物語は始まらない
今作っている作品が行き詰ったので息抜き
「君。僕と一緒に来る?」
前世日本人の記憶のある自分にとってその子供を拾ったのは懐かしい髪の色と目だったから。
魔力属性の影響で髪の毛と目の色が属性の影響を受けるとか、自分の周りは赤とか青とか派手な色ばかりで、自分に至っては、普段は白い髪が魔力を流すと虹色に光る全属性という貴重な存在で、ゲーミングしているのかと恥ずかしく思うし、両親の仕事でこの国に来たのだが、常に見世物になっていて落ち着かない。まだ瞳の紫が普通に思えるのは感覚が鈍っているからだろう。
外交に有利になるのなら恥ずかしいが我慢は出来る。親に養ってもらっている子供だ。我儘を言わないで見世物の立場を受け入れているが、それでも疲れは溜まっている。というか目が痛いのだ。
そんな日々の中で見た黒髪と茶色目だ。
それだけだったら懐かしいと思って終わっていたが、その子どもが明らかにがりがりで、髪も手入れされていない状態であった。常識があり、多少の勇気と金とコネがある者なら声を掛けるだろう。
身にまとっている色彩からして闇属性だろう。光属性と闇属性は希少であるが、我が国と考えが異なり、闇属性は迫害されているようだ。そこら辺は宗教観だから仕方ないとはいえ、見捨てておけないというのは性分だろう。
お金を渡して子供を冷遇していた親から引き離し、この子供に一切関わるなと釘を刺す。
ちなみに自分の年齢は9歳。両親が普通は止めるのだが、前世の記憶があったからか我儘と言うかおねだりを全く言わないで、子どもを甘やかしたいという希望を叶えられなかったので、初めて聞いたおねだりだと狂喜乱舞して叶えてくれた。
我儘を言ってもよかったのかと猛省すると共にこれからは言っていいと思ったらいうようにしようと決意する。
「この子をこのまま連れて仕事をするのは無理だな」
父親が判断するとともに、予定よりも一か月早く外交を切り上げて自国に帰ることにした。
「よかったの……?」
仕事を早めに切り上げてしまってと心配になって尋ねると、
「構わないさ。――外交と言ってもお前という存在を見せつけてこちらの意見を通しやすくするために連れて回っただけだからな」
「…………」
確かに拝まれるような感じだったと納得した。
そんな訳で、極彩色というか、派手な原色ばかり溢れている世界で唯一目を休められる黒髪茶色の目の少女を引き取ったのだ。
ちなみに年齢は一つ下の8歳。どう見ても5歳くらいにしか見えなかった。
それから、8年経過した――。
「リュカスさま。おはようございます」
「おはよう。アゼリア」
メイド服に身を包んだアゼリアが毎日起こしに来るのでその声で目を覚ます。
……前世は目覚まし4個あってもなかなか起きれなかった自分にしてはアゼリアの一声で起きれるのはすごいことだと思う。
前世の記憶があり、子どもらしくない子供だった自分がこの朝に弱い体質だったことで気味の悪い子供扱いされなかった事実を複雑な想いで知ったのだが……。
「アゼリアが居なかったらもっと寝坊していたよ」
「いえ……そんなことは……」
「いや、もっと誇っていいからっ」
アゼリアはもっと自分の価値を知っていた方がいい。アゼリアの可憐さに気付いた輩が手を出そうとしているのを何回か撃退しているのだから。
(留学の話を断って正解だったな)
留学したらどうかと言われたのだが、声を掛けてくれた国がアゼリアの出身国だったので丁寧(?)に断った。
アゼリアを冷遇するのが正しいと思っている国に行って学びたくないという想いとアゼリアも共に学ぶものだと思っているので、アゼリアの生活が脅かされるところは最初から除外してある。
アゼリアは今では我が国で優秀なものしか入れない学園に自分と共に通っている。
そこで交友関係を深めて、将来に備えて養子先を探しているのだ。
朝の用意をしてもらっている間に新聞に目を通す。
「……アゼリア。君を虐待していた家が犯罪を起こして検挙されたって」
どうも領民から必要以上に税を取り立てていたとか。
「んっ?」
詳しい内容を読み進めていくと。【聖女】なるものが現れて、その家に居るはずの闇属性の子供が学園に通っていないと騒ぎ立てて事件が発覚したとか。
「聖女って……?」
何それ? 前世では聖女という存在は物語のお約束に出ていたけど、この世界に……というか我が国にはそんな存在はいない。過去の文献にもなかった。
「あら、リュカスにも知らないことがあったのね」
いつも通り家族そろっての朝食。ちなみにメイド服を着ているがアゼリアも一緒に食事をしている。食事中の何気ない話に聖女のことを尋ねると母が驚いたように声を上げる。
「お前は博識だから知っていると思っていたよ」
父親にも言われてしまうが、
「博識とお世辞を言われても……」
単に厨二病を患っていてその手の知識を読み漁っていただけだ。
「知らないのも無理はない。――聖女というのは彼の国では光属性の女性を言うからな」
「ああ。――なるほど」
宗教観の違いがここにも出ていたか。
我が国では属性はみな必要。闇属性と光属性はめったに現れないが、光があるから命が育まれる。そして、育まれる命に休息を与えるのは闇。光あっての闇。闇あっての光。
だが、かの国では闇は光を封じ、滅びを与える存在。
「この記事の聖女は【先視の聖女】と言われていて、未来をある程度予測できるとか……」
「飢饉なども防いだとか」
「ふ~ん……」
なんか嫌な勘が働いてきた。
闇属性の子供が居ると知っていた【先視の聖女】?
