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魔女狩り執行官  作者: 綾波幻在
2/2

魔法少女はもういない


―――心の中に潜む魔物『デュランダル』を呼び出した詩乃。


「衣咲・・・!?」

「衣咲くん・・・?」

見るからに、凄まじい力を引き出した詩乃の姿を、二人は目を見開いてみていた。

対して、リリカは狼狽えたように詩乃を睨みつける。

「デーモン?どうして、十年前に全部片づけた筈・・・」

詩乃が呼び出したものを何か知っているような口振りだが、詩乃の射抜くような視線を受け、分析よりも感情を優先するようにその手の杖を振るう。

「そんなもの、所詮はコケ脅しでしょ!」

再び、周囲の物質がねじれて棘となって詩乃とデュランダルに襲い掛かる。

だが、

「デュランダル!」

デュランダルが剣を振りかぶる。


そして建物の一部が吹っ飛び、リリカが外へと弾き出された。


「な・・・!?」

(あ、危なかった!?)

デュランダルが行ったのはシンプルに剣を横に薙いだだけだ。

しかし、その威力と速さは予想以上であり、ねじれた棘は全て粉砕され、返す二撃目でリリカへと直撃し、吹っ飛ばされたのだ。

幸い、自身へ直撃しかけた斬撃は杖で防いだ。だが、その威力は絶大。

「ただのデーモンじゃないっ、なんなのあれ―――!?」



その一方、詩乃は真悟と楓子を助けていた。

「無事か二人とも!?」

「なんとかな・・・」

「うん、大丈夫・・・」

真悟は足を抑えているが、立ち上がれないほどではなく、楓子は怪我をした腕を抑えている。しかし見た目ほど酷い怪我ではないようだ。

「にしてもお前、なんだよそれ」

真悟が見上げるのは、人の二倍はあろう体躯を持つ謎の巨大男だ。

「分からねえ。けど、負けたくないって思っていたら、なんか、衝動的に出来た」

「んなふわっと説明すんなよ・・・」

立ち上がった真悟と楓子。しかし、その時、地面が揺れる。

「何!?」

楓子は怯えるように真悟に抱き着く。

「これは・・・」

詩乃は、リリカを吹っ飛ばした方を見る。そこにリリカの姿はない。だが、空を見上げれば、そこには空中に浮かぶリリカの姿があった。

「調子に乗るなよ、人間が」

「う、浮いてる・・・」

真悟がリリカを見てそう呟くがそれだけじゃない。リリカの周囲には、空の色が変わるほどの大量のねじれた棘が、詩乃たちに狙いを定めていた。

「たかだかデーモンを従えてるからって、調子に乗るな!」

リリカが杖を振るう。するとねじれた棘が豪雨の如く、詩乃たちに向かって降り注ぐ。それはもはや、巨大な槍のようだ。

対して、詩乃は直感的にデュランダルを動かす。

「デュランダル!」

デュランダルが、剣を右手に持ち、その刃を左腕の手甲に当てる。そしてそのまま勢いよく手甲に擦れさせながら引き抜くと、炎が剣に纏われる。

そして、そのまま剣を両手で持ち、振りかぶると、勢いよく剣を振り抜いた。

その剣から放たれた炎が、降り注ぐねじれた棘の雨を飲み込み、焼き払う。

「な・・・・!?」

その炎は、そのままリリカへと迫り、直撃と同時に炸裂した。

「すげぇ・・・」

「今のうちだ!逃げるぞ!」

「お、おう!」

詩乃の声に従って、三人は走り出す。そのまま校門へと向かっていく詩乃たち。

「けどどうすんだよ!あそこには壁があるぞ!?」

「たぶん、デュランダルなら開けられる!」

「マジか!?」

「出来るの!?」

「やるしかないだろ、デュランダル!」

詩乃の指示に従い、デュランダルが剣を振りかぶる。そしてそのまま見えない壁に振り下ろせば、見えない壁が砕け散り、亀裂を作り出した。

