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捕食者のサガシモノ  作者: 星 ひかり


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2/18

二 カミトカゲ

 暗闇の中、キンッ、キンッと甲高い音が立て続けに響く。

 音源は広い洞窟の中からだ。そこには刀を振り回す人物が二人いた。

「ハァ、ハァッ」

 刀がぶつかる音に加え、二人の荒い息遣い。それともう一つ、


 ドンッ、ドンッと轟音が響く。


 轟音の正体はトカゲだ。十メートルほどある巨大トカゲで、カミトカゲと呼ばれる生物だ。

 二人はカミトカゲに斬りかかっては固い皮膚で弾き返され、洞窟に甲高い音を響かせていた。

(えん)、まだいけるか?」

 二人のうちの一人、愛桜(ちはる)が声を掛けると、元気な声が返ってくる。

「おう!」

 愛桜(ちはる)は十七歳、(えん)は十六歳の少年だ。

 二人の仕事は、人に危害を与える獣を駆除すること。

 

 ――現在時刻は深夜零時。洞窟の中で二人が戦い始めてから一時間が経とうとしていた。


               ******


 今回の仕事のはじまりは数時間前。ちょうど愛桜(ちはる)が入浴を済ませて寝ようとしていた時のこと。

 布団に入って一秒もしない間に電話が鳴った。

「仕事だ。内容はメールで送る。すぐに出発しろ」

 電話に出た途端そう言われて、愛桜はため息を吐きたくなるのを堪える。

(風呂上がりなんだけどなぁ……)

 せっかく体を綺麗にした後だ。できれば外に出たくない。それに、二十時間ぶりの睡眠だったのだ。長時間の仕事終わりにようやく休めると思っていたのに。

 とはいえ仕事だ。雇われの身でそんな気持ちは表に出せず、平坦な声で答える。

「分かりました」

 愛桜が承諾すると、すぐに電話が切れた。

 今度は携帯にメールが入り、愛桜は開いて仕事内容を確認する。そこにはこう書かれていた。


 内容 カミトカゲの駆除

 担当 愛桜、炎の二名

 場所 洞窟内

 注意事項 爆薬類、銃火器の使用不可。洞窟内で光、灯りを当てること不可。洞窟の破壊不可。詳細は現地に行き、依頼人に聞くこと。


               ******


 愛桜が仕事仲間の炎と共に現地向かうと、住職が待っていた。

 寺の入り口に立つ住職は二人を見た途端、嫌悪の視線をぶつける。

「子供の、狩人……」

 嫌悪感を隠しもせずボソッと出た言葉に、開口一番にそれかと二人して呆れた。

「仕事の詳細を教えてください」

 愛桜が聞くと、住職は嫌そうに話し始める。

「寺で管理している洞窟の中にカミトカゲが目撃された。駆除してくれ。洞窟の奥には祠があるから、絶対に近寄らせるな」

「分かりました。祠があるなら洞窟ごと破壊して駆除はできませんね。光を当ててはならないと聞きましたが、どういうことですか?」

 愛桜の問いに、住職は急にたどたどしくなった。斜め下を見て目も合わせない。

「光は……当てるなと、言葉を授かったんだ」

「誰から?」

「決まっている。祠に祀られている仏さまからだ」

 住職は腕を組んでそう言った。随分自信気だ。

(よくそんな嘘を胸を張って言えるものだなぁ)

 と、愛桜は言葉に出さず住職を見る。住職はやはり目を合わせず、どう考えても嘘としか思えない。

 何か怪しい。が、今追及しても無意味だ。仕事に関しては何かを変える力も覆す力も持っていない。雇い主が受けた仕事は、どんな内容でも、どんな理由があっても、やり遂げなければならない。それができなければ死ぬだけだ。

「……分かりました。つまり、明かりのない洞窟の中でトカゲを探し、駆除すればいいんですね」

「ハハッ。無茶言うよな。今は夜だぜ? 行ったこともない洞窟の中なんて歩くのがやっとだ。視界がほとんど見えない場所で戦えと?」

 小声で囁かれた愚痴は、炎が放ったものだ。それは住職の耳にも聞こえ、炎は鋭く睨まれる。

(聞こえるように言ったな……)

