四 山中にて
「それにしても珍しい。前のユニコーンの仕事いつだっけ?」
山の中、『信者』による怒声が届かなくなったところで灰鳴が切り出した。
灰鳴は山に入った途端仕事モードだ。枕は抱えているが、目がキリッとして声も間延びしていない。背筋も伸ばしていて、その姿は別人のようだ。
「二年前……かな」
灯が記憶を遡って答えると、聞いた愛桜はその時の事を思い出した。
そういえば、二年前にもユニコーンの狩猟をしたことがあった。
「確か、五人での仕事だったな」
少し懐かしんでいると、灰鳴が枕を抱え直しながら言う。
「そういえばそうだった。なら俺たち、二年前よりは強くなってるのかな」
「だといいけど」
確かに、二年前は五人がかりでやった仕事が、今は三人でできる。強くなっていることを願うばかりだ。
「炎は死にかけたもんな」
「そうだった」
灰鳴がくすっと笑いながら言って、愛桜もその時の光景を思い返して少し呆れた。
確か、死にかけたのはユニコーンとは全く関係なく、足を滑らせて山を転げ落ちたからだった。
当時は笑える状況ではなかったが、今では笑い話だ。
「あの時は角二本、今回は三本だっけ?」
灰鳴が確認すると、愛桜が頷く。
「そうらしい。角一本分、二年前より強くて知能もある」
ユニコーンの凶暴さは頭に生える角の数で決まる。角の数は最大五本で、多いほど凶暴で知能も高い。そして、中央に生えている角の下にエネルギー源の角がある。
「大丈夫……みんな、頑丈になったと思うから」
灯がグッと拳を握りしめて意気込んだ。
強く、ではなく頑丈。
確かに、二年前はまだ成長期で、体つきは今よりもっと小さかった。意図して鍛えたわけではないが、次から次へとやって来る仕事をこなすうちに自然と鍛えられ、今では筋肉に覆われたガッチリした体になっている。
「頑丈……か。確かに」
「ふっ」
愛桜の口角が上がったのに対し、灰鳴は分かりやすく吹き出していた。
「ちょっと二人ともなに笑ってるの?」
「いいや、言い回しが灯っぽいから」
「そうかな?でもそれは笑うところ?」
灯がむっと頬を膨らませるから、灰鳴はごめんごめんと手を振る。
「でもまぁ、今回は樹海じゃない分マシだな」
言いながら、灰鳴は木に囲まれた周囲を見渡した。
愛桜もうん、と頷く。
「少なくとも遭難して死にかけることはなさそうだ」
「それは二年前の俺らだろ」
「そうだった」
そんな調子で話し、三人同時に足を止めた。
「見つけた」
静かに言った愛桜の声が、一瞬にして張り詰めた空気に変える。
三人は同じ方向を向き、視線の先にあるものを見据える。
そこには、神々しさを纏う生物が一体。
白馬のような見た目だが、真っ白な体毛は光が反射するほど艶があり、あまりの美しさに目を奪われてしまいそうになる。
しかし、ただ美しいだけではない。頭部にはごつごつした三本の角が真っ直ぐ生え、それが美しさを歪にしている。
そう――これが、伝説の生物。ユニコーンと呼ばれる存在だ。