「あそこに飛び込め!」

詩乃が立ち止まって二人にそう促す。それに応じて、真悟と楓子は無我夢中にその中へ飛び込み、それに続くように詩乃も飛び込んだ。

そうして、煙幕が晴れると、そこには衣服を焦げさせたリリカがいた。

「・・・・~~~~ッ!!!」

逃げられたと悟ったリリカは、顔を真っ赤にして、声にならない怒声を上げた。




そうして、謎の空間から脱出した詩乃たちは、疲労困憊で安堵の息を吐いた。

「はあ・・・はあ・・・な、なんとか、逃げられた・・・!」

安心したら力が抜けたのか、楓子がその場に座り込む。

「こ、怖かったぁ・・・!」

もうすでに泣き出してしまっている。

「・・・・・」

詩乃は振り返って、デュランダルが開けた亀裂の方を見た。しかし、そこにはもう亀裂はなく、デュランダルは影も形もいなくなっていた。

「あの大男・・・デュランダルだっけ?どこに行ったんだ?」

「たぶん、俺の中」

詩乃は自分の胸に手を当ててそう答える。確かに、あの大男が自分の中にいる感覚がある。

「そんなことより、出雲は怪我してんだろ」

「っと、そうだった。楓子・・・て、俺も腰が抜けた・・・」

真悟と楓子は、そろって動けないようだ。それに詩乃はふう、とため息を吐く。

「串焼きはお預けだな」

「お前なぁ、死ぬかもしれない状況だったんだぞ」

「それでも冗談を言えるほど生きてる」

詩乃は、二人にそれぞれ手を差し出す。

「今は生きてる事を喜ぼうぜ」

「・・・それもそうだな」

「うん」

差し出された手を取り、二人は立ち上がる。

「やっぱ、串焼き食いに行こうぜ。楓子はどうする?」

「まずは怪我をなんとかしないとね。学校・・・は怖いなぁ・・・」

「ハンカチならカバン中に入ってるぞ」

「いいよいいよ。自分のでなんとかするから」

そうしてハンカチで楓子の怪我を手当して、三人は串焼きを食べに行くことにした。

「そういや」

その道中で、真悟は詩乃に声をかける。

「お前、結局どうしてこっちに来たんだよ?」

「あ?どういう意味だよ」

「いや、なんか訳がありそうだったからよ。どうしてこっちに来たのかなって思ってよ」

そう言われて、詩乃は少し考える。

「喋りたくなかったら言わなくていいんだよ?」

楓子は、そう言ってくれるが、詩乃は首をふる。

「いや、なんか今日一日だけで色々と共にした仲だし、お前らには話しとくよ」

詩乃は、歩きながら話す。




「―――んだそりゃ!?」

それを聞いた真悟は、怒り顕わに声を上げる。

「そんな・・・酷過ぎるよ・・・」


詩乃がここ呉乃に来た理由はいじめが原因だった。

当時、以前の学校ではとある女子生徒一人に対して複数の女子が虐めるといういじめが発生していた。

詩乃はそれを見てそのリーダー格の女を殴り飛ばすという事件を起こしてしまい、一週間の謹慎を言い渡された。それだけならば、殴った詩乃が悪いという事で片付いたのだが、問題はその後。

なんと、謹慎している間に詩乃が虐めていたという事になってしまっていた。

そのせいで、詩乃はいじめをしていた側の連中の親から詰められ、当時の担任だった教師はいじめは見ていないと言い張った。

実際の所、教師はいじめを目撃していたが、学校の評判や自身の評価が悪くなることを恐れたのか、見ていないと言い張った。それはそれで親に詰められていたが。

幸いにも学校側がいじめがあったことを秘匿しようとしたために、この事は表に出ることはなかった。だが、リーダー格の女の親がそれなりの権力を持つ立場にいた為、自体はなんと詩乃のいた孤児院へと飛び火。孤児院への嫌がらせに発展したのである。

