13.アクシデントの次の日は本番
クラス内部の作りはほとんど完成した。
あとは細かい部分を徹底するだけだ。
机で作ったテーブルの位置や色んな紙で作った装飾品に、出入り口の看板など。
衣装はもう出来たらしいし、私以外はみんな試しに着てみている。
次々と出来た所をチェックして溝を埋めていく。
あとは必要な分の買い出しと、足りない分の補充は……と。
「ふふん♪」
「……」
「ふんふ♪」
「……」
「ふふんふ♪」
「……」
「ぽんぽこりん♪」
「――ぶふっ」
「やーい、千那ちゃん吹いたー!」
子供か!
てか騒ぐな、周りに迷惑だろうが!
そう思ってるのは私だけで、教室内で仕事分担しているみんなは特に思う所はないようだった。
そのうざったい程のカリスマ性をもっと別の所で役に立ててほしかった。
最近なんだか口が悪くなってる気がする。心の中はともかく、リアルに自然と悪態をつくようになってしまった。
これも、私にまとわりつく虫のせいだ。
索、遥和、それににっくき天敵の彩音。
他の人なら普通に優しく接することが出来るのに、これらはなぜだか地が出てしまう。
お兄ちゃんは別だけど。
どんなにムカつくことがあっても、クラスの子達にはいい子で人気者で優等生な村井千那は笑顔(作り物だけど)で居ることが出来る。
それはなぜだろうと思う。
まぁ、特に意味はないだろう。
敵か味方か、ではなく、好きか嫌いか。
そんなシンプルな思考でもいい気がしてきた。それはそれ、これはこれだけど。理解は出来ても、納得がいかないのと同じで、理屈を捏ねてもどうもそれを実行するのとは別なんだ。
「と、いうことで、ちゃんと手伝って」
「うん。元からそのつもりだよん♪」
「……だったら最初から真面目にやってよ」
「だって千那ちゃん難しい顔してるんだもん。だから和らげてあげようかと、ねっ?」
何が、ねっ?なんだろうか。邪魔して来てるようにしか思えない。
「ちょっと、何やってんのよ!」
私が遥和に仕事を与えていると、部屋の後ろから怒声が聞こえた。
振り向くと、クラスの女子達が何か言い争っているのが見て取れた。
「……何が起こったんだろ」
「……」
遥和は無言でその様子を見ている。
いつもなら何事かと騒ぐはずだが、静かに無表情な顔をしているのが気持ち悪かった。
けれどそればかりに気を使ってるわけにもいかない。女子達に何があったのか、実行委員として聞かないわけにもいかなかった。
「ねぇ、何かあったの?」
「あ、千那。この女がね、ここに置いてあった財布が入った袋をどっかにやったのよ」
「そうなの?」
名前は覚えてないが、もう一人の方に訊いてみる。
「……うぅん。違う。わたしじゃない」
毅然とした態度は、嘘を吐いているようにみえない。
「嘘よ!あたし見たんだから。あなたがクラスのお金が入った財布が入った袋ごとどこかに持って行く所!」
だけどこっちも嘘を吐いているように思えない。そう思わせる程に真剣だったから。
「だったら、真相を暴いてみようよ」
そう言ったのは誰でもない、さっきまで黙っていた遥和だった。
「それで解決出来れば二人は上々友情で万々歳」
いやらしい顔を浮かべて、楽しそうに言う姿は、さっきまでの恐怖に似た感情はなんだったのか、うやむやにさせて消し去った。
相変わらず唐突で何言ってるかわからなかったけど。とりあえず私欲と興味があるのはわかった。
「けど、どうやって?二人共嘘吐いているようには見えないけど……」
個人的にはどうでもよく、実行委員的には放って置くことが出来ないこの案件は、今の所クロスワードの穴のようには埋まらない。
まず埋める問題の素材が足りないから。
「……それはね」
「うん」
「――聞き取り調査をして情報を集めるのさ!」
「……」
割と普通で地味な発案だった。
その自信はどこから来るのか。
「それでいいよね、色条さん」
「……私は、それで構わない」
色条と呼ばれた大人しそうな彼女は静かに頷く。
「矢追さんも」
「……わ、私は犯人さえ見付かれば、それで」
矢追と呼ばれた声を荒げた本人は渋々(しぶしぶ)と頷いた。
というか、最近転校して来たばかりだと言うのに、どれだけカリスマ性を発揮するんだ。この女は。
まぁ、お兄ちゃん以外に興味がない私も私だけど。
「んじゃ、犯人捜し開始ー!」
こうして時峰遥和プレゼンツ、クラスのお金強奪事件(仮)の犯人捜しが始まった。
「犯人は、あなただ!」
そしてものの数分で犯人は見付かった。
「てか早っ」
私は展開の早さについ声が出てしまった。
さっき開始ー!って意気込んですぐに見付かるとは誰も思うまい。私も思ってなかったもん。
けど、犯人は誰?ここまでして、大したことなかったら、ぶち切れるよ?
