第1話 間違いない……私は悪役令嬢だっ!!!
どうも、ミジンコです!
今回は新作として異世界ファンタジーの中でも、悪役令嬢ものにチャレンジしてみました。
あまり慣れないジャンルなので、お見苦し部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします!
何だかふわふわした、心地いい感覚……
何だろう? 雲の上に寝ているような、それとも水の中を漂っているような。文字通り身体がふわふわするような、今まで感じたこと無い……そう、安心する感じ。
すると、ほっと温かい何かが頭を撫でた様な感じがした。
「――」
あれ? 何か言ってる?
「――」
確かに声みたいなものが聞こえる。
でも、音が小さすぎて何を言ってるのかまでは分からない。
ごめんね。
聞き取ってあげたいんだけど、上手く聞こえないの。それに、声を出そうとしても何故かそれが音にならないんだ。だから誰か知らないけど、あなたに何かを伝えることも出来ない。
でも何となく分かる……
あなたの声が優しさに満ちてるってこと、何かを心配するような不安な声だってこと。こんなこと言うのはあれだけど、心配しないで? 何も心配するようなことは無いんだから。私は大丈夫。ちょっと眠くてうとうとしてるだけ。
ああでも、これも伝わって無いのかなぁ。
もう少し、もう少しだけ寝かせて……そうしたらちゃんとあなたのお話を聞くから……――
ちゅんちゅん――
「ん……」
鳥の鳴く声が聞こえる。
「……もう、朝?」
いつもだったら朝の寝起きは悪い方だ。でも今朝は自分でも驚くぐらいすっきりと目が覚めた。窓から差し込む光はまだほんのり薄暗いし、さては妙な時間に起きてしまったか?
でもこれだけ調子良く起きれたのに、二度寝するのも勿体ない気もする……
「……起きるか」
ベッドから上半身を起こして……起こして……
「――は?」
ベッドから起き上がって見たものは、見慣れた自分の部屋――――ではなく、見覚えの無い部屋だった。
「ここ、どこ?」
豪華な部屋だ。私の、六畳あるかないかぐらいの部屋なんかより、ずっと大きくて広い部屋だった。
寝惚けてるんだと思って、目を擦ったり頬っぺたを抓ったりしてみたけど……結果ただ頬っぺが痛くなっただけだった。それでも見える部屋の風景には一切変化は無い。
間違いなく、私の部屋じゃない。
見れば見るほど、自分の部屋じゃないことが分かる。
家具は見たこと無い物ばっかりだし、何かこうオシャレで品がある感じ。
それに今気付いたけど、このベッド、天蓋がついてる!? 中を隠すように、薄っすらとレースのカーテンが左右にかかっているのだ。
もちろん、友達の部屋でしたとかそんなオチでは断じてないっ。というか私の友達にこんなお嬢様はいない!
もう訳分かんな過ぎて、脈が早くなって呼吸が浅く早くなってくる。
――はぁ……はぁ……
何一つ、今の自分の身に起こったことを飲み込むことが出来ない。
ふらふらっとベッドから立ち上がって、薄暗い光が差し込む窓の方へ歩いていく。少し震える手で、おそるおそるカーテンを開くと……広くて、どこかのお城みたいに整備された庭――そんな光景が視界に飛び込んできた。
誘拐?
拉致?
監禁?
いつ?
誰が?
どうやって?
なんで?
何を考えればいいのかもまとまらず、色々な疑問が瞬時の頭の中を駆け巡る。
そして、気付いた。
「っ!!」
窓ガラスに反射して映っている自分の姿。そこに……まるで見覚えの無い人物が映っていることに。
窓に向かって手を伸ばすと、そこに映る見知らぬ人の像も同じように手を動かした。
――誰……!?
