第4話 闇魔法の先生、来る!
お待たせしました!
本当は土曜日に更新しようと思ったのですが、ちょっと体調を崩して間に合わず……
追記(9・17):
魔法学院の名前を書き忘れてたので、その点を修正しました。すみません<m(__)m>
フル―リア王国には、国を代表す2つの教育機関が存在する。
その一つ。王立フレーメン魔法学院。
その名が示す通り、魔法を教え、学ぶことを目的とした学院だ。
国内における魔法の最高学府であり、周辺各国からの評価も非常に高い。他国の魔法学院と比較しても、必ず上位三本の指に入る権威を持つ。国内だけでなく国外からも、多くの入学希望者が押し寄せるほどだ。その為、入学倍率は凄まじいものとなり、この学院の生徒、卒業生といえば優秀な魔法師の代名詞ともなっている。
そんなフレーメン魔法学院では、魔法を学ぶ以外にも、魔法の研究機関としての役割も担っている。攻撃、防御、補助、回復、日常などシーンごとの魔法や、炎や水、風や土といった属性ごとの魔法など。様々なテーマでの研究が行われているのだ。
では、その中で最も不人気な研究テーマとは何か?
人によって意見は様々だろう。
しかし学内でアンケートでも取れば、必ず一人は票を入れる。いや、上位にランクインして、一、二を争うほど不人気なテーマがある。
それは、闇魔法だ。
やはりと言うべきか、闇魔法に関するテーマはかなり少ない。それは闇魔法に対する適性が希少だという面もあるが、大半を占めるのは闇魔法に対する偏見や世間の目だろう。仮に闇魔法を研究したいなんて主張する者がいれば、もれなく変人扱いされるのは間違いない。
そういった理由もあり、現在フレーメン魔法学院で闇魔法に関する研究を行っているのはたった一人だけ。
例にもれず、学院内でも変人扱いされている『彼女』は、闇魔法の適性を持つ女性だった。勿論それだけでは無いが、それも理由の一つとして闇魔法をメインに研究している人物だ。
そしてそんな彼女の元へ今日、懐かしい友人から一通の手紙が届いた。
「セシリアから……暫くぶりだな」
少し悪く聞こえるが、彼女の研究室には滅多に手紙が届くことは無い。今日はそんな珍しいことが起こった日だった。
手紙を届けにきた学院の職員はそれを終えると、そそくさと研究室を後にした。その姿に溜息を吐くのはこれが初めてじゃない。
とはいえそんなことは些事。自分に手紙を送ってくるような酔狂な人物は誰か?と、送り主の名を見れば、それはかつて学院で共に学んだ彼女の友人の名だった。
「ふむ。私に手紙を送って来る理由……思い当たるとすれば、末っ子関連か?」
未開封の手紙を眺めながら、そう口にする。
「確か闇魔法の適性を持っていると聞いたが……ふむ」
少し考えて、ようやく彼女は手紙を開封して、その中身を読み始めた。
最初はその文面を読み、どこか昔を懐かしむような笑みを浮かべていた。しかし読み進めていくにつれて、その笑みの種類は徐々に変わっていく。そして手紙を読み終えたとき、彼女の顔は完全に研究者のそれになっていた。
「ハハハ……感謝するよ、セシリア。よくぞ私に教えてくれたっ」
既に彼女の頭は、手紙の返事なぞ考えていなかった。それを通り越して、手紙に書かれていた『ある提案』を承諾したつもりになっていたのだから。手紙を懐に仕舞った後には、もう出発のための荷造りを始めていた。
いち研究者として、いち魔法師として――何より、いち闇魔法を扱う者として。
その手紙の主題として書かれていた一人の少女への興味が、彼女を突き動かしていた。
「待っていてくれ、リュシア・フォン・エクレール。この国一番の闇魔法の使い手である私が、君を闇魔法の深淵へと導いてあげようじゃないか!」
そうして、その日の内に魔法学院の研究者が一人、エクレール侯爵領に向かって旅立った。
元々学院内でも交流の少ない彼女が、いなくなったことに気付いた者は少ない。そしてその目的を知る者はとくれば皆無だった。
自称、国一番の闇魔法の使い手。そんな彼女が向かう先。そこにいる闇魔法の適性を持つ、ちょっと変な少女。果たしてこの出会いが、闇魔法の夜明けとなるのだろうか……?
