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第3話 魔法の練習をしてみよう!

お待たせしました!

 私が魔法を練習をしたいと、両親に訴えてから明けて翌日。


 今日から早速、魔法の練習を始めることになった。

 

 昨日の晩御飯の時、今日から練習を始めるって言われたときから、正直ドキドキしっぱなしだった。昨日の夜だって、結局あんまり眠れてない。遠足前の小学生かって、自分で自分に呆れてしまった。いや、寝なきゃ寝なきゃとは思ったんだけど、どうしてもね。


 そうして今朝も、ほとんど徹夜したような状態を起こしに来たリムに目撃されて、


「二日連続でリュシアお嬢様が自分で起きてるぅーー!!?」


 そんな感じで驚かせてしまったけど、まあそれはいいんだ。


 これから魔法の練習があるんだって考えれば、眠気なんて何のその。むしろアドレナリン的なのがドバドバ出まくってて、逆に頭が冴えてるかも。


「今日はよろしくお願いします、お母さま!」


「ええ。一緒に頑張りましょうね、リュシア」


 そしてなんと、私に魔法を教えてくれるのはお母さまなのだ。変に緊張しなくて済むから気楽でいい。

 それに聞いた話だけど、お母さまはお父さまに引けを取らないぐらい、凄い魔法師なんだとか。今でこそ一線からは引いてるけど、昔はぶいぶい言わせてたらしい――というのを、前に兄姉が言っていた。

 私自身は、お母さまが魔法を使っている場面を見たことが無いんだけどね。だから色んな意味で楽しみってわけだ。


「とはいえ、私が教えるのはどの魔法にも共通する基礎だけよ」


「そうなの?」


「残念ながら私は闇魔法の適性を持ってないの。だから教えようにも、教えることが出来ないのよ。だから、そっちはそっちで別の先生を探してるから、もうちょっと待っててちょうだい。でも、これから教えることは魔法師としての基礎中の基礎。とっても重要なことだから、しっかり覚えておくのよ?」


「分かりました!」


 昨日も少しだけ聞いてたけど、そういうことらしい。


 闇魔法を教えてくれる先生については、現在探し中なんだって。

 まあ、闇魔法だからなぁ。見つけるのはかなり苦労するんじゃないかと思ってる。お母さま達には面倒をかけるけど、そこはもうお任せするしかないからなぁ。

 ちょっと申し訳ないけど、そこはぐっと飲み込んで。私は私で、今出来ることを一生懸命やるしかないのだ。まずは目の前のこと、基礎の練習から頑張ろう!


 ちなみに、今いる場所は家、というかお屋敷だね、の中のとある部屋。

 普段はあまり使ってない部屋だ。ああでも、兄や姉が家にいた頃は、この部屋で勉強をしていた記憶がある。つまりは勉強部屋ってことだ。私には縁が無かった部屋だね。勉強? 少なくとも教師を付けた勉強は、してこなかった。だって、人と関わるの苦手だったし。


 お母さまは私の前に立って、黒板を使いながら、まずは理論から説明をしてくれた。

 というか、家に黒板があるって凄くね?とか雑音が頭を過ったけど、すぐに追い払って集中する。


「ところでリュシア。こんなことを聞くのもあれだけれど、あなた魔法の使い方は知ってるかしら?」


「ざっくりとですけど、詠唱を唱えれば発動すると思ってます。だから正直、今日のこの授業についても、何をやるのか全く想像がついてません」


「ふんふん、詠唱で魔法が発動する。確かに、その認識は間違っていないわ。でも、だとしたら、詠唱さえ唱えればどんな魔法でも発動するかしら?」


「それは……しない?」


「そうね。例え、正しい詠唱を唱えたとしても、魔法が発動しない場合がある。つまり他に必要な要素があるってことね。魔法への適性がまさにその一つよ。例えば私は水魔法と土魔法に適性があるから使えるけど、他の魔法は適性が無いから使えないの」


「お母さま、二つも適性があるんですか!? それってかなり凄いんじゃ?」


「確かに、二つ以上の適性を持っているのはとっても珍しいわ。三つ以上になると国に一人いるかいないかぐらい貴重よ。でもそれと同じぐらい貴重なのが――光魔法と闇魔法なの。だからリュシアが持っている闇魔法の適性は、とっても貴重なものなのよ」