結局、その嫌がらせは広い人脈を持つ院長の采配でどうにかなったが、詩乃は学校での立場を無くしていた。

そして極めつけは、虐められていた方の女子からの言葉だった。


『貴方も力でどうにかしようとするんでしょ』


助けた筈の少女からのこの言葉に、詩乃はかなり堪えた。

いじめを否定する側の人間ではあったが、暴力ごとを好まない為に、暴力を使った詩乃を非難したのだ。

結局、詩乃は転校する事を選び、顔見知りのいない遠いこの呉乃にやってきたのだ。



「そいつクソだな」

「言い過ぎだけど同感。助けてもらったのに、酷いよ」

「まあ、俺が短絡的だったってのもある。流石に女子相手に殴るのは無かった」

「いじめしてる奴にはそれぐらいしねえと分かんねえよ」

真悟は怒りが収まらないのか歩き方が荒っぽくなっている。

そんな彼の仕草に、詩乃は少し笑みを浮かべた。

「まあ、お陰でいじめはなくなったからいいんだけどな。殴られたのが余程こたえたらしい」

「それで許せるお前はすげえよ・・・っと、ここだここ」

そうして辿り着いた串焼きの店。

「ここが結構美味いの。ワンコインで二本食えるんだぜ」

「・・・・」

「ん?どした楓子」

「ごめん、さっきの奴思い出した」

会話が沈黙した。

「・・・・やめるか?」

詩乃がそう尋ねれば、


ぐぅぅう・・・


と、楓子の腹が鳴った。

「・・・たべりゅ」

楓子は顔を真っ赤にした。





そうして、詩乃は喫茶店に戻ってきた。

「ふぃー、ただいま―――」

「いらっしゃせー」

やる気のなさげなメイドが詩乃を出迎えた。

「・・・・応」

「いちめーさまですかー?」

「・・・・店長いる?」

「残念ですが今は留守にしております」

「急だな」

年齢は近いだろうか。染めているのが分かる紫の髪と左目の眼帯が妙に目立つ少女だ。

バイトの子だろうか。

「あ、詩乃君、おかえりなさい」

そんな眼帯メイドを相手にしていると、後ろから見知ったメイドが出てくる。

「おかえりなさい?」

一方の眼帯メイドは先輩メイドに対して訝しむような眼差しを向けた。

「店長から聞いてるでしょ。この子が昨日からここで暮らしてる衣咲詩乃くんよ」

「・・・男じゃん」

「悪かったな」

眼帯メイドの言い分に詩乃はぶっきらぼうで返す。

「店長に迷惑かけたら許さないからな」

「そうするつもりはないが、まあ、努力する」

そこで再び喫茶店の扉が開く。どうやら客のようだ。

「いらっしゃいませ~。詩乃くん、部屋に戻ってて。まだお仕事中だから」

「了解」

そう言う先輩メイドの言葉に詩乃は頷き、詩乃は店の奥へと向かう。

(あとでここの従業員の名前、全員聞くか)

詩乃は密かな決意を抱いて部屋へと戻った。

部屋に戻るとそのままベッドへと倒れ込む。

(今日は色々あったなぁ・・・)

ここへ来ての初めての友人。突然の異世界への侵入。不思議な力を使う少女の襲撃。そして、自分が操る事の出来る謎の大男。

(だめだ。串焼き食っても頭が回らない。疲れたからまずは寝よ・・・)

本当に疲れているのか、詩乃の意識はそのまま沈んでいった。




そうして目が覚めたら、全く別の部屋の中で椅子に座っていた。

「ようこそ、我が眷属が見初めし執行者よ」

目の前のいかにもな机と椅子に座っているのは、文字通り『魔女』とも言うべき恰好の女。その顔はベールによって隠されてよく見えない。

その傍らには、昨日の電車で見た少女が立っていた。

「・・・・どこ、ここ?」

詩乃が尋ねると、『魔女』は少し考える素振りを見せて、

「そうですね。ウェイティングルームとでも名付けましょうか。この私の根城であり、貴方と面会する為にご用意させていただいた空間でございます」

「面会って・・・そもそもあんたは・・・」

「これは申し遅れました。私は・・・ルル、ルルと申します」

一瞬、逡巡するような間が開いた気がしたが、それに突っ込むのは野暮と思い、やめた。

「改めまして、私はアヴニール。貴方の旅路を手助けする者です」

続いて、隣に立つ少女―――アヴニールがそう名乗った。

「今宵、ここに貴方を呼んだのは他でもありません。貴方が遭遇した少女、そして貴方が覚醒した力について、ご説明させていただくためです」

「あ、そういえばそうだ。なんなんだよあれ」

「まあそう慌てずに。今、あなたは肉体から精神が離れている状態ではありますが、あくまで貴方の現実の身体は眠っている状態。ここではどれほどの時間が経とうと現実ではほんの少しの時間しかたっておりませんのでどうかご安心を」

