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3.うつつな雨の日

 雨のシーズンのとある日のホームルーム、委員長が前に出て指揮を取る。

「今年の文化祭での実行委員と出し物を決めたいと思います。ではまず、実行委員を決めたいので、立候補の人は手を挙げてください」

 そんな題目でみんなはヒソヒソと悲観的な話をする。やりたくない。お前がやればいいんじゃん。そんな和にはほど遠い光景。

 私は興味が差してないので窓の外をぼんやりと見ていた。

 考えているのはもちろんお兄ちゃんのこと。

 雨が地面を濡らし、じめじめと空気を湿らす。

 そんな中でお兄ちゃんと相合い傘をして、身体が当たるか当たらないかの距離で恋人みたいに出来たら――

「立候補は無し。推薦でもいいので、誰か決めてください。私は学級委員なので当然無理ですが」

 ――すごくいい。

 シャツが透けて互いに少しばかり気まずくなって……でも嫌じゃない感じで……ん?

 何か複数の視線を感じて教室を見渡すと、クラスの全員が私の方を見ていた。

「ということで、実行委員は村井さんに決まりました。拍手」

 ――パチパチ……

 え……えっ?何?何が起きたの?

 私が妄そ――想像している間になんで私が実行委員やるはめになってるの?

 わからない。

 止めて。なんかすごく悼まれないから、すごく不安だから、だから拍手するの止めて……!

 こうしてやりたくない仕事を満場一致で押し付けられた。



 その日の放課後、お兄ちゃんは用事があり先に帰り、私は一人寂しく帰ろうと傘を探す。

「……て、あれ?確かここにいれたはずなんだけど……ないな…」

 かわいいピンクの水玉の折り畳み傘が見当たらない。

 朝には晴れていたからあとで鞄にいれようと机の上に置いて……机の上!そうだ、お兄ちゃんのことを考えて早く支度済ませた時に鞄の中にいれるの忘れたんだ――!

 ……ドジった。

 このままだと濡れて帰ることになる。

「……」

 窓の外を見る。

 衰えを知らない純粋な水の粒が雲から雨となって降っている。

 しょうがないかな。お兄ちゃん今居ないし、私が濡れたところで洗濯するのは私だし、問題はお兄ちゃんが今隣に居ないということだけ。それ以外は問題はない。

「……雨、雨、降れ、降れ、母さんがー……蛇の目でお迎え嬉しいな……ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん……。……はぁ」

 玄関で一人空を見上げて(たたず)む。

 こんな時お兄ちゃんはいつも傘を差して隣に居てくれた。

 けど今日は居ない。寂しいけど、それが現実。

 なんて感傷に浸ってみたり。

「……こんなことしててもお兄ちゃんが来るはずがないのに」

 そんなことはわかり切っているはずなのに。どうしてだろう……こんなにも会いたい気持ちが収まらないよ……っ。

「……お前、傘……忘れたのか?」

 お兄ちゃん!?

 振り向くと、そこにはいつぞやの自己チュー野郎だった。

 なんでこいつのことをお兄ちゃんと間違えたのだろうか。

 献身的で労り深くてかっこよくて優しくて、そんなお兄ちゃんとは天と地……うぅん、太陽と屑星とは全然まったく違うと言うのに。

「なら、傘貸すよ。ほら」

「……っ」

 傘を優しい声音を差し出して来る。

 なんだろう……なんか前と会った時と雰囲気が違う……?

 いや、これは罠だ。

 傘を手に取った瞬間に「嘘だよ。ざまあ見やがれ」とか言われるに違ってる。

 本当にうざい奴。

 お兄ちゃんを取ろうとする彩音なんかが居なければ、断トツで一番距離を取りたい人物ナンバー1なのに。

「女の子が傘を持たずに帰るのは関心しない。これを持って行くといい」

 だがそんな素振りを見せず、むしろ良心の呵責の塊みたいな行動を起こす。

「……なんのつもり」

 傘を無理矢理私の手に持たせ、それから不審に思った私は問う。

「なんのつもりとは?俺はただ女の子が困ってるのを見過ごせないだけだ」

「……」

 すごく怪しかった。

 前に会った時は上から目線で、周りの人達は自分の都合のいいものみたいな感じだったのに、今は誠実で紳士的な男の子に見える。

 ……意味がわからない。

 けど雨の日はいつも心が揺らぐ。

 憎たらしい気持ちも、肥えた復讐心も、寂れた悲しさの方が勝る。

 だからいつものように悪態がつけられない。

 こんな時に限って……憂鬱で鬱窟とした感情しか持てない。

 ――私が私でないみたいな…

「ではまた。俺は先に行く」

「――……え、ちょっとっ?」

 走って去る彼の後ろ姿がどうにも薄気味悪さを醸し出す。

 残るのは手に持ったコンビニに売ってそうな透明な白のビニル傘と、雨のせいで鬱になって沈んでいる私だけだった。

 モヤモヤとした不透明でこんがらがって複雑な心境が気持ち悪い蟠りを作り出す。

「……意味がわからない」

 私はしばらく茫然と立ち尽くしていた。

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