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噂が人をたぶらかす・・・  作者: 水天日光天照
第一話『森山町の噂』
10/16

#10

 家に着いたのは、あれから十分経った後だった。家に着いて、着替えを済ましてリビングに行くと、もう料理が置いてあった。

「さぁ。冷めないうちに、食べなさいよ」

「うん。いただきます!」

 この歯応えがいいんだよな。こう、もっちりしていて。食べ終わるのに、そう時間はかからなかった。

「もう一杯食べる?」

「いや、いい。この後、お風呂に入るから」

「そう。なら、早く入りなさい」

「うん」

 しかし、今日は無いよな。日向さんが、入ってくることは。


「いい湯だったな……」

 僕は、風呂から出て自分の部屋に居た。肝心の日向さんは、大学のサークルで遅くなるそうだ。無駄な心配をしてしまったな。あの大きな風呂場を、独り占めできて良かったけど。なんだか、一人しか居ないのは寂しかった。別に日向さんと入りたかった訳じゃないけど、一人だと寂しいから誰かと入りたいな……

 さて、今日の噂について考えますかね。

「まずは、【吸血鬼再来】だな。」

 これは、十五年前に流行った【吸血鬼現る】って噂の続きかな? しかし、どうして今回の【吸血鬼再来】には、吸血の話が無いんだ。しかも、誰一人殺されていないのに、殺した事になっている。やはり、考えれば考えるほど、おかしい。噂が流行って、姿の情報まであるんだから、目撃されてるんだと思う。しかも、殺すって噂の内容にあるから、殺された所を、目撃されてると思う。なのに、殺人件数は0件。これは、何がどうなってるんだか。

「はぁ。これだけだと、迷宮入りしそうだな」

 だけど、平本さんとの話で、【送り人】か【湖の美女】のどちらかが関係しているんだと、思う。【送り人】は、成仏できない魂をあの世に送る人の話。【湖の美女】は、神霊湖に美女が現れる話。そう、そのどちらかが、関係してるはずだ。

「そう言えば、神霊湖にはもう一つ噂が在ったな。確か……【神霊参り】だな」

 【神霊参り】は、神霊湖に住む神様に願いを叶えて貰う話だったよな。

 神霊湖の噂は、時代によって出てくる人が違うんだな。しかも、神様から美女とは。今の人たちは、神様より美女の方がいいのかな?

 おっと、話を元に戻さないと……

 もし、【送り人】と【吸血鬼再来】が関係してるんだとしたら……

もし、魂がこの世から消えたら、存在がなくなるとしたら? 吸血鬼が人を殺して、送り人が殺された人の魂を、あの世に送るんだとしたら? って、おい。確かに繋がるけど、これは無いな。存在が無くなったとしても、生きてきた証は消えないと思うからね。

 なら、【湖の美女】とはどうだろうか……

 吸血鬼の正体は、湖に現れる美女だった。そして、殺すのでなくて、魅了するサキュバスみたいな吸血鬼で。目撃されたのは、殺してる最中では無くて、やってる最中なのではないだろうか?

「……って、ありえないだろ!」

 それは、流石に無いでしょ。全く、僕はなんて事を考えるんだか……

「涼太、何かあった? 大声だして」

 ん? この声は……

「日向さん?」

 あれ? サークルで遅くなるんじゃなかったんですか?

「そうだけど。涼太、開けていい?」

「あっ、はい。」

 何か、用事でもあるんだろうか?

「あの、日向さん。サークルはどうしたんですか?」

「もう、終わったよ」

「早いですね」

「何言ってるのさ。もう、0時だよ」

「えっ! もう0時?」

 机に置いてある時計を見ると、針は0時を指していた。もう、こんな時間だとは。考える事をすると、時間はあっという間に過ぎていく……

「気づかなかったの? そんなに、集中するほど何やってたの?」

「噂について、ちょっと考え事を」

「うわぁ。そんなにもおもしろかったの?」

「僕が熱中するほどに、おもしろいですよ」

「へぇ。どんな噂なの?」

「【吸血鬼再来】です。」

「【吸血鬼再来】? どんな、噂なの?」

「大鎌に赤色の瞳を持ってる人が、満月の夜に誰かを殺す、って言う噂です」

「へぇ。物騒な噂だね。だけど、それはガセでしょ? ここ十年間、誰一人殺されていないしね。そんな噂を、本気にしちゃったの?」

 そう捉えますか。だけど、それだと駄目です。

「なら、日向さん。どうして、その噂が広まったと思います?」

「えっ? それって、誰かが広めたんでしょ」

「えぇ、そうですけど。どうして、広まったか気になりません? 誰も殺されていないのに、誰かが殺されてる噂が広まっている。これって、謎でしょ」

「あぁ、なるほど。確かに、謎だね」

「はい。僕は、この噂に【送り人】か、【湖の美女】のどちらかが関係してると思います」

「【送り人】は分かるけど、【湖の美女】ってどんな噂?」

どうして、日向さんが【送り人】を? あっ、日向さんの時も流行っていたんだっけ。

「【湖の美女】は、神霊湖に美女が現れる、って言う噂です」

「あれ? それだと、どこが関係してるの?」

 あぁ。それだけ聞くと、そう思いますか。

「【湖の美女】は、【吸血鬼再来】が流行ってから、すぐに出来た噂らしいので」

「だから、怪しいと?」

「はい。関係が無いとは、言い切れないので」

「【送り人】は、どうして怪しいの? 六年前の噂なのに、関係あるの?」

 あぁ。日向さんは、今も流行ってる事を知らないのか。

「今も、流行っています。【送り人】はね」

「えっ? 【送り人】が。また、あんな事が起きてるの?」

 あんな事? 何の事ですかね? しかし、日向さんの身体が震えています。これは……

「何か、あったんですか?」

「えっ? 流行ってるんでしょ! 気味が悪くないの、涼太は!」

 流行っているけど、気味が悪いか? これは、今と六年前の【送り人】は違うと思った方がいいですかね?

「日向さんの時の、【送り人】はどんな噂でしたか?」

「私の時の【送り人】は、そんな人は居ないはずなのに、その人が居た証が現れるんだ。いや、違う……人が消えるんだっけ? そこに誰か居た筈なのに、誰だったか覚えてないんだよ!」

 これが、六年前の【送り人】の現象、か。

「そんな、噂だったんですか」

「そう。だけど、これは私が体験した噂でもあるんだよ」

 そう。だったんですか。うん? 日向さんの目元に涙が……

「……怖かったんですね」

 涙を止めるために、抱きしめた。僕の行動に驚いたのか、日向さんが短い言葉をあげた。

 腕に震えが伝わる。

 日向さんは、止めていた何かがはちきれたように、声を上げて涙を流した。

 白い灯りが僕らを照らし続けた。

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