第5話 魔法は簡単?大変?
お待たせしました!
予定よりも一日遅れましたが、更新します!
リリアンヌさん、いやリリアンヌ師匠がやって来てから暫く。
お母さまからの許可が出て、いよいよ闇魔法のレッスンが始まることになった。
「リュシアと呼ばせてもらうよ。さてリュシア、君が闇魔法について知っていることを教えてくれるかい? まずは君の知識レベルを確認しておきたい」
「えっと、本当にほとんど知りません。属性として希少なことと、主に精神に作用する魔法だってことぐらいしか……すみません」
「謝ることじゃないさ。知らないのであれば、これから学べばいいだけだ。君はそのつもりがあるから、こうしてこの場にいるんだろう? それに、闇魔法の一般的な認識はおおよそそんなものだ。なにせ不人気属性ナンバーワンの名をほしいままにしているからね。大半の人間は、それを詳細に知ろうとは思わないものさ」
不人気属性ナンバーワンって……いやまあ、確かにそうかも?
「うん、それに君の認識は間違っていない。間違っていないが――それだけだと不十分だ。闇魔法は精神に干渉する魔法? 確かにその通り。だがそれだけしか出来ないと思ったら大間違いさ! まずはそれを叩き込んであげよう!」
するとリリアンヌ師匠は、ローブの内側に手を入れる。そこから一冊の本を取り出した。
いや、一体どこに入ってたんだよ!とツッコミたいが、そこはぐっと我慢する。
「これはフレーメン魔法学院で使われている闇魔法の教科書――その改良版だ」
「改良版? というか、魔法学院で闇魔法って教えられてるんですか!?」
「ん? そうか知らなかったのか。確かに闇魔法は不人気だが、れっきとした属性魔法の一つ。それを教えられないのならば、魔法学院と名乗るべきじゃないね。その点、フル―リア魔法学院はちゃんとしている。まあ、受ける人間がほとんどいないのは違いない。だからこそ、この本の内容も更新されず古びてしまっているんだ」
「だから師匠が改良したってことですか? それって普通に凄いんじゃ」
「当然さ。この国で私より闇魔法に精通した者はいないからね。だからこの改良版を使って闇魔法を教えるのは君が始めてなんだ。自分以外のデータが得られるいい機会だから、ワクワクするよ」
やっぱりこの師匠、ちょっとマッドじゃないか……?
そんな疑惑が浮上しつつ、師匠から改良版の教科書を受け取る。厚さは辞書とか図鑑ぐらい分厚い。大きさは教科書じゃなくて、資料集ぐらいだからA4サイズ? 学校の図書室の隅っこの方にある、学校の歴史とかが書かれた誰も読まないあの本がイメージ的に近いかも。
というか、改めてどうやってこれがローブの中に入ってたんだ?
ひょっとしてあのローブの中は、何でも収納できちゃう不思議空間が広がっている?
「さて。言った通り、闇魔法には精神干渉以外にも幾つか種類、系統が存在している。では初心者が使う入門編に相応しいものは何かといえば――これだ」
横から手を伸ばしたリリアンヌ師匠が、教科書の適当なページを開いてみせる。
そこに書かれていたのは――
「『闇の造形魔法』……」
「どの属性魔法でも、やはり基礎として置かれているのが、この造形魔法だ。炎ならば炎の、水ならば水の造形魔法と続く。それの闇バージョンだな。詠唱も短く、必要な魔力量も少ない、入門としてはこれ以上ない魔法さ。それじゃあ早速、やってみようか」
「はいっ!」
リリアンヌ師匠の指示に従って、いよいよ闇魔法を使ってみることになった。
教科書には見開き1ページに一種類の造形魔法が書かれているらしい。詠唱の他にも、魔法の図解と言葉での説明、それからよく分からない円形の幾何学模様が書いてあった。
何だろうこれ?と思いつつも、一旦読み飛ばして詠唱を確認する。
師匠が言った通り、かなり短い文章。これならすぐに覚えられそうだし、読み間違えることも無さそうかな。
「詠唱は確認したかい? 出来たらまずは、魔力を練らずにそのまま唱えてみるんだ」
「……闇よ、集いて形を成せ」
「いいぞ。じゃあ今度は、魔力を練って魔法として発動させるんだ。魔力の量は、そうだな。私がこの部屋に入ってきたとき、君が練っていた魔力球と同じぐらいでいいぞ」
「分かりました」
あれぐらいでいいんだ。まあ、入門編の魔法って言ってたしそんなもんか?
