娘たちの再会
<とうとう二人目のナイトが現れたか>
「は、はあ…。」
<ジェイク、そなた気づいたか?>
「何がでしょうか、閣下。」
<しらばっくれるでない。まあよい。風のエレメントを盗んだだけでも今回のそなたの失態は見逃してやろう>
ジェイクはぎりり、と唇を噛んだ。
「も、申し訳ございません閣下。」
<種はいずれ芽を出し、花を咲かせ散っていく。それはそなたとて例外ではない。>
「はい…。」
<だが、ナイトは違う。『あれ』は我々にとって、最大の脅威だ。>
「あんなガキが、ですか…?」
<ジェイクよ、ナイトを見くびるでない。ナイトは愛をうけ、永遠の花を咲かせる存在なのだ。>
「愛だなんて、くだらねえ。」
<そう、くだらない。だが、愛がなくては花は咲かぬ。ゆえにそなたは花を咲かすことができぬのだよ、ジェイク。>
「…閣下は、俺が不完全な存在だと仰いたいのですか。」
ジェイクはくやしさのあまり憤慨した。
と、同時にジェイクの全身に電流が走った。
「ぐ、があああ…!!」
<そなたは私に逆らうこともできず、愛されることも知らず、ただナイトに殺されるだけだ。哀れなものよの、ジェイク。>
は、は、と呼吸を荒くしながら、ジェイクはふらふらと立ち上がる。
『閣下の御前であるぞ!ジェイク!!』
<よい、エギーユ。よいかジェイク、私はそなたに『全てのエレメントを奪い、私に捧げれば自由の身としてやる』と約束したな。なのにそなた、先ほどの戦いで『破壊』と『契約』を奪い損ねたな。>
「そ、それは…俺は昼間には力が半分しか発揮できないからでして…」
<そんなものは言い訳にすぎぬわ>
ひっ、と小さく悲鳴をあげてジェイクが床にひれ伏した。
<エギーユよ、時は満ちたようだ。ジェイクの力の制御をはずしてやるがよい。でなくてはこちらがナイトにやられてしまう。>
『承知いたしました、閣下』
「力の…制御?」
<『娘』たちとて同じよ。常に自分の力にリミッターをかけておる。だがあやつらはそれでよいのよ、気づかずともよいのだ。我々だけが力を手に入れればよい。さあゆけジェイク、ナイトが完全な力を得るまえに、エギーユにリミッターを外させ今のうちにナイトを殺して来い。よいな?>
「は…閣下。承知いたしました。」
「…とりあえずジェイクは帰ったけど…皆無事かしら?」
屋根のない大聖堂の中、4人はどうやら無事だったようだ。
「ふう…」
僕は全身から力が抜けていくのを感じて、その場に倒れてしまった。
「んもー!カスパールってば!これから大仕事しないといけないのに手伝ってよねー!」とシェイムは不満たらたらにいってのけた。
「仕方が無いでしょうシェイム。初めて戦ったのよ。」
「わかってまーすよーだ。仕方がないなあ…。」
シェイムの両手から、淡い光が立ち上る。
「力の制御術式解放、破壊のエレメント逆詠唱「再生の花」!」
シェイムがそう叫ぶと、みるみるうちに壊れた大聖堂が元通りの形に再生していった。
「あら…シェイムも逆詠唱なんて高度な技が使えるようになったのねえ…。」
「『エンゲージ』姉様…そんなのんきな。」
そういいながら、大聖堂に入ってきた女性がいた。
「ネフィール姉様…お久しぶりです。」
「堅苦しい挨拶はいいから、エリーヤ。そんなことよりこの子をなんとかしないと。」
ぜーぜーいいながらも、シェイムもこちらへ戻ってきた。
「ネフィールねえちゃん!」
「シェイム、ちょっと見ないうちに腕あげたじゃない。すごいすごい。」
「申し訳ございません…遅くなりました。」
「アイシーン、大丈夫よ。」
「その子が新しいナイトですか…ちょっと命の力が弱りかけていますね。急激に力を受けたからいくら受容体持ちとはいえリミットを越えそうになったんでしょう…。」
「お願い、アイシーン。」
「わかっておりますエリーヤ姉様。アイシーンの名において治癒のエレメントに命ず、「生命活性」!」
夢を、みている。
エリーヤが、僕を呼んでいる。
暖かい。
母さんがいたら…僕をこんな風に抱いてくれるのかな。
母さん…僕にだっていたはずの母さん…。
なのに、それを奪ったのは、ジェイクなのか…。
許さない。
母さんと父さんを僕から奪い、お姉ちゃんたちを泣かせるジェイクを、許さない。
そう思った瞬間、僕はがばっと起き上がった。
「カ、カスパール!大丈夫!?」
エリーヤが心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫、エリーヤお姉ちゃん。僕は…そんなことより、ジェイクを倒さなきゃ。」
「…え?」
「僕から両親を奪い、お姉ちゃんたちを泣かせるジェイクを…僕は絶対に倒す。」
そういうとカスパールはふらふらと立ち上がった。
エリーヤがカスパールの右腕をぐっと掴んだ。
「だめよ、まだ、だめ。動いちゃだめ。」
しかしそんなエリーヤを振りほどこうとしたとき…後ろから声が聞こえた。
「エヴァンジェリンの名において守護のエレメントに命ず、「光のゆりかご」!」
そこにたっていたのは、末の妹、エヴァンジェリン・エイス・ロタティオン。
「エヴァ…。」
「憎しみではジェイクに勝てませんからね。憎しみに染まったナイトなんて弱くて使い物になりません。」
みんなが肩をすくめた。
シェイムですら、「エヴァ、あんたもうちょっと言い方ってもんないの…。」というくらいだ。
8人の娘たちが、気づけば揃っていた。
「さあ…次の戦いの対策を立てるわよ…。」
エンゲージが、意を決したようにみんなに告げた、