「そう・・・なのか・・・」

詩乃はとりあえず納得する事にして、話を聞くべく耳を傾ける。

「それではご説明いたしましょう。しかし、何から話したものか・・・」

「一から十まで全部」

「そうなると、話の出鼻というものがあります。しかし、そうですね・・・事の発端から話しましょうか」

ルルは、パチン、と指を鳴らすと、すぐ横に巨大な絵画が出現した。

「発端は十年以上前・・・世界は突如として、人の心の中に潜む怪物『デーモン』の脅威に晒されました」

その絵画が、ルルの話に合わせて変化していく。

「十年以上前って・・・そんな話、聞いたことねえぞ?」

「デーモンは普通の人間には認識できません。そもそもデーモンとは、人の心の奥底に潜む闇、誰もが持っている内なる真我から漏れ出したものが集まって生み出される影のようなものです。いわば、人の集合無意識が実体化したようなものでございます」

「おい、その理屈だと今でもデーモンはこの世界のどっかで暴れてるってことにならないか?」

「それはご安心ください。その驚異は既に消えております。魔法少女たちの手によって」

「魔法少女?」

いきなり、アニメや漫画の世界のような単語が飛び出し、詩乃は一気に話の胡散臭さが増したような気がした。

「魔法少女は実在しますよ。先ほど、あなたが戦った彼女がそうです」

「嘘だろお前」

あの残虐趣味のイカレサイコパス女がそんなファンシーな世界の正義の味方などとてもではないが信じられなかった。

「話を戻しましょうか。デーモンが生まれる事で現実では様々な怪奇現象が起こりました。人の不審死、建物の謎の崩壊、突然の異常気象・・・それら全てはデーモンの仕業であり、魔法少女たちはそれらの脅威に果敢に立ち向かい、そしてデーモンどもを倒していったのでございます」

「そんなTHE・正義の味方がなんで今、あんなことやってんだよ」

「事の発端は最後の戦いでした」

再び、絵画が変化する。巨大なまさしく『悪魔の王』とも言うべき巨大な存在に、何人もの少女が向かっていくかのような絵だ。

「奴の名はベリアル。この世界でデーモンが生み出される全ての元凶」

「元凶?」

「本来、人の心はその人だけのもの。闇が漏れ出すようなことは決して起こらないのです。しかし、ベリアルの存在がその常識を変えてしまった」

「えっと・・・・あれか?こいつがなんか世界を弄ったりなんなりしたせいで、デーモンが生み出されるようになったとかそういう・・・」

「まさしく」

正解してしまって詩乃は自分に呆れかえってしまった。

「ベリアルは、全人類に呪いをかけました。人が心の奥底に隠している闇を、現実に表出させるほどの力を与えたのです。そうして、何人もの人々から漏れ出した闇が集まり形となり、一種の意識をもったそれらが、人に認識されないまま暴れ出す。そうする事で、現実では正体不明の超常現象として甚大な被害を出す。それがデーモンという存在なのです」

「・・・・」

詩乃は、考える。そうであるならば、自分の闇から生まれたであろう『デュランダル』は一体なんなのか。

「そして十年前、全ての元凶であるベリアルを引きずり出す事に成功した彼女たちは、死闘の末、ついにそのベリアルを打ち倒したのです。そのお陰で、世界からはデーモンの被害はなくなり、平和が訪れた。・・・・彼女たち以外に」

その言葉で、詩乃は嫌な予感を募らせた。

「・・・魔法少女たちはどうなったんだ?」

「デーモンに対抗できる魔法少女となるには、相応の代償が必要だったのです。デーモンが認識されないのは、それが元は心という不確かなものから生まれ出たものであるからです。しかし、デーモンは全ての人間の心の中に存在するもの。当然、『人間』である彼女たちも例外ではない」