ともかく、最近はかなりスムーズになってきた魔力コントロールで、必要量の魔力を練る。
そして――
「――『闇よ、集いて形を成せ――<闇球>』」
次の瞬間、私の目の前にバレーボール大の真っ黒な球体が現れた。
それは風船みたいに、空中をぷかぷか浮いている。何と無しに手を伸ばして触ってみる。感触は……金属の表面を撫でているような感じ? 少し冷たくて、それでいてサラサラすべすべしている。冷房の効いた部屋に置いた後みたい。
見た目真っ黒だから全然分からないけど、指先で小突くと固い感触が返って来た。ますます金属っぽいけど、なんか中身がすかすかみたいな軽い音がした。
「これは……成功?」
「ああ、間違いなく成功しているよ。どうだい? 初めて闇魔法、ひいては魔法を使ってみた感想は?」
「思ったよりも、あっさりしてました。こんな簡単に出来ちゃうんだなって感じです。というかこれって何なんですか? 金属? 土? ガラス?」
「炎魔法が炎を操るように。水魔法が水を操るように……それぞれの魔法属性の名は、そのまま司っているものを示している。であれば当然、闇魔法が司るのは――闇。つまりその闇球を構成しているのは、闇という訳だな」
「闇…………よく分かんないです」
「はははっ、そうだろうね。何せ私も闇とは何なのか?という問いに、正確に答える術を持たない。未だに研究中だからね。もし君が始めて使ってその正体が分かったのなら、私は君を神と崇めていたかもしれない。まあ、それはさておき。無事に魔法の発動には成功したようで何よりだ」
うん、だって特に難しいことなんて無かったし。
練習通り魔力を練って、覚えたばかりの詠唱を唱えるだけ。魔法が発動する時に、ちょっとだけ練った魔力が暴れようとしたのに驚いたぐらい。それもちゃんと抑えることが出来たし。
何というか、若干ゲームっぽいかも。これなら私でも何とか魔法を使えそう!
「その魔法は文字通り、闇で作られた球体を作る魔法だ。練った魔力の量である程度、大きさを変えることが出来る。使い道は、まあ色々だな。目くらましとか。さて、それじゃあ次のページを開いてくれ。別の造形魔法も試しておこう」
そうして、造形魔法の項目にある魔法を幾つか試してみた。
難易度は、師匠が入門編というだけあって特に難しいことは無かった。ただ面倒だったのは、魔法それぞれで詠唱が違ったこと。
いやまあ、当たり前っちゃ当たり前なんだけどさ。同じ造形魔法だから、いくらか似通っている部分もあった。だけどそれがむしろややこしくて……何回か間違えちゃった。
というか、そうだよね~……
魔法を練習するってことは、詠唱を覚えることでもあるんだよね。
……よくよく考えれば、この分厚い一冊がまるまる闇魔法の教科書。てことは、この厚さ分の魔法があって、それぞれの詠唱があるってこと。
「……」
そのあまりの途方の無さに、目の前が真っ暗になった感覚に襲われた。
さっきまで使ってたぐらいの詠唱なら、まだいい。でもリリアンヌ師匠の口振りから、さっきまでのは闇魔法の中でも簡単な部類なはず。てことは、まだまだ難しい魔法、もっと詠唱の長い魔法があるはずだ。
思い出すのは学校の国語の授業――
比較的短い詩や短歌を暗唱するテストがあったっけ。後は、寿限無とか外郎売なんかも覚えさせられたこともあったなあ……今じゃもう思い出せないけど。そして私は、あれ系の授業が大の苦手だった。
不味い……
今更だけど、不味い。詠唱を唱えることは知ってたのに、何でその可能性に思い至らなかったんだ!? 私がそんな沢山の詠唱を覚えられる訳、無いだろうがっ!
でも、やるしかない。それがこの世界の魔法のルールなんだから。魔法を使うには、詠唱が必要。であれば、詠唱を覚えるしかない…………ん?
そこで私は、一つ思い出す。
――そういえば、詠唱って省略できたよな?
前に兄や姉が詠唱しないで魔法を使ってるのを見たことあるし、それにリリアンヌ師匠も詠唱せずに使ってた。だから詠唱は必須という訳じゃないんだ。やろうと思えば、省略することが出来る。
これしかないッッ!!
「師匠。ちょっと試したいことがあるんですけど、いいですか?」
「ん? ああ、構わないよ。挑戦することは上達への近道さ。私が見ているから、是非やって見せてくれ」
「ありがとうございます!」
許可も出たし、早速試してみよう。
取り合えず、さっき使った<闇球>の魔法でやってみるか。
でも、いざやるとなっても、詠唱を省略してどうやって魔法を使うんだ?
