不法侵入系乙女3
不法侵入系乙女の第4作目です
今回のお話で主要キャラはほぼ出揃いました。
感想・評価をいただけたら幸いです。
教師同士の会話の口調は妄想です。
普段は敬語で喋っていますが、職員室でならタメ口なんじゃないかと思いましてこうしました。
俺は朝のニュースの占いが嫌いだ。
当たらない上に最下位の奴には散々なことを言ってのける占いが。
俺はそんなもの信じない。
例え、順位が最下位でラッキーアイテムがスコップとか言われても絶対に持たない。
俺は占いが嫌いだ。
昼休みである。
昼食は学校生活の中でも生徒達にとっては楽しみの一つだが、それは教師にとっても同じことが言えよう。
もしかしたら、他の先生方は違うのかもしれないが俺はそうなのだ。
準備してきた弁当箱を広げようとした時に同僚の先生が声を掛けてきた。
「あ、二階堂先生は今日も自分で作ったんだ」
「えぇ、料理は嫌いじゃないですし」
二階堂正人、それが自分の名前だ。ちなみに、声を掛けてきた同僚は海老原直哉という人だ。
彼は既婚者で3ヶ月前に結婚した。
結婚式に呼ばれたときに聞いた話では3歳からずっと一緒だった幼馴染と結婚したらしい。
羨ましすぎる。
現在は26歳で、自分よりも二年先輩なのだが年が近いせいもあってこの学校では一番仲がいい教師だ。
「そういう海老原先生は愛妻弁当なんでしょ?」
ちくしょうめ。
「ハハハ、まぁそうなんだよね」
幸せで爆ぜてしまえ。
「新婚なんですから当たり前だよ」
惚気か。いや、振ったのは俺なんだけど。
「俺もそろそろ結婚を視野に入れた女性と付き合いたいですよ」
嘆息する俺に海老原先生は「いつかはできますよ」なんて根拠のない慰めをして、先ほど惚気た愛妻弁当を広げ始める。
いや、別になんも考えないで結婚したいとか思ってたら一日で終わるんですけどね。
あのストーカーは好感度が振り切ってるようなので、後は俺が好きになるかどうかだろう。
ぶっちゃけ、今もたまに怖いと思う相手と結婚とかありえない。
もう少し普通だったら、なんてもはや数えるのもやめるレベルで妄想した。作る料理は上手いし、ルックスもいい。何より俺のことを本気で好きだと言ってくれるのは嬉しい。
だけど、不法侵入はやめない、合鍵は強奪、俺の盗撮、下着が数着紛失するとかストーカー以外の何者でもない。やめたらいいのにという俺の言葉は「愛が抑えきれないんです」という意味が分からない反論に封殺される。あいつといると愛がゲシュタルト崩壊を始めそうだ。
「―-――先生?二階堂先生?」
「はい?」
「僕の話聞いてた?」
「どうせ惚気でしょう?」
「聞いてないならそう言ってよ」
しまった、ボーっとしてた。
「なんか心ここに非ずって感じだったよ」
「まぁ、そういうこともありますよ」
そう言って弁当を慌てて広げようとすると違和感を覚えた。
何故だか知らないが、ここでこの弁当は広げてはいけない気がする。
だが、弁当を詰めたのは朝のことだ。あいつが細工をできるわけがないと心の中で必死に違和感を打ち消そうとするが、最初にあのストーカーが細工をしたと思考した時点でもうなんかあるに決まっている。
「今度は冷や汗が出始めてるんだけど」
「え!?そんなことは……」
「目が泳ぐってこういうことを言うんだなぁ」
無視。
深呼吸をする。
よし、オーケーだ。これで何が起きても叫ばない。動揺を隠せ、言い訳を考えろ、脳を全力で稼動させろ。
「じゃあ、食べましょうか」
これ以上なく爽やかな笑顔だったと思う。
――――――弁当が広げられる。
そのまさに直後のことだった。
「二階堂先生、今日の練習メニューについてなんですが――――――」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!??」
叫んだ。
「うわっ」
「えっ?」
俺の叫びに職員室の先生は呆然としている。
俺にメニューを聞きに来たバスケ部のキャプテンは意味が分からないと思っていそうな表情だ。
「なんでもない、なんでもないんだ!」
言い訳ですらない。しかし、この弁当も入っていたメモも見られては不味い。
どうにかして見られないようにするしかない。
なんでこのタイミングなんだ、と不幸を嘆く暇もない。
絶対に勘違いする。ばれたらやばい。海老原先生もアウトだ。
とにかくこのキャプテンはさっさと追い出さねばならない。
「メニューについてだったな。それについては午後部のときに俺から説明しよう。だから教室に戻れ。いいな?」