窓に反射しているのは、位置的に自分以外にあり得ないはず。なのにその姿に全く見覚えが無い。髪も、目も、顔も、その着ている服装だって、まるっきり知らないものだった。
私じゃない。でも、私以外にあり得ない……
「やば。気持ち悪くなってきた」
朝起きたら知らない部屋にいて、知らない姿になっていたなんて……そう簡単に信じられる訳がない。
今見たものが本当かどうか確かめる為、部屋の一角にあった鏡台に向かって行く。まだあの窓ガラスが、私以外の誰かを映していた可能性だってある。ほら、背後霊的な?……いやまあ、それはそれで叫び出しそうなぐらい怖いけど。
下を向きながら、なるべく鏡に映る姿を見ないようにその前に立つ。
自分を落ち着けるために、数度深呼吸を繰り返して、そうして覚悟を決めてから意を決して顔を上げる。
「……ははっ」
鏡に映った自分の姿を見た私は、思わず笑ってしまった。それは決して安心からくる笑いじゃない。むしろその逆で、目の前の出来事が理解出来なくて諦めから出た笑いだ。
改めて自分の姿を今度は自分の目で見下ろしてみる。
着ているのは上は半袖で下はくるぶしほどまである、確かネグリジェっていうんだっけ? 腕を見れば、日焼けも知らなそうな白磁のような肌と、綺麗に切り揃えられて光沢のある爪が目に入った。染みも無ければ、ほくろすら無い。いや、無くなっている。全身のほくろの位置を覚えてる訳じゃないけど、でも私の身体は、元はこうじゃなかったはず。
肩から胸の辺りまで、流れている髪はさらさらストレート。そしてまさかの……銀髪。薄暗い部屋の中で、ほんの少しの光を反射して、輝いているようにも見える。
顔を触ってみれば、もちっとすべすべとした肌触りが返ってきて、さっき抓ったところだけが少しだけ熱を帯びていた。
これは、私の身体じゃない。
でもこれは、ワタシの身体だ。
ワタシ? ワタシって……誰?
寝惚けていた脳がようやく起動したように、頭の中を凄まじい量の情報が、いや記憶が駆け巡っていく。その中には二つの記憶があった。
一つは、地球で過ごしていた、女子高生だった私としての記憶。
もう一つは、この世界で生まれた、この世界の住人であるワタシとしての記憶。
二種類の、違う人間としての記憶が、確かに頭の中にあった。
「私は――――リュシア・フォン・エクレール」
その瞬間、何かがすとんっと腑に落ちた様な感覚があった。
リュシア……そう、リュシア。
それが私の名前だ、今の。
この身体も、あのベッドも、この部屋も、全部リュシアとしては見慣れたもの。何でさっきはあんなに混乱したのかってぐらい、落ち着いてそれを理解することが出来る。
じゃあ、ワタシがリュシアなんだとしたら、私の記憶は何なの……? 夢? 幻?
それとも……そこに至って、ようやく私は今の自分の状態を悟った。
そうか、私――
「転生したんだ……」
そう考えると、ごちゃごちゃしていた色んな何かがストンッと、腑に落ちたような気になった。
今の私は、リュシア・フォン・エクレール。13歳の女の子。
「…………死んだ記憶とか全然無いんだけど」
いや、本当に思い当たる節がない。だって最後に覚えてる記憶なんて、普通にベッドに入って寝たところだもん。いつも通り学校に行って、いつも通りご飯を食べて、それでいつも通りに寝たはずだった。てことはもしかして、寝ている間に死んだ? そういう話も聞くっちゃ聞くけど、どっかに頭をぶつけたとかそんなことも無かったはずだけど……
……まあ死んだ時の記憶なんて、思い出さない方が正解かもね。
今更何をしたところで、元に戻れる訳でも無いし。思い出したところで、もし苦しんで死んだとかだったら、むしろ思い出さなきゃ良かったってなるかもしれない。
だから私は今を、リュシアとしての人生を生きていけばいいんだ。
そう受け入れたら少しだけ、気持ちが楽になった気がする。すると安心したからか、ちょっとだけ眠気がぶり返してきた。あくびをしながら天蓋付きベッドに戻って、広いベッドにダイブするようにごろんっと寝転がる。
「固っ……それに、手触りも微妙。ものは良いはずなんだけど……枕もちょっと柔らかすぎ? うわぁ、今までは全然気になんなかったのに記憶取り戻した途端に気になり始めるぅ」
こういうところは、二つの記憶があるデメリットかもしれない。
というか今の私の好みとか趣味って、どっちに影響されるんだろう?……ああでも何となく、好みはそんなに違わなそうかも。寝具については、単純に地球のものを知ってるからこそ思っただけだし。
というか、私の中にあるリュシアとしての記憶を辿ると、文明とか技術は地球の方がかなり発達してそうに思えた。こっちの世界はゲームとかによくある、中世ヨーロッパ風の王道RPG的な世界。そう考えると、これまで何であれを普通だと思っていたんだ?ってことが山ほど思い浮かんでくる。
こんなことなら地球での記憶なんて無い方が良かったんじゃない?
