第16話 グレースさんの想い
「……………」
グレースさんは下を向き、わずかに体を震わせている。俺は特に同性愛者に差別意識は無いが、グレースさんの様子を見るところ、この世界でも差別が存在しているようだ…。
自分が好きになった相手が同性愛者だった場合には、ショックを受けるかもしれない。しかし本音を言わせてもらえれば、ただの知り合いなら『好きにすればいいんじゃないの』という程度の感想しかない。正直に言って、特に感情など無い。だが今回は、グレースさんとラモーヌさんを全力でサポートする。二人の為…という事ももちろんあるが、自分の為にも出店の許可をもらわなければならないのだ。
「…お願い、誰にも言わないで…。特にラモーヌ先輩には絶対に知られたくないの」
グレースさんは下を向き、声を震わせながら言葉を絞り出す。
「お姉さん、僕に相談してください。一度、心の中の思いを全て吐き出してみませんか?」
「…このままでいいの。私は…本当に…このままでいいの」
グレースさんは目を閉じて『ポツリ、ポツリ』と話し始める。
「本当に?僕にはあなたが、自分の気持ちを無理やり押さえ込んでいるだけにしか見えませんよ」
「!?…どうにもならないのよ。自分だけが望んでも、愛する人の心は手に入らない…だから…せめて、せめて近くにいたい。それだけでいいのよ」
「一度、自分の気持ちを正直に伝えてみたらどうですか?」
グレイスさんは目を閉じたままで、力無く首を振る。
「断られて、全てを失うのが怖いの。全てを失うくらいなら、想いを心の中に秘めて愛する人の近くにいたい。拒否されて…会えなくなってしまったら、私は生きていけない…」
「もしかしたら、相手もレズビアンという事も考えられませんか?」
「そんな事…ある訳ないじゃない…相手は普通の女性なのよ…女性の事が好きになるわけが無いわ」
「どうしてですか?僕から見て、あなたも普通の女性にしか見えませんよ。だったら可能性は0ではないはずです」
「そうね…可能性としては0ではないわ。でも私は恋人になれなくても、友人として近くにいられるだけで…満足なの」
「近くにいられれば満足…嘘ですね。あなたは愛する人に手を取られて、抱き寄せられたい。体中を優しく愛撫されて、匂いを嗅がれまくりたい。そんな事を考えて夜な夜な自慰行為にふけっている。愛するラモーヌさんの事を考えて…」
「!?…な、な、なにを言っているの!?」
俺の言葉を聞いて、目を見開いて狼狽する。
「図星でしょう」
「……………」
グレースさんは怒っているのか、恥ずかしがっているのかはわからないが、顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「ふふふっ、意外にラモーヌさんもグレースさんの事を考えて、夜な夜な一人で…」
「止めて!!先輩の事を貶める事は許さない!!先輩は…先輩は私にとって…女神様なのよ!!あぁ~、清楚で美しい、一点の穢れもない女神様よ」
グレースさんは目つきを鋭くして怒ったと思ったら、最後はラモーヌさんの事を思い、恋する乙女の表情になっていた。
「申し訳ありません。冗談が過ぎました」
俺は素直に謝る。
「お姉さん…いや、もうグレースさんと呼ばせてもらいます。この短い間の中で俺はグレースさんの事をここまで分かってしまうんです」
「うっ!?…そ、それで?」
「僕はラモーヌさんの気持ちもわかっています」
「う、嘘…そんなわけが…ないわ…で、でも…」
グレースさんは首を振って否定をしようとするが、実際に自分の事を言い当てられているので興味が隠せない。明らかにラモーヌさんの気持ちが知りたいという顔をしている。
「ふふふっ、グレースさん。ラモーヌさんの気持ちが聞きたいですか?」
「…聞きたくない…わけが無いじゃない!!」
グレースさんは思いっきり顔をしかめて言った。そして、ラモーヌさんの気持ちを知りたいという欲求を押さえられなくなり『お願い!!お願いします!!ラモーヌ先輩の気持ちを教えてください!!』と言い、額を机にこすり付けんばかりに頭を下げた。
「ようやく素直になってくれましたね。安心してください。ラモーヌさんもレズビアンだと思われます」
俺は早くグレースさんを安心させたいと思い、ラモーヌさんもレズビアンという事実を伝えたのだが…。グレースさんは何故かいきなり怒りだしてしまった。
「嘘を言わないで!!ラモーヌ先輩がレズビアンなわけがない。先輩は清く正しく、清楚で美しい女性よ。私のような、けがれ切った変態と一緒にしないで!!」
「……………」
俺はグレースさんの訳の分からない理論を聞いて言葉を無くし『何言ってんだ、この人。嬉しくないのか!?』と、言葉には出せないが、正直思った。
「じゃあ、グレースさんはラモーヌさんと付き合いたくないんですね!!」
俺がそう言うと『馬鹿な事言わないで!!付き合いたいに決まっているじゃない!!』と、怒られてしまった。
俺は複雑な乙女心が理解できず、困惑して、頭が痛くなってきてしまった。
【グレース視点】
(バ、バレてしまった…。なぜ…バレた。わからない)
私は目の前にいる少年の存在に恐怖した。長年、誰にも話さず、隠し続けてきた秘密が、こうもあっさりとバレるとは…。
私はなんとか声を絞りだして『…お願い、誰にも言わないで…。特にラモーヌ先輩には絶対に知られたくないの』と、正直に言った。
しかし少年は『僕に相談してください』と言う。
(相談して何になるというの。私と先輩との間を取り持つとでもいうつもりなの。ほっといて!!私はこのままでいいの…)
しかし、私は少年と話をしているうちに、自分の心の中を見透かされているという感覚に陥っていた。
信じられない事だが、この短期間の会話やしぐさを見て、私の気持ちを的確に言い当てていたからだ。しかも絶対に他人が知る事ができない、私が自慰行為の時に想像している事を、体中の匂いを先輩に嗅がれたいという変態的欲望まで…。
そして少年は先輩の気持ちまでわかるといっている。
私は我慢ができなくなって『お願い!!お願いします!!ラモーヌ先輩の気持ちを教えてください!!』と言ってしまった。
「ようやく素直になってくれましたね。安心してください。ラモーヌさんもレズビアンだと思われます」
少年は先輩もレズビアンだという。
馬鹿な事を…。私は瞬間的に頭に来てしまい『先輩を、私みたいな変態と一緒にしないで!!』と言ってしまった。だが同時に『もし本当に先輩もレズビアンなら…。私の全身を優しく愛撫してもらいたい。全身の匂いを嗅がれて、罵ってもらいたい』と、考えてしまうのであった。




