15.走る亀裂【文化祭・初日ー午後部ー】
どうして。どうして、こうなるの……!
「楽しいね、千勢君」
「そうだね。森田さん」
二人は仲良さそうに会話をする。それも、笑顔で。私の前で。
お兄ちゃんと森田さんは客。それはいい。けど、この状況は私の神経を逆撫でし度数ならぬ怒数を上昇させる。
私は兄さえ……お兄ちゃんさえ来てくれればそれでよかった。なのに!この女狐の糞ビッチが邪魔してくれた!ちょっとは信じていた遥和にも裏切られた!私はもう限界に近い。クラスの出し物で雰囲気を壊すのはいけないからと忍び耐えてはいるが、我慢はもう爆発寸前だ。もうこのまますべてをぶちまけて怒りを吐き棄てて全部壊したい。
けど、お兄ちゃんの前ではそれはできない。きっと、それを計算に入れて遥和の悪魔は私に意地悪をしようとしてるんだ。邪魔しているんだ。
――お兄ちゃんとの関係を裂く為に……っ!
あいつは飛んだ穀潰しだ。敵だ……敵だ、敵だ敵だ…。敵だ、敵だ、敵だ敵だ、敵だ敵だ敵だてき!なんだ!!
絶対に許さない!
死ねばいい!みんなまとめて、私の前から消えればいいんだ――!!
「ご注文の品は以上で宜かったですか?」
裏のドス黒い感情を圧し殺して営業スマイルを浮かべて確認を取る。
「うん」
「OKだよ♪」
「畏まりました。では、失礼致します」
踵を返したあともそのまま笑顔をくっつけたまま仕切った教室の三分の一の裏へと入る。
まだ笑顔を貼り付けたままドス黒い感情が心の中で渦巻く。
どうして……どうしてどうして!
お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなのに!
昔からお兄ちゃんは優しかった……私に優しかった。誰にでもなんだけど……でも、それがお兄ちゃんなんだって、好きだったし嬉しかった。
私、みんなに好かれるお兄ちゃんが好きだったから。
「……ん、あれ…?」
何?この気持ち。
なんか、……ん~~~~、わかんない!
おかしい……自分で、自分の気持ちがわからない…。
モヤモヤする……今ムカついていたはずなのに、気持ちが揺らいで……よくわからない葛藤に苛まれる……。
「どうかな、千那ちゃん。楽しんでる?」
「……っ」
どの面提げてここに来てるんだ……時峰遥和。
私をお前が裏切ったんだ……!
「……」
「どうしたの?そんな暗い顔して。そんなんじゃいとしのお兄ちゃんを落胆させちゃうぞ」
お前のせいだろ、お・ま・え、の!
「まぁ、言いたいことはわかるよ。彩音先輩がなぜ、千勢先輩と一緒に居るのか、でしょ?」
「わかってるのだったら説明してよ。お兄ちゃんの隣にあの女狐が這っているのか」
「なんだか彩音先輩が可哀想だ。そんな風に呼ばれて」知らない、そんなこと「あのね、あれは私の仕業ではない。って言っても信じて貰えないかな?まぁ、当然かな。千那ちゃんは私がどう思っていても、友達だなんて思ってくれてないしね。けどね、これだけはちゃんと言えるよ」
女狸……遥和が何か言っているが、どうにも信用し難い。私の想いをここまで踏みにじって、純情な乙女心に秘めた想いをずたずたにしやがって……憎い。憎い。もう他の女は信用出来ない。お兄ちゃんに近付く奴らは徹底的に排除してやる。
「私は千那ちゃんと友達になれてよかったよ」
「……そんなこと言って、私は騙されない」
「うん。まぁ、そうだよね。あはは……もう少しうまく出来れば良かったのだけど、これは仕方ないね。けど、これは私のサプライズじゃないから。まだ取って置きがあるんだ。だからね、期待しなくても信じて貰えなくてもいい。耳に入れてくれれば……それで」
心から願ってるような、想ってるような、そんな響きある遥和の言葉は、私には届かない。黒で塗り潰された私の心境はもう誰も、信じることが出来ない。兄以外は。
「村井さん、時峰さん、注文お願い」
「あ、うん。わかった!」
「……」
足が重たく、まるで錘になったようだった。動こうとしても、鉛のように鈍く動かない。
「……っ」
もうわからない。
色々な考えや想いなどの葛藤が心の中で渦巻いて体のコントロールが利かない。
自分さえも壊れてしまったのか。兄を想うばかりに、他の事を放棄をしろと……体が拒否反応起こしてるのか。
……わからない。わからないよ……っ
頭と心が重く、海の底へと沈んだように息が出来なくなり、そこで私の視界は真っ暗になった。