なんて思っても、時間を戻せる訳でも無し。時間はかかるかもしれないけど、幸いリュシアとして生きてきた記憶もある。徐々に馴染んでいけるよう頑張ろう。
――ところで、前世の記憶を思い出したせいで、忘れてることとかってないよね?
ちょっと心配になって来たから、この隙に現状確認でもしようかな。多分メイドが起こしに来るまでは、まだまだ時間があるはずだし。早く起きれて良かったかもしれないね。
さてさてっと。まずは、自分のことから思い出してみようかな。
名前は『リュシア・フォン・エクレール』。エクレール侯爵家の三女として生まれた。年は13歳。性格は……引っ込み思案な方だったかな? あんまり自分から喋るタイプじゃなくて、話しかけられれば手短に答えるぐらい。コミュニケーションはあんまり得意じゃない。しかもそれが、他人が相手ならまだしも、家族にすら上手く喋れないという筋金入りだ。
前世の私は、どっちかというと周りからお喋りって言われる方だった。そういう点ではあんまり似てないかも。中身は同じなのに性格が似ていない……何だか不思議な気分。
でも今は前世での経験があるから、前よりもずっとスムーズに喋ることが出来るはずだ。元々リュシアが口下手なのは、喋るのが嫌いとかそういう理由じゃなかったしね。むしろ家族とはもっともっと喋りたいとすら思っていた。
ふむふむ、根っこの部分はやっぱり似てるのかな?
特に自分のことについては、あれこれ思い出せないなっていうのは無かった。
次に、家族のことを思い出してみよう。
両親はまさに、仲のいいおしどり夫婦って言葉がぴったりの二人。気が付くと二人でラブラブな空気を作ってたりする。あと私って三女だから、上に姉が二人いるのだ。加えて兄も一人いる。つまり私は四人兄妹の末っ子ってことだね。
ちなみに、両親、兄姉揃って全員美形である。我が家は美形一家だった。父はクールイケメン、母はおっとり美人、兄は優男イケメン、上の姉はクール美人、下の姉は儚げな美人。
皆、こんな喋るのが得意じゃ無くてお世辞にも愛想が良いとは言えない私のことを理解してくれる優しい人達だ。よくお茶会に誘ってくれたり外に連れ出してくれたり話しかけたりしてくれる。まあ家族に恵まれてるのは間違いないね。
私? 私は……どっちかと言えばクール系、かな?
ただ、父のクール成分が濃縮されたような形で現れてしまった感じで、真顔で鏡の前に立つと睨んでいるように見えるし、笑っても嘲笑しているように見える。
い、いや顔は良いんだ。兄妹の例に洩れず美形だとは思う。
ただ、その……ちょっと悪役顔なだけで。
「どうせ同じクール系なら、上の姉みたいな凛々しい系の美人さんが良かったなぁ……」
まあそれは一旦置いておこう。
あとはこの家と住んでる国のことぐらいか。
まずこの国はいわゆる大国に分類されるぐらい大きな国だ。
名を『フル―リア王国』という。気候は日本と同じで四季がある。もっとも夏はずっと涼しいし冬も比較的温かいんだけど。雪とかは滅多に降らないけど北端の方に行けば見れるとかそれぐらい。
そんなフル―リア王国で父が当主を務めるエクレール侯爵家は、この国でも上から数えた方が早い名家として知られている。単純に爵位が高いってことでも名家ではあるんだけど、他にも別で有名なものがある。何かと言えばなんとこの家、魔法師の家系としても有名なのである。
そう、魔法師! あの魔法っ!!
