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12.あっちでこっちで

 文化祭本番まで残り二日。

 準備は本格的になり、教室内の装飾や改造が許される期間となった。

 それにより、実行委員としての仕事量は増えて大変差は増すばかり。

 指示受ける人も出す人も休む暇のない作業の連続で、てんわやんわしている。

 もちろん、授業は休みで準備の取り組みに専念することが出来る。それでどこのクラスも口と身体を動かして準備に集中していた。

 もちろん、私のクラスも例外でない。

 持てる人員と時間を最大限に活かして動かし、教室をビフォーアフターしていく。

「千那ちゃん、やってるねー」

「時峰さんも無駄口叩いてないで手動かしてくださりやがれ」

「うわ、なんか丁寧語と罵倒語がミックスされて嫌悪感がひしひしと感じるー。結構辛いよ、それ」

「いいから手を動かして。時峰さんは家庭科室から作り終わったテーブルクロスをまとめて持って来て。出来ればダンボールで」

 暇そうにたかって来た遥和を無理矢理仕事を与えて働かせる。

「了解致しやしたー。じゃ、行って来るね」

 ばいばーい。と手を振りながら教室を出て行く。

 最初から仕事貰いに来たって言えばいいのに。ちゃかすことしか知らないのか。

「ちーっす」

 入れ替わりに見知った顔が出た。

「よ。はかどってるか?」

「はぁ。次はあんたか」

「なんだよ、悪いか」

「……別に」

 クラスではいい子を通してるので声のトーンを落として話す。

 てか、私の周りに居る人間はみな暇人なのか。

「どうやらここは順調みたいだな」

「まぁね。ほら私、要領いいから」

「自分で言うなよ。ま、実際そうみたいだから言い返せないけどな」

「そういう羽野君はどうなの?」

「こっちもそれなりにな。てか、その呼び方やめろよ。今さらだろ」

「私には凡人のあんたにはわからない体裁ってもんがあるのよ」

「……そりゃ大変なことで」

 嫌味なのか皮肉なのか、ぶっきらぼうに言う。

 この忙しい中話してる余裕はないってのに、みんなして私の所に来るんだから。でもまぁ、これってしてみれば私の人望?人徳?だったら別にいいかな?