「じゃあ、どうしたんだ?」

「切り捨てたのです。『人』である事を」

ルルの声は、深い悲しみを孕んでいるようだった。

「デーモンに対抗し、倒す為の『魔法』を扱うには魔力が必要。そして、その魔力を扱えるようにする為に、彼女たちは『人』であることを捨てなければならなくなった」

「人であることを捨てるってどういう事だよ?」

「・・・デーモンを生み出す深層意識を切り取る事で、魔力をためるスペースを作ったのです」

絵画が変わる。そこに映し出されるのは、少女のような形の黒い影の中に、ハートが描かれた絵だった。

そのハートは、一部が欠けていた。

「そうする事で、魔法少女たちは魔力を使い、魔法を使えるようになった。しかし、それは一重に重い代償を課せられる契約でもあった」

ルルは、平静を装うように、淡々とした口調で話を続ける。

「そこは、他人から人として認知されるための大事な部分だったのです。同時に、生きる者としての重要な部分すらも切り取ってしまっていた」

「一体、どういう部分が・・・」

「歳をとらないのです」

絵画が変わる。今度は、老いていく人々の中で、唯一不変となった少女たちの絵だった。

「まず老いる事もなく、子を成す事が出来なくなる代償を負う事で、デーモンに対抗する力を得る代わりに、彼女たちは他の人々から認識されなくなった。その為、誰の記憶にも残らず、家族ですら認識出来ず、言葉も文字も残せない。仕事も就けないからお金もない。『魔法少女』となるという事は、『人』として存在できなくなるという事だったのです」

「・・・っ」

詩乃は、それを想像しようとして思わず視線を落とした。とてもではないが、想像出来なかった。

「彼女たちがそれに気付いたのはベリアルを倒した後だったのです。ベリアルの存在は、良くも悪くも魔法少女にとってなくてはならない存在だった。デーモンが存在する事で、魔法少女の存在は、人に認識されるレベルの位置で安定していたのが、ベリアルがいなくなり、デーモンがいなくなったことで―――」

「認識されるための土台がなくなり、魔法少女は人々に認識されなくなってしまう・・・」

詩乃は拳を握り締める。その境遇に、思わず同情してしまっているのだろうか。

「同情する必要はありません」

ルルが、詩乃に向かってそう告げる。

「現在の彼女たちの目的は、人々に認識されるようになること―――ではありません」

「なんだと?」

「彼女たちの真の目的。それは、自分たちが見捨てた世界を地獄へと変える事で、復讐する事です」

「・・・・」

「その為に、魔法少女には一人残らず、消えてもらわなければなりません」

「一人、残らず・・・」

それを聞いて、詩乃はルルを睨みつけて言い返す。

「だったら、お前がやればいいだろ」

「残念ですが、私では不可能なのです」

「なんでだ?」

「私は、ここから出る事が出来ません。我が眷属であるアヴニールもまた、彼女たち全てを相手にするにはあまりにも力不足です。ですから、貴方に頼らざるを得ないのです」

「俺に、人を殺せって言うのか?」

詩乃は、ルルから視線を逸らさない。断固とした拒否の意思を示して、ルルを睨みつけていた。

「そうしなければ、貴方の友人が死んでしまうとしても?」

「だとしても、人殺しなんて・・・」

「・・・それも、そうですね」

ルルはベールの奥で目を伏せたような気がした。

「確かに、未だ年端も行かぬ少年に、このような酷な運命を背負わせるのは、先を生きた者として恥ずべきことなのでしょう。それでも、貴方に頼らなければならないのもまた事実。貴方は、私どもにとっての『希望』に等しい。その事だけは、どうか覚えていてください」

「・・・・」

かちり、と部屋の中の時計の針が進む。

「そろそろ時間のようです。ですので最後に一つだけ」

「まだ何かあるのかよ」

「貴方が操る『デュランダル』。それはもはや、かつて我々が戦ったデーモンとは似て非なるものと言えましょう。彼は貴方の心から生まれた、貴方の『不屈』なる意思の体現者―――」

詩乃の意識が、再び遠のく。

その最中で、ベールの奥のルルが、笑みを浮かべているように見えた。


「―――『エンボディ』、と名付けましょう」







翌日―――昼休み。

「エンボディ、ねえ・・・」

詩乃は、昨晩の話を真悟と楓子にも話していた。

二人とも、昨日の事があったのにも関わらず、学校に来ている事に詩乃は感心をしてしまった。

「それが、お前が昨日呼び出した奴の名前、かぁ・・・」

「夢の中で出てきた女はそう言っていた。どうして俺にそんな能力があるのかは知らねえが」

(そういやその肝心な部分に関しては何の説明もしなかったなあの女)