口に出さずに心の中で唱えるとか? でもそれだと、省略したとは言えないか。だって結局は唱えちゃってるし。口に出すか出さないかの違いでしかない。詠唱も覚えなくちゃいけないしね。
もっと、こう、考えた瞬間に発動するみたいに、本当の意味で省略する必要がある。
……考えても分からんし、一先ず念じてみるか。
目をぎゅっと瞑って、魔法の発動をイメージしてみる。
掌を上に向けて、そこに闇球が出てくる感じで。
闇球、闇球……闇球の魔法、発動してくれ~~~~~…………
「――お?」
「リュ、リュシア。それは……!」
自分の感覚と、リリアンヌ師匠の驚いたような声で閉じていた目を開ける。
すると受け皿にしていた掌の上、そこにイメージした通りの形で闇球が収まっていた。見た目は完全に、さっき詠唱ありで出てきたものと同じだ。
「出来ちゃった……」
「詠唱を省略したのか!? ついさっき覚えたばかりの魔法で!?……はははっ、これは私の想像以上だ」
人間、やろうと思えばできるもんだなあ。
なんて考えながら、確認のためにもう一個、闇球を発動させる。
すると、左右の手に一つずつ闇球がある状態になった。うん、ちゃんと出来てる。
「多重起動まで……セシリア。この子は本当に魔法を習ったのは最近なのか?――いや、わざわざそんなつまらない嘘をつく必要もないな。分かっている。分かっているんだが、あまりにも驚きの連続でね。はぁ、手紙で君がいっていたことの意味が、ようやく分かった気がするよ」
「なら良かったわ。それで、どうする? このままリュシアの魔法の先生を続けてくれるかしら?」
「それは勿論さっ! むしろ誰が私以外の他人に譲ってやるもんか! リュシア、君と一緒ならいずれ、未だ見ることが叶っていない闇魔法の深淵に至れるかもしれない。これからもよろしく頼むよ!」
「はい! よろしくお願いします、リリアンヌ師匠!」
詠唱を省略したことが評価されたようで、最初っから乗り気だった師匠が、更に乗り気になってくれた。
「ふむ。今日は造形魔法だけで終わらせようと思っていたが、それだけじゃ物足りないだろう? 少し応用編を見せようじゃないか。なに、リュシアならすぐに使えるようになる。ああ、安心してくれ。さすがに精神干渉はまだ教えないよ。それ以外にも、闇魔法はまだまだ奥が深いのさ」
そう言うと、リリアンヌ師匠はハイテンションのまま、再び懐に手を入れて一本の棒を取り出した。
「これは魔法の補助具『杖』という。まあ見た目そのままだね」
なるほど、魔法使いといえば杖。単純に連想できる。童話とかに登場する魔法使いも、やっぱりあんな感じの杖を使ってたっけ。
私も欲しいなぁー、あとでお母さまに聞いてみよう。
と、そんなことは今はどうでもいい。
それよりもリリアンヌ師匠の魔法に集中しなくっちゃ。
杖を正面に構えた師匠は、さっきまではしていなかった詠唱をし始める。
「『深淵に息づく闇よ、永遠に揺らめく影よ。
我が身を抱き、虚無の懐に隠せ。
光を拒み、姿を覆い、時を忘れし静寂に沈め。
影と一つとなり、世界を欺け。
――<影潜>』」
そう唱え終えた瞬間だった。
リリアンヌ師匠の身体が、まるで床に穴でも空いたかのように下に落ちた。一瞬で全身が見えなくなり、さっきまで立っていた場所には何も残っていない。
何が起きたのか?――頭が理解するよりも早く耳元で声が聞こえた。
「……これが影の魔法さ」
「ひぁっ!?」
「はっはっは、驚いたかい?」
驚いて振り返ると、私の後ろにリリアンヌ師匠が立っていた。
うそ、さっきまで向こうにいたはずなのに……
「どうやって……」
「もちろん私が使った魔法の効果さ。影に潜り、その中を移動する魔法。消費魔力が大きいから、私だとこれぐらいの距離が限界だけどね。でもこんなイタズラには使える、面白い魔法だろう?」
「か、影に潜る! すごい……闇魔法ってそんなことも出来るんだ」
言われてみれば、影も闇の一種って考えられるのか?
いや、そんなことよりも……この魔法は使えるっ!!!
いざという時の緊急避難の手段として、こんなの最高じゃん! 影に潜っちゃえば、私がそうだったように外からは分からない。危険がなくなるまで、そこに籠ってれば安全だ。まさかこんな素敵な魔法が、あの闇魔法にあるなんて思ってもみなかった。
これは何としても、覚える必要がある魔法ね……!
「師匠、リリアンヌ師匠! 私、その魔法が知りたいです! 絶対に使えるようになりたいです!」
「おお、随分といい食いつきだね。確かに、影に潜れるこの魔法はカッコいいからな。いいだろう! 君を教える一先ずの目標として、この<影潜>の魔法にしようじゃないか。君程の才があれば、そう時間もかからず習得できるはずさ」
「頑張りますっ!」
こうして私とリリアンヌ師匠の、闇魔法の特訓の日々が幕を開けたのだった。
いかがでしたでしょうか?
今回は闇魔法の説明回のような話になってしまいました。こういう時に、どう書いたら説明っぽくなりすぎないか、そのラインを考えるのって難しいです……
という訳で、次は少し物語が動くかも? 次回の更新をお楽しみに!
次の更新は『9・21(日)』を予定しています!(でも、月曜日になるかも……?)




