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イベント小説

今宵、空が暗くとも

作者: 紅月

 空が黒い。

 星がなくて、月もない。雲もないし、太陽が昇ることもない。

 光はぽつぽつと地上に灯り、その灯り(あかり)の中は楽しい笑い声。子供たちのやんちゃな声。さまざまな笑顔に満ちている。

 空が黒いことを誰も気にしない。

 だって今日はクリスマスだから。


◆◇◆◇◆◇◆


 広い空間の中には老若男女問わずたくさんの人がいた。何人かのグループに分かれつつ、グループ内の仲間と話し合ったり、グループでチームを組んでカードゲームをしていたりしている。


「今年もお疲れ様」


 白髪の老人が赤い髪の青年と銀髪の女性と話をしている。


「まあ、今年はもう少しあるがな」

「サンタ様も。お疲れ様でした」

「わしにとってはみんなの笑顔が見れれば十分じゃよ。毎年のことだしの」

「それを言ったらわたくしたちは毎日のことですわ。わたくしたちはいつも同じことをしてますが、サンタ様は毎年微妙に違いますもの。十分労われる価値があることですわよ」


 ふふっと、銀髪の女性は笑った。サンタは照れくさそうに頬を搔く。


「ミーシャ。あんまり言うとサンタが照れて引っ込んでしまうじゃないか」

「あら、アルフレッド。サンタ様はそんな方ではありませんわよ?」


 銀髪の女性、ミーシャが声をかけてきた赤い髪の青年、アルフレッドにも笑いかけた。

 ミーシャをたしなめながらも彼も笑顔を浮かべていた。二人は仲良く肩をくっつけて座っている。

 そこへ、サンタとは違う老人がやってくる。手には瓶を持っており、歩く足がおぼつかない。どうやら瓶の中身はお酒のようだ。


「やあ、みなさん。今年もお疲れ!! また来年もよろしくな!!」

「おやおや、ヘルさん。すっかり酔っているね」

「わしは酔っとらんよ?」


 ヘルと呼ばれた老人は淡く発光していて不安定な足取りにあわせて不規則に明滅している。彼は挨拶だけをして他のグループに混じっていく。

 彼のような人は他にもいるが、マナーの悪い人はいないようで、雰囲気は悪くない。

 心地のいい雰囲気の中、この宴は進んでいく。

 はじめはお菓子やジュースなどが置かれ、お茶会のようであったがやがて、七面鳥の丸焼きや、ケーキ、グラタンにピラフ、さまざまなスープ。それに地域特有の料理が出される。

 料理を用意してくれた人たちも加わって、集まりは更ににぎやかに、そして楽しいものになっていく。

 グループは見た目の年齢層であったり、服装が近いもので集まっている。

 そんな中に幼い子供たちだけのグループがあった。

 真ん中にいる女の子が泣いている。


「ミクってばドジだなー。まさか人に見られるなんて」

「だって、足元に、鈴をばら撒いて、るなんて、思わ、なかったん、だもん」


 ミクと呼ばれた女の子が泣きじゃくりながら弁解しているが、ミクへの声はやまない。


「だって、俺たちって見られちゃいけないだろ? 何度もアルフにーちゃんに言われてんじゃないか」

「うううう。うるさいわよ!! ルクス」

「でもミクちゃん。見られたとなると来年からは配達できないの?」

「あんなににーちゃんたちにいわれてたのに、みくねーちゃんみられちゃったの?」


 泣きながらもルクスに言葉を返すミクに周りが追い討ちをかける。

 無邪気な子供の一言が一番つらかったようで、ついには大声で泣き出してしまった。


「チロルー。ティンー」


 泣きながら、ちょうど食べ物を持ってきた二人にミクは駆け寄っていった。

 何事かと聞いて、チロルは食べ物を他の子供に渡してルクスのところへと向かった。ミクも一緒に連れて行く。


「え? やだよぉ。何でルクスのところに行くのぉ」


 先ほどのことがあったせいかミクが反抗するがチロルは足を止めない。

 ルクスは他の友達と話したが、そちらはティンが無理やりつれてきた。


「なんだよ、ティン。いいところだったのに」

「えへへ。ごめんねルー」


 ティンは苦笑いしつつもチロルたちと合流した。ミクはチロルの後ろに隠れている。

 ちなみに、ミクは八歳ぐらいで、チロルは六歳ぐらいの身長なので隠れているというよりは後ろに立っている、という表現のほうが正しい。

 対するルクスは十歳ぐらい。ティンは三歳ぐらいである。

 ルクスは今もべそをかいているミクを見て気まずそうに目をそらした。

 だが、チロルはそれを許さなかった。


「あんたが泣かせといてそれはないでしょう? ルクス」

「あれはルーがわるいよ?」

「はっ。泣いたやつが悪いんだろうが!!」


 ルクスは強がるようにそう言ったが、目は変わらずそらし続けている。

 チロルはそれを見てさらに怒る。


「こーなったらアルフレッドさんやミーシャさん。それにサンタさんにも聞いてもらいましょうよ」


 それを聞いたルクスが慌てる。あの三人に聞かれたら困るといわんばかりの慌てようだったが、時すでに遅し。

 騒ぎを聞きつけたその三人がやってきたのだ。


「どうかしたのかしら」

「ミーシャ、姉様。……うわぁぁぁぁぁぁん!!」


 ミーシャの姿を見たミクが再び泣き出した。突然のことにアルフレッドとサンタは顔を見合わせてどうしようかと話をしている。

 ミーシャはとりあえずミクをなだめて話を聞いた。


「あの、今年最後に行ったところで見られちゃったんです。サンタさんに会いたかったらしくて、床にいっぱい鈴をばら撒いてて、気づかずに踏んで、転んじゃって……」


 ミクを見た少女はミクとはそう見た目の年齢は違わなかったそうだ。お茶とお菓子を出されて、最後の場所だったのと、見つかってしまったことで開き直ったのかミクは彼女と楽しくおしゃべりをしてから帰ってきたそうだ。