父も母もそれに兄も姉たちも皆魔法が得意なのだ! それは家系だからという点を差し引いても周りが歴代最高だなんて噂するほど。父なんてこの国のエリート魔法師が所属する王国魔法師団、その副団長を任されるほど!
だから家の図書室にある本も、かなり魔法に関する本に偏っていた。読んだことはあるけど正直何が書いてあるんだかちんぷんかんぷん。まだ魔法を詳しく習っていないこともあるけど、イメージとしては数学と国語の教科書を合わせてそれが全部英語で書かれてたような感じ?
見てるだけで頭が痛くなった……
そんな魔法で有名な我が家において、私も例に洩れずとある魔法に対する適正が高かった。
加えて持っている魔力量が家族の中で一番多かったのだ。
ただなぁ……
「何でよりによって、適性のある魔法が<闇魔法>なんだよっ! しかも闇魔法への適性はピカ一のくせして、他の魔法への適性がからっきしとか性能がピーキーすぎるぅ!!」
闇魔法――まあ字面からしてあんまりいいイメージは無いよねぇ。
実際そんなイメージ通りの魔法で、出来ることと言えば精神に作用させること。
私もうろ覚えなんだけど、闇魔法が精神に作用するとかで、その逆の光魔法が肉体に作用する、だったような気がする。似たような魔法に見えて、作用する先が身体が精神かでイメージが大きく変わるんだよねえ。 だって精神に作用するとか、催眠とかそういう悪い使い方のイメージが先行しがちだし。
「実際やろうと思えば催眠とかも出来ちゃうし。しかも私の魔力量が多いのがまた微妙だったんだよねぇ……」
闇魔法には光魔法と違って致命的な欠点が存在する。
それは自分より魔力量が多い者にはほとんど効果が出ないこと。
対になってる光魔法にはそんな制限無いのに何で闇魔法ばっかりっ!
こんなの理不尽じゃない!?
そしてもう一つデメリットがあって。それは闇魔法に適性が高い人は、何故か魔力量が少なく生まれてくることが多い、ということ。つまり一般的な闇魔法の使い手は、イメージするような派手な事は出来ないのだ。
そして私は何故か、魔法一家で一番の魔力を持って生まれてしまった、闇魔法の使い手なのである。
これが何を意味するか分かる……?
私が口下手になった切っ掛けも、適正が闇魔法だって分かってからだっけ。
つまりまあ、色々あったということだ。あんまり面白い話じゃない。
「それで私は、無事準引き籠りになりましたとさ、と…………あれ?――」
そこまで考えたところで、ふと脳裏を過るものがあった。
高位貴族の令嬢。
優秀な親、兄姉がいるけど自分は適性が微妙なことで白い目を向けられる。
その適正は精神に作用する闇魔法。
しかも大量の魔力を持っていて色んな人に闇魔法を使うことが出来る。
そして美形ではあるものの、見ようによっては他人を見下しているように見える顔つき……
「私って…………悪役だったりする?」
乙女ゲームとかによく登場しがちな、主人公たちの邪魔をして、恋愛を引き立てる邪魔者。
「私が悪役令嬢? いやいや……えぇ、そんなことある?」
でもほぼほぼ王手の状態だよね?
これで王子の婚約者でもいれば完全に――
「――あ。私の婚約者、王子だった」
終わった……
完全に王手をかけられた。ていうか詰んだ。
「た、対策を!! 対策を考えねばっ!!!?」
生き残るためにっ!!!
いかがでしたでしょうか?
悪役令嬢ものにありがちな要素が盛りだくさんの、コメディものとして書いていく予定です。
恋愛要素はちょっと薄目なので、異世界ファンタジーにしましたが、もしかすると恋愛要素も増えるかも?
更新は不定期で、週に2~3回程度更新していきたいと考えています。
次の更新は『9/3(水)』です! よろしくお願いします!




