表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

かえるのお気楽短編集

かえるの書捨て短編

作者: かえる

 タイトル雰囲気、中身も雰囲気、時代背景も雰囲気。時期外れのクリスマスのお話。

 実在性のある題材を使っていますがこれまた同じく。

 推せるところ皆無のなんとなく作品ですけれども、読んで頂けましたら嬉しいです。

      ☆ ☆ ☆


 12月23日、火曜日。

 雪降る街。ラジオからはジョンの声。以前はポールの声もスピーカーを響かせていた。

 子供たちが赤い服を着た小太りの紳士を待ち望む時期に、背広の中年男性が白い息を吐き歩いていた。

 羽織るコートの襟を立てるリチャードの目指す先は銀行である。


「いい加減、娘のプレゼントを用意しないとな」


 リチャードは仕事の忙しさを理由に、未だ娘へのクリスマスプレゼントが用意出来ていなかった。

 悲しむ娘の顔は見たくないと思いつつも、日々の流れは早い。あっという間に23日だ。


 今日こそはと、リチャードは財布の中身を暖(温)めようと仕事の合間を縫い銀行へ来ていた。

 プレゼントを買う為、お金が必要だった。

 彼の娘が欲しがっていた玩具はインラインスケート。

 最近、街の子供たちの間で流行はやっているシューズ型の鉄製ブレードにローラーがついた物だ。

 

 自分の番はまだかまだかと、窓口の順番を待つリチャードは、前に並ぶ老人の背中に糸くずが付いているのを発見する。

 そんな彼が老人へ声を掛けようか掛けまいか、迷っている時だった。

 周りがざわざわとざわつき、空気が張り詰めたものへと変わった。

 原因は2人のサンタクロースにあった。もっと言えば、サンタクロースの格好をした2人組の男。更に突き詰めれば、男達が手にしている拳銃が騒ぎの元である。


「銀行強盗か。なんて日だ。ツイてない」


 リチャードは自分の悲運を嘆き、立ちすくんだ。


「チキンがねえクリスマスなんて、クリスマスじゃねえーよな。なあ、シド」


「……」


「そうだよなっ。クリスマスはチキンと言っても過言じゃねえって俺は思う」


 もはや声が大きすぎて、誰に喋りかけているのかわからない、小柄なサンタ、ニック。

 そのニックの隣にいる大柄なサンタ、シドはだんまりなのだが、彼らの会話に支障はないようだった。


「だからよっ、銀行員のお嬢ちゃん。チキン代よろしく頼むわ」


 ニックは肩に下げていた白色に塗った大きな麻袋を、銀行員に渡す。もちろん拳銃をチラリチラリと見せつけることも怠らない。ご機嫌なのか、腰をふりふりさせているサンタであった。

 そんなサンタへと向かって、歩み出る少年がいた。


「サンタさんは、お金が欲しいの?」


 少年には、拳銃を持つニックの手が振りかざされていた。

 ニックは咄嗟とっさとはいえ、応戦態勢を見せてしまった自分に気付き、バツが悪そうに唇を尖らせ顔の中央にしわを寄せた。

 当人は、振りかざす行為が拳銃の扱いに不慣れな事をあらわす、とは気付いていないらしい。


「坊主のサンタクロースには、金なんかいらねえ。だから代りに、俺達がもらうんだよ」


 小柄なサンタは首をすくめる少年にそう告げると、少年の側にいた母親を見て舌打ちをし、更にその後ろで並ぶ老人を見て唸り、また更にその後ろにいる背広を着た男性を見てから、ふんっと鼻息を鳴らした。

 ニックは背広を着た男性の方へつかつか。

 空いた場所へは寡黙かもくなシドサンタが交代するようにして立つ。

 そうして、シドは少年の頭をなでる。


「おい兄ちゃんっ。あんたジョンとポールどっちだ?」


 ニックのいきなりの問いにリチャードは、戸惑い、驚き、そして明らかに私の方が年上なのに――と、反感を抱きつつも、恐怖は味わっていた。

 ロック・バンドが好きらしいこの男の機嫌を損ねたら、拳銃で撃たれやしないだろうか。

 どうしたものか。どちらか選んで答えるべきなのか。

 リチャードは逡巡しゅんじゅんの末に答えを出す。


「……ジョン・レノンかな私は……」


「そうかいそうかい。俺はキースが好きなんだぜ」


 リチャードがその台詞を聞くや否や、彼は他のアーティストが好きらしいサンタの男から、がんっと殴られる。

 振り上げた拳を叩きつける事が出来たニックサンタの機嫌は、まずまずといったところだった。






 12月24日、水曜日。

 リチャードは病院で、貸し出されていた新聞を読んでいた。

 朝刊には、サンタクロースからのプレゼント関連の話題がちらほら。

 その中には『孤児院に大量のチキンが贈られる』という珍事も載っていた。

 リチャードは、世の中には変な寄付者がいるなと思いつつ、今日こそはプレゼントを買わねばと、痛む頬に手を当て決意する。

 病院での治療を終えたリチャードは、昨日に引き続き近くにある銀行へと足をのばした。


「結局、治療費やらなんやらで、お金を使ってしまったからな……」


 これじゃプレゼントが買えない。今日を逃すと買う機会がない。ブツブツ独り言を言い、リチャードは銀行にて窓口の順番を待つ。

 そんな彼の耳に、記憶も新しい聞き覚えのある声が聞こえてきた。大きな声が更に大きくなる。


「ケーキがねえクリスマスなんて、クリスマスじゃねえよな。なあロバート」


 サンタクロースの格好をした2人組が、がなる。もっと言えば小柄なサンタだけが、うるさくがなっている。

 更に突き詰めて言うと、ニック達はサンタクロースでもなく銀行強盗である。


「やっぱ、ケーキがねえとよお」


 ニックとリチャードの目が合う。


「ははは……どうも」


 娘へのクリスマスプレゼントと、自分の頬の心配をするリチャード。

 いつかどこかのクリスマス。

 ラジオからはジョンの歌う声。

 銀行からはリチャードの嘆く声が流れてくるのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