「そうだったんだ……」


 そんな基本的なことすら知らなかった。

 闇魔法って一応、貴重な属性だったんだ。適性があったら嬉しいかは別にして。


「そして適性ともう一つ。魔法を発動させるために重要な要素、それが魔力コントロールよ。これの熟練度が、魔法師の優劣を決めると言っても過言じゃないわ。今からその練習法の一つを教えるわ」


 するとお母さまは、私に手を出すように言った。

 そして差しだした掌に、お母さまが一つの小石のようなものを置く。ようなものというのは、そこら辺に落ちているような石じゃなくて、黒くて光沢がある黒曜石みたいな感じだから。でもそれとも少し違ってて、上手い例えが見つからない。う~ん、色付きガラスとか?


「お母さま、これは?」


「それは『魔石』よ。魔力を貯めることが出来る性質を持っているの。リュシアには、今からその空の魔石に、魔力を一杯まで注いでもらうわ。体内の魔力を動かして、外部の放出し、魔石に注ぐ。これが魔法師への第一歩よ」


「へぇ……」


 身体の中の魔力を動かして――って。私、魔力なんて生まれてこの方、感じたこと無いんだけど。


 でも、家族で一番って言われてるぐらいなんだから、そこそこの量があるはずなんだよね。だからあるのは確かだ。後はそれを感じ取ることが出来れば動かすことも出来るはず。

 すると、まずは魔力がどこにあるかってとこからだ。地球だと気なんて概念もあったけど、アレは丹田とかだっけ。お腹の下らへんとか聞いたことがある。他だと、心臓とか脳とか? いやさすがに脳はないか? 


 うーん……丹田……心臓……魔力……


「っ……!」

 

 私的には心臓の方がイメージしやすいかも。丹田とかよく分からんし。


「お母さま。魔力って一か所に留まってる? それとも動いてる?」


「……ええ、そうね。基本的には全身を巡ってるわ」


「その流れの中心って心臓?」


「いいえ。おへその少し下、ちょうど身体の中心ぐらいの位置が中心よ」


「分かった」


 てことは心臓じゃなくて丹田か。うへぇ、イメージしにくいなぁ。

 まあでもやるしかない。


 魔力は全身を巡っている。

 

 その流れの中心は身体の中心、おへその下ぐらい。


 その流れから少し外れて、外の魔石に魔力を流す。


 そうして魔力の流れをイメージすると……少し。ほんの少しだけ、魔石を持ってる掌が暖かくなってきたような気がした。

 

 それから少しすると、その暖かいナニカの流れがぼんやり分かるようになった。


 か細い流れが、おへその下から伸びている。


 でも、何というか。その流れに引っかかりを感じる。寝起きに身体を動かすと、固まってるからバキバキなるみたい。滑らかに動かすことが出来ない。

 どうしてだろう?……いや、よくよく考えれば、生まれてから13年ずっと使ってこなかったんだから、そりゃスムーズに動くわきゃない。寝惚けたような状態に決まってるじゃん。

 だったら、まだ覚醒しきってない魔力とその通り道を叩き起こさなくちゃいけない。


 より太く、より早く、全身の魔力が巡るようイメージする。


 ――さあ、眠ってる時間は終わり。起きてっ!


 その直後だった。


 ――パリンッッ


「え?」


「リュシアッ!!」


 何かが割れる音がしたかと思えば、突然視界が揺れた。身体がバランスを保てないでふらふらすると、お母さまがさっと近寄ってきて支えてくれた。


「お母さま……私、どうしたの?」


「いきなり魔力を使い過ぎたのよ。まだ身体が慣れてないから、魔力に酔っちゃったのね。ごめんなさい、もっと早く止めに入るべきだったわ」


「ううん。私も勝手してごめんなさい。でも多分、魔力の流れが分かるようになったと思います。ほら――あれ!?」


 倒れる直前、暖かいナニカ――おそらく魔力が、大量に掌の魔石に流れ込んでいくのを感じた。

 きっとあれで魔石に魔力が溜まったから、お母さまにそれを見せようとしたら……魔石が真っ二つに割れてしまっていた。


「な、なんで――ごめんなさい、お母さま!」


「まあ、割れてしまったのね。そんなに心配しなくても大丈夫。安物だし、それに初心者には偶にあることなのよ。コントロールに失敗して、許容量以上の魔力を流すとこうなるの。だから次は、魔石の許容量を見極めつつ魔力を流さないとダメよ。これも練習よ」