なりふり構ってる場合じゃない。
「あ、はい。失礼しました」
しかし、この日の俺は何処までも運がなかったようだ。
一連の出来事がゆっくりと見える。
ヒラリと一枚の紙がキャプテンの前に落ちていく。
ゆっくりと拾われる。
何故か俺は見ることしかできない。
キャプテンは短い文章だったので全部目に映っただろう。
そして、「すいません!!」と頭を下げる。
しかし、俺は見逃さなかった。さりげなく視線を弁当に向けたことに。
何故か俺は動くことができない。
踵を返して職員室から出て行く。
背中を見るだけで分かる。
言いふらすつもりだ、あの野郎。
俺は何もできずに絶望するだけだった。
職員室中の先生に見られてしまった。
弁当もあのメモも。
「なんだ、彼女居るんじゃないか」
うるせぇ、海老原。
弁解など無意味である。この話は間違いなく先生たちも嬉々として言いふらすはずだ。
悪い話ならともかくこんなのは端から見るとただの惚気でしかない。俺からすれば、最悪もいいところの話だ。
もし、あのストーカーが狙ってやったとしたら怖すぎるが、そんなつもりもなかったのだろう。
そういうところに関しては藍彩は義理堅い。
完全なる不幸。いや、藍彩が勝手に詰め替えたことが原因なのだからそうとも言えないが。
一応、叱っておくか。
本気で嫌じゃないというのが質が悪いところだと思う。
「先生っていつから付き合い始めたんですか~?」
こんな感じの台詞を午後になってから何度聞いたことか。
その度に否定してもニヤニヤして納得したと言われても信じてないなと一瞬で分かる。
しかし、今まで聞いてきた生徒達は全員これを面白い話として受け取っている。
当たり前だ、教師なのだから。ほとんどの生徒は教師を弄るいい材料ができたとしか思わないのだろう。
だから、失念していたんだ。
生徒にとっても教師にとっても稀にではあるが、恋愛対象として憧れてしまうケースがあるということを。
それはドラマだけではなく、現実でも起こり得る事象だということを。
帰りのことだった。
「二階堂先生!!」
「なんだ?」
生徒達が帰宅を始める頃にまた呼び止められた。
「雛沢か……まさかお前もか?」
「えっと……はぃ……」
なんでそんなに恥ずかしいなら気にするんだ。
「言っても無駄かもしれないが、付き合ってはねーよ」
その言葉にパァッと顔を輝かせたのを見て、なんとなくだが察してしまう。だから、他の奴にはここで終わっていたが言葉を続けることにした。
「ただ、これから先に付き合うことはあるかもな」
罪悪感と自己嫌悪が胸を突き刺した。
「そうなんですか……」
「気をつけて帰れよ」
背中を向けて校舎へと歩み出す。
胸の痛みは暫く残留しそうだ。
人の好意を利用した。
人の好意と向き合わないままに終わらせようとした。
どちらが罪深いのだろう。
どちらにしても俺は最低だ。
「おかえりなさい、あなた」
「もうつっこまねーからな」
着替えてから用意されていた夕飯を食べる。
慣れてきた自分が怖い。
「なんで弁当を取り替えたんだ?」
「あ……その食べて欲しかったのと食べたかったからです」
申し訳なさそうなその表情を見ると強くは言えない。
「最初から食べたいと言えば用意してやったのに」
「その……すみませんでした」
「?……やけに素直じゃないか」
普段からそうしてくれよ。
「なんだか恥ずかしかったので……」
なんでだよ。
「まぁ、いいさ」
美味かった、と言っておく。明日からはそうしたいときはそう言えばいいとも。
メモも許しておいてやろう。元からそこまで怒るような事でもない。
『あなたを想って作りました』
『あなたのお弁当は責任を持って食べさせて頂きます』
『by十和』
たった二行で学校を揺るがすとは恐れ入る。
「なぁ、人の好意を利用した嘘と人の好意に向き合わないってのはどっちが罪深いんだろうな」
「分かりませんが、人の好意に関する冒涜行為は最低だと思いますよ」
「お前もそう思うか」
この日、占いは嫌いから大嫌いにレベルアップした。
ただの八つ当たりみたいなものだけれど。
・二階堂正人
主人公
・海老原直哉
既婚者
幼馴染とゴールイン
ラブラブ
主人公より二つ年上で学校で主人公と仲がいい同僚
・雛沢美咲
女子バスケ部キャプテン
・キャプテン
男子バスケ部キャプテン
男バスのマネージャーの一人と付き合ってる(二人女子マネージャーが居る)
名前はいつか出ます
次は3.5で過去編です
雛沢と二階堂のお話です
読んで下さってありがとうございました