 お兄ちゃんに会えない寂しさは、クラスの奴らを使って発散することにしよう。

「それで?羽野君は何しに来たの?」

「そんな邪魔者みたいな言い方するなよ。オレがここに来るのが嫌みたいじゃんか」

「え、口で言わないとダメなの?」

「……わかった。出るよ」

「うん。またね」

「……。こういう時に限っていい顔しやがって」

「(にこにこ)」

 索が教室から出て行くのを笑顔全開で見送る。

 さて、邪魔者は去ったことだし、本腰入れるか。

「村井さんって、羽野君と仲いいね。付き合ってるの?」

 同じクラスの女子がそんなことを訊いてきた。

「え、どうして?」

 作り笑顔で訊ねてみる。

「うーん?なんか雰囲気かな?他の子と話してる時となんか違うって感じ?」

「うんうん、そうだよねー」

 他の女子もそれに同調して頷く。

 そうなのだろうか。自分ではわからない。

 けど、だけど――

「安心して。私は羽野君とは付き合っても仲良くもないから」

 そう。私はあいつのことは対象外なのだ。むしろお兄ちゃん以外はみんな対象外だけど。

 だから付き合う気はさらさらない。

 寝言は寝てから言えって。あはは。

「それより、ほら、口より手と足動かして!まだすることいっぱいあるんだから!」

 変なことほざくとその口縫い付けるぞ?もちろん、針でね。



 放課後、大分模様替えが済んだ教室で一人整理している。もちろん、私が。

 どこか不都合はないか、何か忘れてることはないか、使用する物はちゃんと足りているか。

 他にも確認することはある。

 それらも私の仕事。

 めんどくさいけど、サボりはしない。

 私が放棄すれば、みんなもそうするから。

 このクラスは、私が中心みたいなものだ。

 だから、私が頑張らないと。

「やってるやってるー♪」

 音符を口ずさみ、嬉しそうなアホ面をして時峰遥和は私に近付いて来る。

「邪魔。どっか行って」

「やん、ストレート~♪」

 何が楽しいのか、言うことにいちいち癪に触る反応の仕方をする。

「あのねあのね。私のお父さんって、昔モテたんだー。あ、今もすごくモテるけどね」

「……それが何」

 そんな無駄話するなら出て行ってほしい。てかそれ、自慢話。

「けどね、少年時代苦労したらしいよ~?妹の病気に生徒会の仕事。あとは自分の将来についてとか」

「……それがどうしたの」

 呆れながらも聞く。

 気晴らしにはなるだろう。

「お父さんの妹、つまり私の叔母にあたるんだけどね。治らないかも知れないって言われてた病気なんだ。それも事故で発病した後天性のもの」

 なんか空気が重くなった。

 何が言いたいのか、わからない。

「それがもう大変でねお兄ちゃん、一人暮らしして学校通ったんだけどね?モテるわモテるわ、休む暇がほとんどなかったんだって」

 私はずっこけた。

 なんて脈絡のない話だ。

 話の内容がめちゃくちゃ。

「けどね、そんな中お父さんはね……探してたんだ」

「……探す?」

「そう。妹の病気を治す方法を、必死になって探してた」

「……それ、治らないんでしょ?」

「お医者さんからはそう言われてる。けどね、お父さんは元からあまり仲良くなかった両親に刃向かってでも方法を見付けようとした。そして──見付けた」

「……それって?」

「ハーレム王になること!」

 ……。

 …………。

 ………………。

 ?……え?

「……はい?」

「それがね、女の子を取っ替え引っ替えして人生謳歌するとか言ったらしいよ?」

「……あんたの父親、アホ?」

「意外とね」認めた「だって、他の人達は愛人で、本命が妹だったんだもの」

「……え?」

 何この話?どこまで本気で本当なのか、検討も付かない。

「『自分で見付けた幸せだからお前も自分で幸せを見付けて幸せになれ』そう妹さんに言って告白したらしいよ?なんかもう、自分の父親ながら奇行過ぎるね」

 それって、遥和の父親も、妹のことが好きだったってこと?

 私の……同類?

 いやでも、なんでハーレム?もっとすべきことあったんじゃないかな?

「まぁ、ハーレムは嘘だけどね」おい。「けどね、台詞や情熱は嘘じゃあない」

「……」

「それが私のお父さんなんだ。他人の、うぅん。身近な人を幸せを守る為なら、自分が傷付いてもそれは代償として受け止める。そんな、すごく優しい人なんだ……」

 目を細め、優しい表情をする。

 こんな遥和を見るのは初めてだった。いつもは、ふざけた風にしか、笑わなかったから。

「だからね」話を続ける「千那ちゃんももっと素直になってもいいと思うよ。結局お父さんは妹さんとは別の人と結ばれたけど、それでも、ちゃんと結果として“想い”は伝えたわけで。願いは叶ったからね」

 私から離れて、茜色の空が遥和を照らす。

「千那ちゃんも素直になって、お兄さんと話してみなよ。甘えるだけの妹ではなく、本当の妹としてさ。それだけで何か意味あるかもよ?」

 ――私これから用事あるから、じゃね~♪

 もう力が入らなかった。

 無気力になり、アンニュイなムードになる。

 一人ぽつんと教室に佇み、先程の言葉が頭の中で反芻(はんすう)する。


 ――本当の妹として、素直になる


 ――それだけで何か意味あるかもよ?


 ――本当の……私?


 正直わからなかった。

 甘えてる時も、意地悪する時も、一人で居る時も、全部本当の私。けど、違うのか?

 わからない。

 まだ話の内容がこびりついて離れない。


 ――私はお兄ちゃんを好きになっていいの?


 今さらな疑問だった。

 けど、だけど――

「……ダメだよね、私」

 ここで弱気になったら元も子もない。気合いを入れ、今は今、明日は明日で割り切って仕事に戻った。

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