 そう話しているうちに、またミクの目に涙があふれてきた。

 それでもミクは泣き出さずに続けた。

 サンタはおやおやと目を丸くしている。


「そしたら、ルクスが、来年からやることがなくなった、とか、言ってきて。確かに、あの子と喋ったりしたのは悪いことだったかもしれない、けどぉ」


 そこまで話してミクはまた泣き始めた。

 話を聞いていたアルフレッドがルクスの頭に拳骨を食らわせた。


「何すんだよ、アルフにーちゃん」

「お前、女を泣かせて楽しかったのか?」

「……」


 アルフレッドの言葉を聴いて黙り込むルクス。


「別に、そんなつもりじゃなかった」


 だから、ごめん。ルクスはぶっきらぼうに謝ってそこから逃げ出していった。

 アルフレッドはそれを追いかけていった。

 どうやらどうしてそんなことを言ったのか問い詰めるつもりらしい。


「えーっと。ミクでよかったかな?」

「う、うん。サンタさん」


 ミクはサンタを見ておびえている。当然といえば当然だろう。サンタはプレゼントの運び手を決める役割も持っている。運び手に選ばれたらそれはとても名誉なことで、その仕事を一生続けるのが運び手たちの夢なのだ。

 ミクはそんな夢をなくしてしまうのかとおびえているのだ。

 そして、一緒にいたもののここまで何も言わなかったティンがサンタの言葉をさえぎったことを謝ってからミクにたずねた。


「ねーねーミク。ミクはどうしたいの?」

「え?」

「ミクはまだはこびてやりたいの?」

「や、やりたい、よ。だって、あの子、来年も待ってるって。あたしが、行かないと」


 落ち着いたけれどもまだしゃくりながらミクはティンの質問に答えた。

 それを聞いてサンタは満足そうにうなずいた。


「ならミクには来年もやってもらわないといけないのう」

「え? いい、の? サンタさん」

「かまわないのよ。ミク。見つかった人なんていっぱいいるんですもの。ねえティン?」


 ミーシャは微笑んでティンを見た。


「あのときのティンは今のミクよりももっと泣いて、もっと不安がって、いたわよねえ」

「つきのおねえちゃんはあのときいなかったよね?」

「アルフレッドから聞きましたの」

「たいようのおにいちゃんのおしゃべりー」


 ティンはそう言って頬を膨らませた。

 ミクは驚きを隠せずにティンを見た。

 どうやらティンもすでに見られていたらしい。


「ミクや」

「は、はい。何でしょうサンタさん」

「わしたちは待っている人たちのところに毎年プレゼントを届けておるの」


 黙って首を何度も縦に振るミク。

 それはとてもよく知っている。彼女だって運び手をはじめてかなりの時間がたつのだから。


「ならば、君を待ってくれている人がいるのならば、その人に会いに行かねばならんの」


 そう言ってサンタはミクの頭をなでて去っていった。

 方向からするに、ルクスが逃げていって、アルフレッドが追いかけていった先だろう。チロルも一緒についていった。

 ミクはその言葉を何度も反芻し、その意味を考えて合点がいったのか驚き半分とうれしさ半分でまた泣き出した。


「まだ、できるんだ……」


 しばらくして落ち着いたミクは友達のところへと戻っていった。

 ミーシャはそれを見送ってからすでに戻ってきていたアルフレッドとサンタと合流した。

 ミクたちのほかには泣いている人はいないようだ。

 やがて時が過ぎて、しばらくすれば日が昇る時間になってきた。

 このパーティーももうすぐ終わる。

 食器は片付けられ、一人、また一人と空に帰っていく。

 細かった光の線はやがて太い大きな線となり、まるで空にかかる大きな橋のようであった。


「じゃあ、俺たちも戻らないとな」

「ええ、わたくしたちが戻らないと大変なことになりますわよ」


 そう言って、最後まで残っていたアルフレッドとミーシャも帰っていった。

 その場に残っているのはサンタだけ。

 そしてそのサンタのほかに、きれいな紙に包まれているものが一つ。地面に落ちていた。

 サンタはそれを持ち上げて、家に持ち帰って開けた。

 中に入っていたのは金平糖のようなきれいな粒。

 それ一つ一つに詰まっている世界中の子供たちからの感謝と、喜びの声を聞きながらサンタはゆっくりとまぶたを閉じた。

短編なので、あとがきあとがき。

このたびは『今宵、夜が暗くとも』を読んでいただきありがとうございます。

この作品は短編ではありますが、去年のクリスマスに投稿した『今宵、サンタがかける』の一応の続編となっております。

読まなくても大丈夫ですが、読んだほうが世界観が分かるかもしれません。

描写力の問題で分からない、ということもあるかもしれませんが。


今年はサンタの仕事が終わった後のことを書きました。

彼らはみんなで集まって、普段は会えない仲間たちと言葉を交わし、今年の仕事について話し合ったりします。

中には自分の担当した地区の子供たちのかわいさ自慢をする人もいるそうです。

毎日空にい続ける太陽、月、星たちの、一年に一日だけの楽しい楽しい休日です。


それでは皆さんにも、メリークリスマス。

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