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1.サイアクな日

 とある日の昼休み、私がお兄ちゃんである村井(むらい)千勢(ちせ)のいるクラスへ向かおうとすると、一人の男子が私の所へ来て一言吐き捨てた。

「教科書貸してくれ」

 意味がわからなかった。

 それに、初対面のはずだ。こんな男子、知らないのだから。元よりお兄ちゃん以外の男子には興味はないけど。

 いきなりの発言に私が戸惑っていると、その男子はダルそうに言葉を続ける。

「次の授業の教科書忘れて来たんだ。だから貸してくれ」

 やっぱり意味がわからなかった。

 そこは貸してくださいではないのだろうか。あと、なんで私なのか。他にもいるだろうに。

 私は苛立ちを覚える。早くしないと、私の大切なお兄ちゃんが、あの腹立つお兄ちゃんを狙う女狐の森田(もりた)彩音(あやね)の処女ビッチがお兄ちゃんに何かするかも知れないし、だけどお兄ちゃんは渡さないけど、何仕出かすかわかったものじゃない。

 早急に行かねばならない。

 だと言うのに、この男子は初対面の私に教科書忘れたから貸してと上から目線で言ってくる。

 本当に腹が立つ。これだからお兄ちゃん以外の男子は嫌いなのだ。

 女の子の接し方がまるでなってない。

「ごめんなさい。私以外ではダメなんでしょうか?」

 なんて下手に出てみると、

「このクラスのダチが今日休みなんだよ。だから近くの席のあんたにしたんだ。だから貸せ」

 と、もはや命令形の発言に変わって請求してきた。

 知らないよ!そんなの私関係ないじゃんか!

 てかしたって何?!本当意味わかんない!!

「えっと……何を忘れたんでしょうか?」

 腹の中では溢れ出る業火のように煮えて黒い感情が渦巻くが、それを抑えて他人行儀な営業スマイルを浮かべて対応する。

「だから教科書だよ。午後から数学なんだよ。ったく、使えねぇ」

 だから知らねぇよ!そうならそうと先に言えよ!なんで一々上から目線で話すんだよっ!!

 ……あぁっ!ムカつく、ムカつく、ムカつく……っ!!!

 腹立ちも限度を越え、心の中で口が悪くなり、暴言を吐く。

「今日は数学持って来てないので……その、ごめんなさい」

「本当使えねぇ。あ、おい、そこのお前っ。あぁそう、お前。教科書貸してくんね?」

 ……イラ。

 何この屈辱。

 困ってるのはそっちじゃね?私は頼まれた側じゃね?なんでそんな態度なの?なんでそんな風に出来るの?

 ――信じられない

 そいつは近くを通りかかった男子に同じことを訊いていた。

 私は苛立ちを抑えられなくて教室から足早に出る。このままだと腹黒い感情が外に漏れて八つ当たりしそうだ。

 もういち早くにお兄ちゃんに会わないとやってられない。

 お兄ちゃんお兄ちゃん!私の愛しいお兄ちゃん!!

 お兄ちゃんと何回も心で呼ぶ。

 早くしないと、彩音がお兄ちゃんを貪欲に汚染しているかも知れない。

 そう思うと、自然と足が速くなった。



 その日、お昼にはお兄ちゃんに会うことはなかった。

 授業の合間の休み時間も会えなくて、帰りもなんか友達と帰るとかですれ違いになってしまった。

「…………なんでこうなるの」

 教室で一人ごちる。

 フラストレーションが溜まりに溜まって、一周して悲しくなってきた。

 私はこんなにもお兄ちゃんのこと好きなのに、なんで神様は意地悪をするんだろう。

「……うぅん。神様は悪くない。悪いのは、私の運」

 神様なんていない。私は無宗教なのだ。

 けど、この向かい所のない感情はどこにぶつければいいのか。

 帰ればお兄ちゃんがいて癒してくれる。

 けど、今のままで会っても甘えるだけでお兄ちゃんに迷惑をかけてしまうかも知れない。歯止めが効かないかも知れない。

 お兄ちゃんのことは好き――大好きだが、迷惑は出来るだけかけたくない。

 お兄ちゃん、私のお兄ちゃん。

 ……好き。好き、好き、……大好き!お兄ちゃん!!

 ここにいてもお兄ちゃんへの想いが募るばかりだった。

「……帰ろう」

 帰り支度を済まして玄関に向かう。

 そこで私は会いたくない奴に会ってしまった。

 下駄箱に中履きを入れて外用の靴に履き替える所で、昼休みの時のうざいガキだった。

「……っ」

 歯軋りして舌打ちをする。

 だが表は人のいい女子を演じている、だからそんな裏の感情は内に抑えて上っ面な笑顔を作って対応をする。

「んあ?」

 彼は私に気付いてそんな気のない声を出した。

「お前誰だっけ」

「――」

 言葉を失ってしまった。

 昼休みにあんな風にされて、あまつさえお兄ちゃんとの甘い時間を邪魔されて、しかも誰だっけ?

「あぁ。思い出した。あれだ、使えない女」

「…………んな」

「あ?」

「――ざっけんなって言ったんだよ!この雑魚がっ!!!!」

 無理だった。

 どうやらこの男に対しては素が滲んでしまうようだ。

 表の顔だとどうしても対応し切れない。

「私にもう関わるな!この低脳が……っ!!」

 それだけ言い、0.1秒でもその場にいたくないから強引に靴を履いてから走って外に出る。

 ……ね。しね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしね氏ね氏ね氏ね死ね氏ねしねしねしねしね死ねよ死んでしまえよっ!!

 黒い感情が立ち込めて何度も何度も吐き捨てる。

 くそっ。なんで今日に限ってこんなんばっかなんだ……!

 お兄ちゃんの胸の中で泣きたい気分に駆られたが、それは、お兄ちゃんにしてみたいシリーズの中に綴じ込め、滲んで出て来る涙を堪えて走った。

 裏の――素の本当の自分を知られたが、それはもうどうでもよかった。

 お兄ちゃんに会う時間を潰されたこと。その為に使われた時間を忘れたで済ませたこと。

 この二つは許せない。

 私のことはまだいい。が、お兄ちゃんとの時間を失くした罪は重い。

 許せるはずが……ないっ。

 悔しいし、苦しい。憎しみや悲しみが心を支配する。

 私の高校生活は波瀾万丈だ。それは悪い意味一直線で。

 お兄ちゃんとの学校生活の日々にヒビ入り壊れてゆく。そんな悪夢が始っているなんて――考えたくもなかった。

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