「はい。気を付けます」


 そっか。流すイメージを強化したから、それで一気にドバっと魔力が流れちゃったんだ。

 でもそれが出来たってことは、ある意味さっきのは成功したってこと?


「少し休めば大丈夫だと思うけど……どうする。今日はもう止めにしておく?」


「いいえ! まだ続けます! 何か掴んだような気がするんです!」


 さっきの感覚を忘れないうちに、もっと試しておきたい。


「分かったわ。でも無理だけはしないようにね。危なそうだったら、次こそちゃんと止めるから」


「分かりました」


 お母さまから、さっきのとほぼ同じサイズの魔石を受け取る。

 

 でも本当に、さっきので感覚は掴んだような気がした。


 掌の魔石を乗せて、もう一度さっきと同じイメージを――だとまた割れる。だから今度は逆に、魔力を絞るようなイメージをする。

 すると最初はするすると魔力が流れ込んでいったが、徐々に抵抗が大きくなってくる。自転車のタイヤに空気を入れてるみたい。


 そして、これ以上流したらヤバいかもって思ったところで、魔力を止める。


「お母さま、どうでしょう?」


「どれどれ……限界ギリギリでちゃんと止められてる。凄いわ、リュシア」


「本当っ!? 良かった~」


「この短時間で覚えるなんて、本当に凄いことなのよ。誇ってもいいわ。リュシアは魔法に愛されてるのかもしれないわね」


 あはは……だとしたら、闇魔法が適性なのは勘弁して欲しかったけど。

 まあでも、練習に手こずるよりはスムーズに進んだ方がいい。やる気を出させるための方便だと分かっていても、お母さまに褒められると、本当に自分が凄い魔法師なんじゃないかと思えてくる。


 もしここで慢心して、練習をおざなりにすれば――悪役令嬢コースに行ってしまうかもしれない!


 うん。私は大丈夫。こんなところで油断はしない、出来る女。


 というかむしろ、色々出来そうで楽しくなってきた。


 さっきのと同じ要領で掌に魔力を集める。でも今は注ぐ先の魔石が無い。だから今度は、自分で球体の形に圧し止める。

 ……透明で、そこにあるかどうか分からない。魔力って色とか無いの?


「リュシア。何をしてるの?」


「魔力を掌に集めてみました。だけど、感覚では出来てると思うんだけど、目には見えなくて……」


「それは仕方ないわね。普通は魔力は目に見えないもの。でも見る方法もあるのよ。魔力を目に通すことは出来る?」


「目に。やってみます」


 言われた通り、魔力を目に流す。


 すると――


「わぁ……すごい……!」


 さっきまで何も無かったはずの掌の上。

 そこに少し黒みがかった半透明の球体があるのが見えた。


「これが、魔力……」


「本当に出来たのね……それで魔力が見えるようになったはずよ。私にもリュシアの魔力球が見えてるわ」


「本当に? じゃあ、ちょっと見ててください――」


 ただ球体を作るだけなのも面白くない。


 折角こんな自由に扱えるんだから、試しに色々作ってみようじゃないか。


 例えば丸、三角、四角。少し複雑にして立方体。もっと複雑にして手のような形を作ってみた。


 最初は微妙な形だったけど、慣れてくるとどんどん綺麗に、そして複雑な形が作れるようになっていく。それが面白くて思い付いたものを片っ端から作っていった。





 リュシアの母、セシリアは、本日何度目かも分からない非常識な光景に、驚愕していた。


 セシリアはエクレール侯爵家の血筋ではない。別の家から嫁入りしてきた。しかしながら、その魔法の技量は卓越しており、その点でいえばこの家に相応しい能力を有している。技量を比較したければ、国の魔法師団所属の魔法師を連れてくる必要があるほどだ。


