11.どんより残業中
兄、村井千勢の元へ昼休みに私は来ていた。
「お兄ちゃん!」
「千那!」
台詞だけ切り取ると、生き別れの兄妹の涙の再会みたいだ。実際は違うのだけど。私はそのつもりだけど。
お兄ちゃんのクラスはあまり代わり映えのしない、いつもの教室だった。
それもそうか。本格的に準備を始めるの本番二日前の明日から。今日まではまだ小物とかの細々とした準備だけが認められている。
「どうした?」
「一緒に食べようと思って来ちゃった!」
「……そっか」
赤くなってるお兄ちゃんかわいい!
やっぱりお兄ちゃんと居るとなんだか落ち着くな。精神衛生的に。
他の奴らとは違う安らぎが得られるよ。
「それにしてもいきなりだね。ここ最近は忙しいみたいで一緒出来なかったみたいだけど……今日は大丈夫なの?」
「うん!だからここまで来たんだ」
笑顔で答える。
家でも色々話すけど、都合があったりするからこういう風に話すのもなんかいいな。
「……」
「?どうした千那」
教室の見渡す。今日はあの女狐、彩音の姿が見当たらない。
不審だったのか、そんな私にお兄ちゃんは首を傾げる。
「あ、うぅん。今日は森田さんは居ないのかなって」
「あぁ。森田さんは実行委員の人と一緒に居るよ。なんか、今日までに仕上げたいことがあるとかなんとかで」
「……そうなんだ」
てことは、今日は学校で二人切りのシチュエーション!?
やった!嬉しいな!
自然と嬉しくなって、頬が上気して赤くなる。
「じゃあ、食べよ?」
「うん」
お兄ちゃんも照れているのか、頬を赤くする。
なんだか恋人みたいな空気だっ。甘くて美味しいです!
もうお昼食べる前からお腹いっぱいだよぉ!食べるけど!
「千勢君、居る?」
私がお兄ちゃんの隣に座ろうとした時だった。
教室の後ろの出入り口から人が顔を出してお兄ちゃんの名を呼んだ。
「あ、はい!」
「よかった、居た。ちょっと来てくれ」
「お兄ちゃん?」
「ごめん千那。僕用事あるから、先に食べてて」
「あ、……うん」
「本当にごめん。今行きます!」
こうして知らない人の乱入により、私とお兄ちゃんのラブラブお弁当お昼の会は、幕を閉じた。
……お腹いっぱいって言ったのが失敗だったかな。
どよーん。
外は曇りに曇って雲が蔓延る憎たらしい天気だった。
そんな天気を見てどよーん。昼間のことを思い出してどよーん。
私の気分は駄々下がりで、ローテンションなモチベーションなのだった。
「……暗いぞ、村井千那」
「…………羽野君か」
「そうだが、君付けされたの初めてだぞ。……なんか逆に気持ち悪いぞ」
「私のことは放っておいてはくれませんか。今忙しいので」
落ち込むのに。
そんな私の意気消沈な姿を見て、索は、理解しがたい行動に出た。
「――んなっ?!」
なんと頭をなで始めた。
お兄ちゃんにしかなでられたことがない、清い頭をその、どこの虫の残骸かも知り得ない汚ならしい手でなでられたんだ。鳥肌が立って吐き気をもよおし血が逆流するような気持ち悪さが全身に這い寄って、つい驚いてしまった。
「な、ななな、なにを……――!?!??!?」
「あ?なんか気分が優れてないようだったからな……こうすれば気持ちは少しでも落ち着くかと、な」
照れた様子で空いてる手で頬を掻く。
いらない!その動作はすこぶるいらない!
てかうざい!私はお兄ちゃん以外になでられたくなかったのに……!
「――や、やめて!」
ぱしっ、と頭に乗る手を払う。
すると、索は意外そうな顔で目を開く。
「……こうすれば八尋は喜ぶんだけどな。はぁ。こいつにしたのが間違いだったか」
男になでるのかよっ。きも!
というか私を他の奴と一緒にしないでほしい!あとひさしぶりに生意気!
ムカつくったらムカつく……!
「でさ、話があんだけど」
さっきの出来事をまるで無かったことのように話題を変えてくる。
今はそれより大事なことがあるってのに。つくづく私の敵の部類な索だ。
お兄ちゃんを狙う森田彩音の次に敵。お兄ちゃん関係でなければもちろん私にとってのワーストで断トツ一位だけど。
「八尋ってここのクラスじゃん?」
「そうだけど」
ついこの間まで知らなかったけど。
「文化祭についてそろっと話したいからさ、ここでのあいつの役割とか教えてくれね?」
「……ん?」
あれ、八尋ってなんの役だっけ?
登校していないから割り振っていなかった気がする。たぶん。
「もしかしてさ」ぎくり「お前、八尋がここのクラスってこと、忘れてたろ」
「……てへ☆」
「てへ、じゃねぇよ」
舌を出して頭を軽く小突いてぶりっ子してみた。案の定はぐらかせなかった。
すっかりきっかり忘れてた。
まだ一回しか(?)会ってなかったし、人柄も薄い印象しかなかったし、あ、髪は綺麗で女の子かと思ったけど。
だから自分と同じクラスとは思えず、それに欠席者まで把握し切れていなかった。
けどそれはこちらのミス。
言い訳は通用しない。
「ごめんなさい。急いで見直すね」
謝り、これからの予定表と役割分担の書いた紙とメモ代わりのノートを机の上に出して確認する。
「オレも手伝う」
暇なのか、そんな私を見て申し出る索。
それはありがたかったが、別のクラスの人が手伝うのは大丈夫なのかな?
まぁ、大丈夫かな……うん。雑用ぐらいに思えば、なんてことはないよね。
明日から本格的な準備期間だけど、それまでもまだまだ大変なのだと思い知る今日の放課後だった。