学園にいないからおかしいと騒いでそこから芋づる式に様々な犯罪が発覚?
ありえなくはないが、闇属性がかの国ではどんな扱いをされているのかを知らなかったのか。それなのに学園に通えるとでも?
都合よく通えているのならそれこそ物語のようなお花畑展開にしかならない……。
そう異世界転生でもない限り。
「……聖女ってそんな属性もあるんだ? そういうのって、時属性とか?」
予言者とかは少し時属性があるとは聞いたことがある。あと占い師も。一応、自分も時属性は使えるが、せいぜい予感程度なものだ。
「光属性は光属性しか持っていないと聞くけど……」
何かますます嫌な予感が強くなった。
「そのうち、アゼリアちゃんのことでうちの家に連絡をしてくる可能性はあるわね。注意しなさい」
「分かりました」
探られてまずいことはないが、人身売買とか言い出したら面倒になるな。ある意味事実だし。その為には相手の出方を知りたい。
信用できる情報屋に探って貰う方が確実だろうな。
できればそうではないといいのだけど……。
そうもいかなかった。
「いきなりの連絡申し訳ない。アゼリア・バルセローゼがここに居ると知ったので」
仰々しい連絡と共にかの国の王太子が聖女たちを連れて訪れる。
「確かにいきなりでしたね。……事前に伝えてくれればこちらから向かったのに」
隣国の王族を迎えるこちらの身になってくれと言外に告げると、
「それは、そうだな……」
王太子の視線の先には聖女。
「一刻も早く会わないといけなかったのです!! ここにアゼリアがいるのならば」
勢い込んで告げる聖女を事前に調べておいたが、情報の方が先に来てよかったと安堵する。
どうもこの【先視の聖女】は8年前の外交で回る予定地だった最後の場所に滞在していたとか。誰かを探して貴族の別荘を回って、捕まっている前科持ち……まあ、その時に光属性だと発覚したのだが、それだけなら何もないが、かの国で留学の話が持ち上がっていた時に通うはずだった学園でもしそれが叶っていたら名乗るつもりであった偽名を知っていて探していたとか。
「…………」
うん。これ確定だよな。
自分は知らないけど、何かの物語の世界で、聖女は主人公というやつか。
「アゼリアは危険な存在です」
「……それはそちらの宗教観だね。俺からすれば、アゼリアは可愛い女の子だよ」
出会った時は自分に自信がない感じで常に怯えていたけど、少しずつ彼女を肯定していたらどんどん咲き誇る花のように綺麗に育った。今では彼女を狙う輩から守らないといけないほど。
「何言っているんですかっ!! そいつは【深淵の魔女】で……」
「――君の話はともかく。かの国で虐待されていたらすべてを恨んでもおかしくないよね。そう、魔女とか破壊者と魔王とか……」
立ち上がり、そっと聖女の耳元で囁く。
「先視の聖女ならそうならないために未然に防ぐべきじゃないかな。ああ、それとも」
一度言葉を切って、
「英雄願望……いや、君に分かりやすい言葉だとヒロイン願望でもあるのかな」
目を見開いてこちらを見てくる聖女に、
「帰りなさい。――君の望む話は始まらないから」
と言葉を失って動揺している聖女を丁重に帰りを促す。王太子は聖女の反応がおかしいので心配して連れて帰る。
「全く……人の婚約者に何を言っているんだ」
こちらは犯罪経歴のある貴族の籍を外して、養女先を探しているのだ。余計なちょっかいを出さないで欲しい。
「いっそ、分家に預ければよかったな」
結婚するために身元を整えたいと呟くと、
「わたくしはどの家でも構いませんよ。――リュカスさまのモノになれるのなら」
「その言い方はちょっと……」
困ったように笑うと揶揄っていたのか鈴を鳴らすように笑う。
「参ったな……」
人生最初の我儘はいまだ鮮明に思い出せる。ある意味黒歴史だ。
『父上。母上。この子を連れて帰ります。僕のお嫁さんです』
勝手に子どもを連れて帰ってはいけないと思って言った言葉が一生揶揄われるネタになり、アゼリアの将来を決めてしまった。
まあ、でも、アゼリアを自分の側に置きたかったから仕方ないと揶揄われるのを甘んじて受け入れるのだった。
一目ぼれで連れ帰っていた