鈴矢が用意してくれた弁当のから揚げを口に放り込み、詩乃はルルに対して悪態を吐いた。

「・・・・」

一方の楓子は不安そうな顔を浮かべていた。

「どうした?楓子」

「あ、ごめん。来るまでは平気だったんだけど、なんだか、放課後が近付いてるって思うと、なんだか怖くて・・・」

どうやら昨日のトラウマがまだ残っているようだ。

「昨日の今日で無理もねえ。いつ奴らが襲い掛かってくるか分からねえからな」

「あはは、ごめんね」

「お前が謝る必要ねえだろ」

謝る楓子に、真悟が否定を入れる。

「とりあえず、今日は一緒に行動しよう。俺ならあそこから脱出できるし、二人を守れる。たぶん、あれだけじゃ終わらない」

「やめろ不安になるから」

「あ、それはすまない」

「素直かよ。まあいいけど」

真悟が最後の一口を食べて、弁当の蓋を閉じた。

「俺にも戦う力があれば・・・」

「・・・」

そう言えば、と詩乃は思い出す。

(本当に俺だけなのか?エンボディを呼び出せる人間ってのは・・・)

しかし、それは考えても仕方のない事だろう。詩乃はそれ以上考える事はなく、弁当の蓋を閉じる。

「じゃあ放課後、勝手に帰るなよ」

「分かってんよ」

「うん、よろしくね」

詩乃は、心の密かで決意する。

(今は、何があっても二人を守る。考えるのはその後だ)




そうして放課後。

「それじゃあ、帰るか」

真悟が真っ先にそう言い出す。

「おう」

「うん」

それに続くように詩乃と楓子も続いていく。

そうして教室を出た所で、出くわしたのはなんと朱祢。

「あ」

「ん?」

朱祢が抱えているのは何やら重そうな本の束。

「こんにちは衣咲君、それと、海宮君と八雲さんだったかしら」

「え、名前知ってんの?」

「生徒会長だから、全校生徒の名前は覚えるようにしてるの」

「それ、結構重そうだけど、大丈夫?」

「図書室に新しく置く本なの。任されちゃったから、これから図書室に運ぶ所で」

詩乃が黙って一部を取る。

「あ・・・」

「手伝う。お前らもそれでいいか?」

「仕方ない」

「いいよ」

真悟と楓子もまた、朱祢が抱えていた本を一部手に取る。

「でも・・・」

「気にするな。助けてなんぼだろ」

「・・・ありがとうございます」

朱祢は笑みを浮かべて、感謝を伝えた。



そうして図書室に辿り着いた一同四人。

「ありがとうございます。あとは私がやっておきますから、気を付けて帰ってください」

「ここまで来てそれはないだろ」

「本当に大丈夫ですから」

なおも手助けしようとする詩乃たちに、朱祢は手を振って遠慮する。

「行方不明になってる生徒がまた一人増えましたから」

そう、深刻そうな表情をする朱祢に、三人の表情が強張る。

「そういや、その生徒ってみんなこの学校内でいなくなってんのか?」

「ええ。目安箱に投じられたり、生徒たちの噂話によると、みんなこの学校内でいなくなっている様なの」

その話を聞いて、三人が真っ先に思い浮かべたのは、昨日の別世界のような場所だった。

おそらく、いなくなってしまった生徒は、皆あちらに迷い込んだ、もしくは連れ去られているのだろう。

(止めないと、まだ続きそうだ・・・)

だが、そうなると、昨晩の話を思い出す。


止める為には、『魔法少女』を殺さなければならない。


そう思うと、身体が冷たくなるのを感じる。

(どうにかする方法はないのか・・・)

そう思った時、目の前に立つ朱祢の表情が強張るのが見えた。

「海宮君、八雲さん!?」

「っ!?」

詩乃は急いで振り返った。そこには、何かに飲み込まれる真悟と楓子の姿があった。

「海宮、八雲!?」

手を伸ばすも、その手は虚空を切ってしまう。

「・・・嘘だろ」

目の前で消えた二人を前に、詩乃は虚空を切った手を見つめる事しか出来なかった。

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