引いてくれ」



 僕が妖精に命じたのはあくまで気を引く程度のこと――だったのだが、こいつは何を思ったのか身の丈の数十倍はあるようなボムを作り出し、目をバツにしながら力いっぱい投げたのだ。無論、そのボムの威力は大きさに比例しており、敵がそれに気づいたときにはステージのオブジェクトとして現れていた巨大な蟹やとうきびごと吹き飛ばした。試合は一時騒然となって、いい意味で中断した。



 観客から注目されたのはその爆風から何が出てくるかだった。それは一振りで漂っていた煙を吹き飛ばしたスプラによって徐々に見えてきた。ステージの半分ほどはさら地となり、両腕でやり過ごしたでかいやつとその陰に隠れていた小さなツインテールは無事なよう。さらに、それらプレイヤーと観客、巨大モニターにさえ注目されてしまったのが誰言おうこの僕である。傾きながら沈んだ時計台の上に立っていれば、なおのこと目立って仕方がない。それは本来の目論見通り相手の気を引くことはできたのだが、僕はその先のことを考えていなかったのが問題だった。



 当たり前だがとても良い標的である。



 これを見た小さい方が獲物を見つけたと言わんばかりに、にたりと微笑むと爆弾を複数放り投げ、小刀を両手に握りしめて突っ込んできた。僕は、咄嗟のことで身構えることしかできなかったが、妖精のフォローで剣を手に何とか応戦。妖精は両手を腰につけて胸を逸らし、得意げである。どうやら褒めてほしいのだろうが、残念ながら僕は今手が離せない。すると望みが叶えられないと分かった妖精はどこかへ消えてしまった。怒らせたくはなかったが、仕方がない。



「いやー、いいね。すごくいいじゃん。スプラが敵だっていうんで期待してたんだけどあれだからね。ちょっと肩透かしでがっかり。なかなか退屈していたんだけど、お前面白いことしてくれるじゃん? いいね。 いやー、ん? なに? 最高じゃん。んん???」


 

 口数が増えても手数は減らなかった。僕は徐々に傷を増やしていた。



「そういや、てめぇ見たことねぇ顔だなぁあ、ああ? 新入りか? 誰だか知らんけどいいねえ、すごくいいよお。くくく、ホント面白いことしてくれるじゃねぇか。なあ、俺っちの前で爆弾使うとかよぉおおお!!!」



 この場合の面白いってのは、爆笑ではなく愉快ってことだよな……くっ。



「くくく。なんだまだまだひよっこじゃん。んー、面白いけど弱っちぃなあ」



 死んだばかりの人間をすぐ戦場に放り出し、そこでいきなり爆薬と剣術を操れっていうほうが無理難題な気がするのだが。しかし、くそう。防戦一方だし、もうすぐで殺されそうだ。



「おっと隙あり」



 刹那、僕の立派な妖精の剣はいとも簡単に飛ばされてしまった。それは地に着いた途端光となって消えてしまったので、やはり超能力の類を僕は使っていたのだと改めて認識した。超能力を使ったのは僕ではなく妖精なんだろうけど。



「よし、ひとりめー」



 僕はまた死ぬのか。いや、ようやく死を迎えられるのか。最初からこれを望んでいたのにな。



 そう。本当にこのまま気楽に死ねたら僕の人生も少しは平穏に閉じられた。きっとそうなのだろうが、なぜかこの世界もそれを許してくれなかった。



 どこからともなくスプラがいきなり現れて二人の寿命を縮めたのちに、敵に一矢報いることに成功したのだ。



「――油断はいけない」


「きゃっ……ぇぇ、ぁ、ああっ」



 スプラの切っ先は敵のツインテールの右側――彼女にとっては左側を捉え、完全に切り落としていた。今まさにその状況を確認して戦いている彼女側に立って言えば切り落とされたのだ。このような戦場に放り込まれている以上、僕らと彼女らに境遇の差はたいしてないだろう。でも、だからと言って人間であることには変わらない。どんなことが起ころうと人間は人間だ。譲れないものは譲れないし守りたいものは守りたい。踏み越えてはいけない一線があるのもまた然り。 



「助かった。まだ、死ねなかったから」


「スプラ……?」



 その一線があるのは相手も同じ。



 敵の小さい方、つまり女子である少女はわなわなと文字通り戦き、震えていた。それから次に彼女の視界に入り込んでしまった僕らに残された選択肢は一度逃げる以外なかった。



「こっ、ころ……殺してやるううううう」



 四方八方、十六方位、天地玄黄が爆弾・ミサイル・その他殺傷能力を秘めた爆発物で覆われ、そのすべてがすべてを無きモノにしようとしていた。いや、僕から言えばされていたってことなのだが、それでも周りの景色をなんとか確認できていたのは妖精たちの尽力によるところが非常に大きかった。



