#1
今、僕はお母さんの実家に向かうために電車に乗っている。電車が進むたびに、僕の身体が一定のリズムで揺れ動く。この揺れが、僕は好きだ。
突然、景色が変わったと思うと、トンネルに入ったようだ。
暗いトンネルの中では、電車の音だけが響いてる。トンネルを抜けると、そこは見たことのない世界だった。
空は青く、木々が生い茂っている。そして、辺り一体が田んぼで、所々に家がある。そこは、僕が居た世界とは、全然違った。
始めてみる世界に、僕は目を奪われていた。
『森山町です。お手荷物のお忘れが無いように、お気をつけ下さい』
電車のアナウンスが流れた。もう少しこの景色を見たかったけど、駅に着いたならしょうがない。
電車から降りると、駅のホームには僕だけだった。少し、寂しいな。
「……僕だけか」
とりあえず、お母さんが待ってると思うので、改札口を抜けた。だけど、お母さんの姿は無かった。
「あれ? もう、待ち合わせの時間に近いんだけど」
お母さんにも、用事はあるだろうし、待ってみますか。
十分ぐらい過ぎると、一台の車がこっちにやってきた。お母さんか? でも、あんな車だっけ?
「ごめん、ごめん。遅れたね」
「日向おばさん!?」
迎いに来たのは、日向おばさんだった。
「おばさん言うなって、私はまだ大学生だぞ!」
「すいません、日向さん」
この人は、佐々木日向さん。お母さんの妹で、僕にとってはおばさんですけど、おばさんって言われるのは嫌らしい。
「さて、乗りなよ。千草姉も、待ってるから。早く、早く!」
……ちぐさ? 誰だろうか?
「はい……」
あっ、千草って、お母さんの名前だ。
日向さんに言われ、車に乗ったら、日向さんはすぐに車を発車させた。
しばらく窓からの景色を、堪能してたら……日向さんが話を振ってきた。
「しかし、大きくなったね。どれぐらい、伸びたの?」
身長ですかね? 身体測定で測った時は、どれぐらいでしたっけ?
「たしか……175cmですので、8cmぐらい伸びましたね」
「8cmか、伸び盛りだね。そう言えば、高校ってどこにした? 森山高校?」
「ええ、森山高校です。お母さんから、良い高校だと聞いたので」
「あそこは、良い学校だよ。そうだ! ちょっと、見て行く?」
日向さんから、学校を見る提案が出されたけど、どうしようかな? だけど、僕が結論を出す前に日向さんは決断を下した。
「悩むなら、行こうか! それでは、Let's go!」
「えっ?」
日向さんは、ギアを替え、車のスピードを上げた。
これはもう、ジェットコースターです。しかも、慣性が働いてシートベルトに、締め付けられます……
「く、くるしい」
「うん? なんか言った?」
どうやら、学校に着くまでこの地獄が続くようだ。