お母さまから始めて、魔法について教わってから一週間と少し。
私は今日も今日とて、お母さま監督の元、魔法の練習を続けていた。
「……」
横でお母さまに見守られながら、まずは目に魔力を通す。そうすることで魔力を見ることが出来るからだ。これ、本当に革命的だったね。現状、魔法が使えない私は魔力コントロールの練習しか出来ない。しかも魔力は本来見えないんだから、もしこの技術が無かったら全て感覚でやらざるを得なかった訳だ。
いや、ぞっとするわっ!!
全部が感覚頼りってヤバすぎでしょ!?
いやぁ~、助かった。特別な機材とか、熟練の技とかが必要じゃなくて本当に良かった。
と、そんなこと考えてる場合じゃない。今は魔力コントロールに集中しなくちゃ。
今やってるのは、初日にやっていたことの派生みたいなもの。魔石を使った方じゃなくて、放出した魔力で形を作るほうね。放出した魔力を空中で五つに分割して、それぞれを異なった形に成形するのだ。最初は二つから始めて、それをお母さま目線でクリアしたら一つ増やす。それを繰り返していった結果、今ようやく五つに来た感じ。
分割した五つの魔力、それぞれに意識を向ける。
まずは適当に視界に入った、部屋にある椅子を作ってみる。
椅子……スミレ……レンコン、は駄目か。れ、れ……レイピア?……アイスクリーム……む、む……ムキムキ?
「ふぅー……出来ました、お母さま」
「いいわね。それぞれが別の形になってるし、それに安定もしてる。いい魔力コントロールよ」
「良かったぁ」
「……ところで、それは何を作ったのかしら?」
「え?」
「いえ、何でもないわ。五つを別々にコントロールできていることが重要だから、その点でいえば問題無いわ、合格よ」
「そうですか?」
お母さまの何とも言えない微妙な表情が気になるけど。
あれかな? ちょっと後半が適当過ぎたかな? まあ自分でも最後のムキムキは分かり難かったかなとは思うけど。でも、一応合格っぽいから良しとしよう。
朝食の後からぶっ続けで練習してたから、そこで少し休憩を挟むことになった。ただし、その間も特訓ってことで、魔力の塊を球体の形で一つ浮かべている。現状、他の何かをしながら出来るのは一つが限界なのだ。もっと精進しなくては。
そうして貴族のティータイムらしく、紅茶と洋菓子を食べながら、気になっていたことをお母さまに聞いてみた。
「ところでお母さま。闇魔法の先生からは返事は来ましたか?」
初日の練習の後お母さまが、闇魔法を教えてくれる人に心当たりがあって、その人に手紙を書いたと言われていた。それから今日まで特に進捗が無かったので、もしかしたらダメだったのかと不安になり始めていたところだった。
「それがねぇ……手紙はとっくに届いてる頃だと思うんだけど、返事が無いのよ」
「……それってやっぱり、断られたってことでしょうか?」
「うーん、彼女がそんな不義理するとは思えないんだけど。断るにしたって、返事も無いのは少し変ね。手紙が届いてないのか、それとも向こうに何かあって動けないのか……そうね。もう一度、手紙を出してみましょう。それで返事が無ければ他を――」
そう、お母さまが言いかけたときだった。扉をノックする音が聞こえてきた。
お母さまが視線で合図して、部屋の中で待機していたメイドが扉を開ける。ノックの主はこのお屋敷の使用人。何の用かと思えば、その顔は少しだけ困ったように眉が八の字になっていた。
「失礼いたします」
「構わないわ。何かあったの?」
「ええ、それが奥様の知り合いだと名乗る方がやって来られて。どうも、奥様に呼ばれたから来たらしいのです。届いたという手紙も見せていただいたのですが、確かに奥様が出したもののようでした。どういたしましょうか?」
「知り合い、手紙?――もしかして「久しぶりだな、セシリア」……やっぱり」
お母さまの言葉を遮る声がした。その声は扉の前に立っている使用人の後ろから聞えてきた。声音的に、たぶん女の人かな?