「きゅううう」



 イフとルーが懸命に僕への被弾を防いでくれている。なんとか僕は落ち着ける物陰に入り込み、妖精共々息を整える。キキとシイはスプラの援護に回ったはずだけど果たして――。



「クヤシイ!」

「キイ!」



 二人は戻ってきてしまった。二人とも非常に悔しがっているのが僕を更に焦らせる。



「スプラっ」



 飛び出すと辺りはほんとにさら地になっていて、僕らが身を潜めていた場所が唯一瓦礫として突きだしていた。砂ぼこりが膝元辺りを覆うなか、僕が目にしたのはスプラが宙に吊し上げられるところだった。あの大きい方の大男にスプラは片手で締め上げられていた。もう一人は探すまでもなく後ろから声が聞こえた。



「最強とかさ、なんかさそういうふうにあたしら呼ばれてるわけなんだけど、それって戦うまでもなく勝てるってことなんだよね。ここまで苦戦するとさ、さすがにもう言われなくなっちゃうかもしれないね。あーあ。――あっ、あと、私のだいじな誇りを傷つけたあんたらは殺す。殺すから。絶対殺すから」



 僕はその少女にいつのまにか後ろを取られていた。何か拳銃のようなものを突きつけられているのだと感じた。僕が訳もわからず戦っている相手はどうやらその訳を熟知した人達らしく、幾度行われたであろうこのような戦場のプロであり、最強と自称するぐらいだから圧倒的なその物量能力を思う存分振り撒いて来たのだろう。



 敵うはずないじゃないか、と泣き言を言いたくなった。



 なんだこれは。死ぬ前ですら、罰が必要だというのか。



「両手ぐらいあげたら? 降伏したって見なしてあげられるわよ。殺すけど」



 それでも僕は必死になるしかなかった。それ以外なかった。あの少女を、スプラを僕のせいで殺してはいけない。死ぬときは誰もいらない。一人で十分だ。



 歯を食いしばって回し蹴りで後ろを牽制。すると予想していなかったのか、少女がわずかに離れた。僕は銃弾が当たらないことを祈りながら、その隙に軽すぎる四肢を地に叩きつけてスプラの目の前に移動した。



「まだ、だっ!」



 スプラと大男の間に入った僕はそこで妖精を召喚。ぽんっと現れ出たまんまるな爆弾によってそれぞれ逆方向へと飛ばされていき、互いに同じぐらいの距離でブレーキを掛けた。この向き合った二組を息すら忘れて見入っていたモグラ共も、ため息と感嘆と歓声が入り交じった空気で動揺していた。僕らの善戦は予想にはなかったらしい。僕はもう必死に足掻くことしかできなかったのだが、それも終わりにしよう。



「ねえ、ジロウ。私たちが最強って言われている理由をさ、この子たちにならきちんと見せてもいいと思わない?」


「そうだな。そうしようか、ハニー」



 僕は相手のその自信に満ちた気持ち悪い言動に身を構えた――つもりだったのだが遅かった。構える前にすでにもう相手の最強は発動していて、僕らはその術中にいた。細工は流流仕上げを御覧じろとはまさにこのこと。そう、発動する間でもなく彼女らの最強は初めから仕込まれており、それがただ目の前に、今現れたというだけである。



「どう? 驚いた? そこのお嬢ちゃんと観客はすでに知ってるだろうけど、まあ、せいぜい見られて光栄に思うべきよね。あたいら滅多に本気出さないんだから」



 さっきのミサイル集団とは比にならない多さだった。戦車というのにはお世辞が過ぎるような銃口だらけの装甲戦車が複数僕らの周囲を取り囲み、デザイン性を失った核ミサイル車、自走迫撃砲が合図を待っている。まるでテレビで見る軍事パレードだ。更には遠隔攻撃ではないような機械もそのアームを上下させている。人が乗り込んで操縦しそうなアーケードゲームの筐体型。加えてそれらを操るテールを片方失った少女を肩車した大きな男が両腕に装備・抱え込んでいるのはパリ砲にバルカン砲を三つくっ付けたような物。イメージとしては、円を三つくっ付けてその中心に細長い戦車の弾を打つやつをくっ付けたかんじ。自分で言っていても訳が分からないのだが、どんな風に操縦して弾が発射されるのかするか理解するのに時間のかかりそうな武器であり――つまり、その弾幕に耐え切れずにこちらが死にそうだってことだ。



「――っ!」



 流石のスプラでもこれには圧倒されてしまっていた。後ろにいるモグラもこれには難しい顔をしている。向こうはまだ何か決め台詞を決めていたがもう頭に入ってこなかった。そういやなんで僕は死ぬことにしたんだっけ、って思い返していたから。



 ああ、そうか。そういえばそうだった。誰一人として僕を見てくれる人が居なかったからだったからだっけ。その程度だったなと思いながら、それがすべてだったとそう思い返していた。



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