 余談だが、セシリアの嫁入りに、この魔法の技量云々は関係無い。いや、全くの無関係では無いのだが、それを理由にした結婚という訳でも無かった。むしろその逆であり、国内でもそこそこ有名な恋愛結婚である。

 簡単に説明すれば――学生時代。共に切磋琢磨するライバルであった二人が、いつしかそれ以上の感情を互いに抱くようになり。その末に至ったのが、現在の関係である。周りからすれば、なるべくしてなった関係、と認識されている。


 そして、そんな魔法に精通するセシリアだからこそ、リュシアの魔法コントロールの習熟速度が普通じゃないことに気付いていた。


 リュシアがこれまで、ほとんど魔法に触れてこなかったことは、母である自身がよく分かっている。つまりこれまで、リュシアが魔法の練習をする機会は無く、今回が始めての魔法のレッスンだということだ。

 通常、自分の魔力を知覚し、魔力を動かすに至るまでにかかる期間は約一か月。もちろん、才能がある者ならばより短縮される。例を挙げればエクレール家の子ども達。リュシアの兄や姉は、およそ一週間でそれを成し遂げた。それだって、天才といって差し支えない才能が無ければ成しえない結果だ。


 にも拘らず、である。


 リュシアはそれらを教えられて、その日のうちにやってみせた。それも、セシリアの目の前で。


 今、リュシアがやっているのは、魔力そのものを利用した魔法未満の技。それは適性関係無しに誰もが扱える代わりに、扱う者の技量がダイレクトに反映される。魔法師にとって、最も基礎的かつ、重要な技術だ。

 それをリュシアは、まるで最初から使えたかのように、呼吸をするかのように自然に扱ってみせた。そして最初は拙かったそれが、時が経つごとに凄まじい速さで成長していったのである。既にその技量は、初心者では収まらないレベルにあった。


 ――セシリアは、全身に鳥肌が立つ感覚に襲われた。


 暫く眠っていた魔法師としての一面が、ひたすら魔法を極めようと邁進していたあの頃の自分が、強制的に叩き起こされたような、そんな気分にさせられる。母としてではなく、一人の魔法師として、リュシアの底知れぬ才能を前に、歓喜、嫉妬、戦慄……様々な感情がない交ぜになった。


 もし、これだけの才能が当時の自分にあったのなら。

 ひょっとすると、求めてもついぞ見ることが叶わなかった、魔法の深淵を除き見ることが出来たかもしれない、と。


 だが、そこでハッとする。


 自分は魔法師である前に、リュシアの母親なのだ。娘の才能を前に呆気に取られ、たらればを妄想している場合じゃ無い。ましてや、それに嫉妬するなんて。自分には、この宝石の原石のような才能を、正しく磨き、導くという役割があるんだ!と喝を入れる。


 未だ、発展途上にあるリュシアの魔法技術。


 もしその才能が本物ならば、きっとリュシアは歴史に名を残すほどの魔法師になる。

 セシリアはそう確信を抱いた。


 そのためにも、闇魔法を教える教師は慎重に選ばなければならない。下手な人物を選ぼうものなら、その才能の芽を摘む事にもなりかねないのだから。


(私が闇魔法を使えれば良かったのだけど……)


 闇魔法、並びに光魔法の適性は、それなりに貴重なのだ。

 残念ながらセシリアを含め、現在のエクレール家には闇魔法の適性を持った者は一人もいなかった。


(闇魔法となると……彼女を頼るべきかしら)


 リュシアが魔法を勉強したいと言い出した時から、セシリアの中ではその教師役として、一人の人物の顔が思い浮かんでいた。かつて学生時代、共に魔法を学んだ友人。珍しく闇魔法に偏見を持たず、今のリュシアと同じように、闇魔法を何かに役立てようと研究していた、ある意味では変人。


(手紙を書いてみましょう)


 そうして自分の思考に集中している間、リュシアが魔力造形で次々と知っているものから、よく分からないものを作り出していた。

 気が付いたときにはもう一度驚き、そして魔力を使い過ぎたリュシアの疲労を感じて、その日の練習を強制終了させたのであった。

いかがでしたでしょうか?

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