「犯人は、矢追さん。あなたですね?」
遥和がどこぞの探偵のような話し方をする。
「てか、え?そうなの?颯茉さん?」
矢追颯茉。そう、今さっき思い出したけど、そんな名前だ。どこぞの企業の娘さんだとか。知らないけど。興味もない。
そんな彼女に確かめるかのように訊いてみた。
下の名前で呼ぶのは、彼女がそうしてほしいと言ったからで、他意はないんだから。一応誰に言うまでなく言ってみる。
「……」
すると、黙ってしまった。
「……どうして、私なの」
当然の疑問。だけど、唇を噛み、動揺をしている颯茉は黒であることを隠せない。
「それはね……切っ掛けは近くに居た人達の反応だよ。みんな揃いに揃って袋の存在を知らなかった。見てないではなく、知らない。それは重要なファクターじゃないかな?」
「……っ」
「だから私は思った。それを知ってるってことは、管理してる人か当事者だって、ね。管理してるのは基本は実行委員であるけれど、実行委員は千那ちゃんで、その千那ちゃんは今管理をし
いない。それは預けた人が居るから。相手は誰か……ことを大きくして自分に興味を惹き付けようとした矢追さん、あなたね」
確かに私は颯茉にお金の入った財布を渡した。足りない物品があるからと。そう言ったから。まさかこんなことになるとは思わなかったけど。
「そ、それは言い掛かりってもんじゃ――」
「――そうかな?」
反論を認めないと言わんばかりに遥和は続ける。
「確か矢追さんは、ここに置いてあったクラスの財布の入った袋を色条さんがどこかにやったと、そう証言したね?けど、色条さんはやっていないと言う。それはなぜか……」
「……それは、色条さんがどこかに持って行って――」
「――そのどこかとは、どこかな?」
「っ!?」
「実はね、財布は私の手元にあるんだよね~」
そう言って角を持ち、ぷらんぷらんさせながら見せる。
「……な、なんで…!?」
「それはね」
「あぁ、男子トイレでたまたま見付けてな。ここのクラスのシールが貼ってあったからな、念の為に俺が持って来たんだ」
「……っ」
教室後ろの出入り口で悠然と立って義務だと言わんばかりに説明する索。それももうひとつの人格の方の。
「で、でも、証拠はっ?私が隠したって証拠!」
「証拠は後ろだよ」
「……え?」
この、え?は私の疑問だ。
遥和が差した指は、色条に向かれていたからだ。
「さっきから色条花那、君は何一つとして主張をしていない。それが証拠さ」
「そんなバカげたこと――!」
「ないとでも?」
「――っ?!」
矢追さんは悔しそうに歯噛みする。
「……もう、いいよ。終わりにしよう。颯茉」
「…………花那」
色条は前に出る。
真剣な顔付きになり、白状した。
「犯人は、私です」
「……ち、ちが……っ、犯人は私で」
「二人が犯人。つまり、共犯だった…?」
「そう言うことだよ。千那ちゃん」
てかあれ?調査は?聞き取り調査だ!とか大見得切っていたのに、何この展開……あっさりし過ぎている。
事の顛末はこうだった。
二人は文化祭に出れない理由があり、準備をしてるだけでは満喫出来ない。その為にボイコットをしようとした。けど、普通にボイコットするだけではつまらないと考え、自作自演を思い付いた。そこで遥和と索を巻き込んでの探偵“ごっこ”が始まったわけで。
ノリのいい遥和は場をそれらしい雰囲気にしようとして探偵役を買って出て、盛り上げ役の土台として索は犠牲になったのだ。
なんともどうでもいい結末となった。
私も所謂ワトソンみたいな『助手』みたいな位置にされたのだ。なんて不愉快な話だ。
「これは余興だよ。千那ちゃん。明日の文化祭がさらなる盛り上がりの高みに進む為の、ね」
「……」
私は手で顔を覆った。
――知らねぇよ!そんな事!
そんな風に心の中で悪態をつきながら。
翌日の文化祭には二人は出られない為、残った人数での作業が遅くまで騒いで教室を見繕った。
明日は文化祭本番。そこでお兄ちゃんとイチャつくんだ。私はそれしかなく、みんなとの作業の中、明日の事でお兄ちゃんと何をしようか、今お兄ちゃんは何しているのだろうか。
そんな事ばかり考えたいた。




