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捕食者のサガシモノ  作者: 星 ひかり


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五 捕獲開始

「見つけた」

 愛桜(ちはる)(あかり)灰鳴(かいめい)の視線の先に、ユニコーンが静かに佇んでいる。ここからの距離は百メートルほどで、木々が邪魔で全身が見えないが、異質なオーラがディールだと証明している。

 山に入る前、担当者からはユニコーンが山のどこにいるか分かっていないと聞かされていた。だから周囲を警戒しながら探していたのだが、思ったより早く見つかってよかった。

 

 ――よかったのだが、様子がおかしい。


 三人は木の陰に隠れて身構える。

 違和感の正体を突き止めるべく、よく見ようとするが、遠くて確かなことは分からない。

「寝てる、のか?」

 灰鳴にはそう見えたらしい。しかし、あれは違う。

「怒ってる......?」

 灯の異常にいい視力は、そう捉えたらしい。

「灯が正解。相当怒ってるな」

 愛桜はユニコーンの怒気を感じ取ってそう言った。しかし、なぜ怒っているのかは不明だ。ディールは怒ること自体珍しい。

 三人が観察を続けていると、

「あれ」

 と、灯がユニコーンの足を指差(ゆびさ)した。

 愛桜と灰鳴も目を凝らしてみると、足の付け根辺りから出血しているのが見える。

「なるほど。そういうことか」

「違反者、か」

 愛桜は納得して冷えた声を、灰鳴は怒りの混じった重い声を漏らした。


 ユニコーンにつけられた傷は、恐らく銃創だ。

 ユニコーンは遠くから見れば鹿に見えなくもない。死ぬのを覚悟でディールにちょっかいを出そうと思う馬鹿でなければ、誰かが鹿だと思って撃ったのだろう。

 こういうことがあるから、現在は個人的な動物の狩りが一切禁止されているというのに。


「ねぇ、あそこ」

 灯は、指差す方向をユニコーンから逸らす。灰鳴はその方向を目で追い、表情が険しくなる。

「子供か」

 ユニコーンの近くに、子供が二人うずくまっていた。

「怪我は無さそうだけど、怖くて動けないんだと思う」

 灯は目がいい。百メートル離れていても、目を凝らせばくっきりと見えるほどに。

 そうして見た詳細を聞き、愛桜は背中に斜めに掛けた鞘と、横に掛けた鞘から短刀を引き抜く。

「灰鳴、子供たちを頼む」

「あぁ、任せろ」

「灯、ユニコーンの気を引き付けてくれ」

「了解。打つよ」

 灯は背負った弓を下ろし、構える。

 愛桜は灰鳴と灯を見て頷き合い、ユニコーンを見据える。


「打て」


 下される愛桜の命令。


 それを合図に、灯は矢を放った。

 矢はユニコーンに命中するが、固い皮膚に弾かれて傷は負わせられない。

 ユニコーンはこちらを睨みつけてくる。無傷だが、全く痛みがないわけではないのだろう。更に怒気を纏い、下ろしていた腰を上げてこちらに走り出す。


 愛桜も木の陰から出て、ユニコーンへ一直線に走る。


 突進してくるユニコーンを直前で避け、すれ違いざまに短刀を振り下ろす。皮膚は固く、易々(やすやす)と傷はつけられないが、真っ白な毛で覆われた体に赤い線が浮かび上がる。

 浅く(やいば)が入ったが、致命傷には程遠い。(わず)かなかすり傷だ。


 しかし、ユニコーンにとってはその傷が大事(おおごと)のようだ。

 全身を震わせるような悲鳴を響かせた。


「っ……」

 悲鳴、奇声、絶叫と言える不快な音が脳を揺さぶる。


 愛桜は、耐えられず耳を塞ぐが、瞬く間にユニコーンの角が胴体を突き刺そうと正面に迫る。愛桜が血をまき散らして串刺しになる、その寸前、キンッと甲高い音が鳴った。


 愛桜が、なんとか刀で防御した音だ。


 刀と角が拮抗し、このままでは刀が折れると判断。瞬時に刀を逸らして、流れるように角の軌道を逸らす。

「くっ」

 それでも角を逸らしきれずに腕を(かす)め、地面に血が落ちた。

 愛桜は手を開いたり閉じたりして動くことを確認する。幸い傷は浅く、腕も動く。


 ユニコーンは拮抗する力が急になくなり、勢い余って後ろまで突き抜けていた。

 向き直り、睨む視線は愛桜だけを捉えている。


 そんな中、愛桜はユニコーンから一瞬目を逸らし、子供たちはもういないことを確認する。無事、灰鳴とこの場を離れられたようだ。これで気にせず戦える。

 ユニコーンはそのことに気づいていない。子供たちは保存食でしかなく、目の前に迫る危機より保存食を気にかけることはないからだ。


 愛桜が、ふっと脱力し、わざと隙を見せると、ユニコーンが突進してくる。隙を見せた時に来る攻撃は予測しやすい。一直線に向かってくるから、たった一歩、横に逸れるだけで(かわ)せる。躱した後はユニコーンに隙ができる。愛桜はそこを逃さず、短刀を突き刺す。


 刃の先が少し背中の肉を貫いた。


「キッ……キッィ――‼」

 悲鳴を上げるユニコーンから遠ざかろうと、愛桜は刃を引き抜こうとする。しかし、硬い皮膚で刃は固定され抜くことができない。

「くっ」

 愛桜は、刺さった刀は諦めて距離を取る。


 再び突進してくるユニコーン。愛桜はそれを避け、残った一刀を側面から振り下ろす。ユニコーンは、新たにできる傷を気にする素振りはせず、今度は前足を高く上げて踏み潰そうとしてくる。

 しかし、その態勢は腹ががら空きだ。

 愛桜はユニコーンの下に潜り込み、腹に刃を這わせる。皮膚が比較的薄い腹には、ある程度の傷を負わせることができ、血が噴き出した。

 ユニコーンの動きが遅いわけではない。愛桜がほんのゼロコンマ一秒でもその場にいれば踏み潰されていた。

 たった一瞬、愛桜の「敵の懐に入る」という迷いのない判断が功を奏しただけだ。

 

 愛桜はユニコーンの下を抜け、返り血を拭う。

(このまま失血で気を失ってくれるといいんだけど……そう簡単にはいかないよな)


 腹に傷を負ったユニコーン。血で赤く染まっていく体。

 そして、ユニコーンの纏う空気が一変する。


 怒気が消えたのだ。

 あれだけ怒りを露わにしていたのに、今は冷たい空気だけを纏う。

 圧倒的力を持ち、人間など気にもかけないような、そんな高貴で高慢な存在感を漂わせる。


「ようやく、神らしいな」


 刀一本では厳しそうだ。やはり、慣れた二刀流でないと。

 太腿に巻いたベルトに予備の短刀が掛けてある。愛桜がそれを引き抜こうと少し動いた矢先、ユニコーンが仕掛けてきた。

 お得意の突進だ。

 何度も避けていた突進で、一直線に向かってくるから避けやすい攻撃。それが、これまでとは全く違うものになっていた。

 

 衝突音が響く。



 ――威力とスピードのみを最大限に引き出した猛攻を、愛桜は避けられなかった。


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