「か、勝手に困りますっ。客室でお待ちいただくようにとっ!」
「構わないわ。大丈夫、私の友人なの。案内してくれてありがとう」
「そうなのですか? 承知しました。では私はこれで失礼します」
使用人が扉の前を空けると、さっきの声の主の姿が露わになった。
その人の容姿はかなり特徴的だった。
リュシアとして生まれてから、一度も見たことの無い黒髪。そして、そんな黒髪に映える黒目。その特徴はまさしく前世日本人のものだ。でも顔の造形が西洋寄りの彫りの深さがあるから、日本人っぽくは無いんだけど。そして全身がすっぽり入る黒いローブを着ている。何というか真っ黒くろすけって感じ。
そのせいなのか分からない。懐かしい黒髪黒目がそう思わせているのか。
どことなく、その人を見ていると親近感というか、近しい何かを感じる。
というかさっきの話からして、おそらくはあの人が――
「――リリアンヌ。いきなり来られるのは困るわ。返事を書いてくれれば、こっちも迎える準備が出来たんだから」
「返事?……そういえば書いて無かった気がする。まあどうにかなったんだ。細かいことは言いっこ無しだよ、セシリア」
「あのねぇ。私だから良かったものの、他の貴族にそんな態度したら不敬罪で首を斬られても知らないわよ?」
「それこそ問題無いね。何せ、わざわざ私を呼ぶような貴族はいない。今でも私と連絡を取り合っているのなんて、君ぐらいなもんだ。それに君なら、これぐらい何も気にしないだろう?」
かなり無茶苦茶な言いっぷりだ。というかお母さまを前にして、これだけずけずけものを言えるなんて凄い。口勝負になったら、お父さまでも敵わないのに。
それにお母さまの雰囲気も、いつもと少し違う気がする。呆れた様な雰囲気を出しつつも、どことなく楽しそうにも感じる。
「はぁ……相変わらずなようで安心したわ」
「ははっ、人はそう簡単に変わりはしないさ――ところで、そろそろ私の生徒に、私のことを紹介してくれないかい?」
お母さまと話していた女の人の視線が、私の方へと向けられた。
その目はなんというか……ちょっと怖い。蛇に睨まれた蛙というか、獲物をロックオンした肉食獣の目というか。え? 私これから食べられちゃうの?
「それもそうね――リュシア? どうかした?」
「あ、いえ。何でもありません」
「そう? それじゃあ、あなたの闇魔法の先生を紹介するわ」
お母さまからその言葉を聞いて、やっぱりと思った。
「彼女の名前はリリアンヌ。私が知ってる限り、この国で最も闇魔法に精通している人よ。そしてこれからあなたに、闇魔法を教えてくれる先生になる人――でいいのよね?」
「もちろんさ! そうでなかったらここまで来てないよ。さて、セシリア、君のお母様からご紹介にあずかったリリアンヌという者だ。好きに呼んでくれて構わないけど、師匠って呼んでくれると嬉しいな? 一度呼ばれてみたかったんだ。セシリアが言った通り、この国で一番の闇魔法師だと自負している。君の先生として、私以上の適任はいないだろうね」
す、すごい自信家だ……!
で、でも、これぐらいの方が逆に信憑性が高いというか。それにお母さまが言ってるんだから、本当にこの人は凄い闇魔法の使い手なんだろう。そんな人が私の先生になってくれるとか、さっきとは逆の意味でドキドキしてきた。
「それじゃあ、君の自己紹介も聞きたいな」
「あ、はい! 私はリュシア・フォン・エクレールと言います。魔法の練習はつい最近始めたばっかりで、闇魔法に関しては使った事もありません。でも、気合いだけは十分ですっ。よろしくお願いします!」
「ははは、気合い上等だ。それにしても…………大したものだ。こうして会話している間も、魔力コントロールが乱れていない。学院で学んでもいない、つい数日前に始めて魔法に触れ始めたとは思えない技量だ。これは俄然、楽しみになってきた……! セシリア。早速だが、闇魔法のレッスンを始めさせてくれないか?」
「到着して早々にそれなの?……せめて、ポットのお茶を飲み終わるまでは待って。リリアンヌも長旅で疲れてるんじゃない? こっちでお菓子でも食べて、少し身体を休めましょう」
「ん、そうか。そうだな。すまない、少し気がはやってしまった。それじゃあ、ご相伴に預かろう」
リリアンヌさんは、そう言うと空いている椅子に腰かける。それに合わせて、お母さまがポットから紅茶を注いでリリアンヌさんに差しだした。
「んっ……ふぅー。美味い。よしっ、茶は飲んだ! 早速始めよう!」
「ぶふっ!?」
こいつマジかっ!?と思わずむせてしまった。
その後、怖い顔になったお母さまに窘められて、リリアンヌさんの勢いは消沈した。
何というか、私の闇魔法の先生は、変な人なのかもしれない。
いかがでしたでしょうか?
ついにリュシアに闇魔法を教える先生がやって来た――けど、何か変わった人っぽい?
そんな自称、国一番の闇魔法師のレッスンは、リュシアにどんな変化をもたらすのか? 続きはまた次回をお楽しみに!
次の更新予定は『9/18(木)』となります!




