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「あ……アレンさん!」
「慌てなくても、ランなら寝てるって」
「そ、そういう問題じゃなくてね?!」
「騒いだら起きるよ」
途端に静かになるシュナは、声にならないため息を吐きながら起き上がった。
そのまま膝を抱くように丸まる。
「……それでも、ランちゃんの前で言わないで」
「何で隠すの」
「え。普通隠すよね?」
「わかんない」
「……そっかあ……アレンさんだったね……」
納得したような遠い声に、アレンは励ますように背中を叩いた。
「変に隠すほうが、ちょっとアレじゃない?」
「あれ、とは……」
「いやらしいっていうか」
「そうかな?!」
「後ろめたいなんてありえない。だって恋だよ?」
「……」
「なんでびっくりしてるの」
「いやあ……奥さん何人もいたって本当だったんだなあって……」
「お友達だよ」
「うん」
力ない頷きをするシュナは、めずらしく大きなため息を吐いた。
「それでもね、ランちゃんにはヒューだし、ヒューにはランちゃんでしょ。ヒューは、ランちゃんの姿が見えないとソワソワするくらい、大事にしてるじゃない? あたしの気持ちを隠さないっていうのは……無理だよ。空気読まなすぎる」
「隠せてるのかも怪しいけど」
「……き、聞かなかったことにしていい?」
「大丈夫。そういう方面封じちゃってる鈍感なランとヒューは全然気づいてない」
「聞かなかったことにする」
シュナはぎゅうっと背中をさらに丸めた。耳まで真っ赤だ。ちょんちょんと耳を触るアレンは、全く悪気はないらしい。
「あたしで遊んでるでしょ……」
「相談に乗ってるだけだけど」
「……あたしね」
「ん」
「二人がお互いを死ぬほど大事にしているのを、知ってるよ。そんな二人が好きなの。だから、変な気遣いされたくないんだよ」
「知ってる」
「知ってるかあ……」
どこか諦めたように、シュナがぼんやりと空を見る。
「……助けてもらったから、好きなだけじゃないのかなって。あたしって浅いなあって。そうも思うの」
「いんや。あれはどう見ても超ロマンチックだった」
「ふふ」
「恋は恋。どれも尊くて美しい。それが恋」
「……おお」
感動したようなシュナが、吹っ切れたように顔を上げた。
「なんかよくわかんないまま励まされた気分……」
「そ?」
「でもランちゃんの前はやめてね」
「わかった。次はしない」
「……アレンさんはなあ……怪しいけど……うん、信じる。信じるからね?!」
「はいはい。さわがない」
「先に、戻ります」
照れたように言い放ち、シュナは足音を立てぬようにそそくさと甲板から操舵室に戻っていった。
無風の甲板で、またアレンがごろりと寝転がる。
「ラン」
「……」
「ラーンー」
「……」
「ランラン」
「……アレン」
「起きてたんだ」
「起きてるの知ってたのに?」
嵐が目を開けて視線だけ横に動かすと、寝転がったアレンがじいっとこちらを見ていた。
その顔には悪気は一切なく、面白がっている様子もない。ただ、余裕のある表情で微笑んでいる。
嵐は動かないまま、アレンを見つめ返した。
「シュナ、飛雨が好きなの?」
「一番がそこかー」
「知らなかった」
「だと思った」
「だから聞かせたの?」
「うん」
わたしがシュナを傷つけるから?
そう問わなかった目を受けたアレンも、答えない。
二人して空を見ながらぼんやりと同じ空気に身を委ねる。
アレンに言葉以外の他意はないことはわかっている。シュナを傷つけて平気な嵐ではないと知ってくれているのだ。
そう思えるくらいには、嵐はアレンのことを信頼している。
「ありがと」
「……ランだねー」
「気をつける、のを、気をつける。普通にする」
「そうしてあげて。ランならいける」
アレンが優しく笑う声がして、嵐はまた隣を見た。
未だによくわからない人だが、恐ろしく優しい人であるのは間違いないだろう。
「それから──ランもカルラのことを考えたほうがいい。忘れたふりしてるけど、最近近い」
「そうかな」
「オレにはそう見えるし、ヒューにもそう見えてると思う。邪魔してるし」
「そうかな」
「そうだよ」
アレンは伝えるべきことを伝えた、というように身軽に起き上がる。
ふわりとゆれる優美な裾が、一瞬、空を桃色に変えた。
「ふたりとも、そうだよ」
「そっか。そんなつもりはなかったんだけど」
「だから、カルラと話したほうがいい。これからどうするのか。どうしたいのか──瞳を交換すると、強い絆で結ばれて……どうしようもなく愛し合うようになってしまうってこと、そろそろ話したほうがいい」
アレンは笑う。
「オレは味方だよ。いつでも相談においで」