 愛桜としては、余計な諍いに巻き込まれたくないのでそっと息を潜めることにする。

「生意気な。金は払ってる。文句を言われる筋合いはない」

「はいはい、分かってますよ」

 炎は完全に嘗めた態度を取っていて、穏便に済まそうという気は微塵も感じられない。

 まぁ、気持ちが分からなくはないが。

(煽るなよ、炎……)

 心の中でため息を吐き、本格的な争いに発展する前に愛桜が冷たい声で割り込む。

「それで、駆除というのは、殺してもいいんですか?」

 争いに巻き込まれたくないが、無駄な時間を過ごしたくない。というか、早く仕事を終わらせて休みたい。

「私からすれば殺生は望まないが、殺しても構わない。そもそも、お前たちにとってはそちらの方が都合がいいだろう」

 住職の言葉は、明らかに嫌味を含んでいた。

「うーわ。嫌な言い方するね、おっさん」

 炎は軽い口調で受け流しているつもりなのだろうが、その言い方が住職にとっては気に食わなかったようで声を荒げる。

「黙れ! 殺すことしかできないくせに」

「ッ――」

 また炎が言い返しそうなところで、愛桜が割り込む。

「そうです。だったらあなた達には何ができますか? 自分たちに迫る脅威も払えないのに、何ができますか?」

「俺はッ」

 住職は何か言おうとするが、愛桜と炎は一言も聞くつもりなどなく背を向ける。どうせ、出てくるのは嫌味だ。真っ当なことは言えないだろう。

 聞いても得はない。時間の無駄だ。

「それでは、駆除しに行きますので、あなたはここで待っていてください」

 さっさと行って、さっさと終わらせる。これが今の愛桜の最優先事項だ。

 住職の嫌悪を背に感じながら速足で洞窟に向かった。


               ******


「見つけた」

 洞窟の中、愛桜は空気の滞りを感じて呟いた。

 恐らく、カミトカゲが居座ることで洞窟を塞ぎ、風が流れなくなっているのだ。

 ここまで三十分ほど歩いたが、距離はそれほど進んでいない。

 洞窟に入った時は入り口から差す光で周囲がうっすらと見えていたが、入り口が見えなくなってからは完全に暗闇だ。洞窟内の構造も分からないのに進み歩いてようやくだ。

「これは、思った以上に面倒だな」

 すぐ近くにいるであろうカミトカゲを前にして、愛桜は頭を掻く。


 ほとんど何も見えないのだ。


 時間帯が夜で外が暗いこともあって、今は少し暗闇に目が慣れた。しかし、それでも周りに何があるのかは捉えられず凹凸があることくらいしか分からない。

 炎は刀の柄を触って言う。

「だから俺らが駆り出されたんだな」

「どうだろう。俺たちを殺すために用意された仕事なのかも」

 明かりを灯してはいけないというのは、単なる嫌がらせだろう。あるいは、暗闇で何もできないまま、カミトカゲに殺されることを望んでいたのかもしれない。

「ハッ。だったら笑えるぜ。これくらいでやれると思ってるなら、かなり平和ボケしてるな」

 愛桜は鼻で笑った炎に同意する。確かに、これくらいで仕事をこなせなくなるようでは今頃生きていない。戦ったことのない人は分からないだろうが、生物の枠を超えた存在と戦うのは想像以上に苦しいものだ。

「やるか」

 愛桜のその声を合図に、二人は刀を抜いて斬りかかる。


 ――そして、カミトカゲの表面を攻撃して一時間。


 愛桜は両手に刀を持ち二刀流で、炎は右手に持った刀で、ひたすら攻撃していた。

 お互いの位置は刀を振る音や地面を蹴る音でだいたい分かるため、お互いを斬るなんてヘマはしないが、流石に疲れてきた。

「ハァッ、ハァ」

 暗闇でカミトカゲの頭か尻尾かさえ分からない。急所の場所ももちろん見えないため、狙って攻撃できない。

 だからまずは表面を攻撃し、鱗を落とす。

 キンッ、キンッ、と音が鳴るたびにキラキラ輝く鱗が剥がれ落ちる。もっとも、暗闇で何も見えないため、鱗が輝いているのかは分からない。ただの想像だ。


 削って、削って、もっと削って。


 鱗が剥がれてくると、光る石のようなものが見えてきた。それは、(かく)と呼ばれており、この生物の力の源だ。これを破壊すれば、機能を停止する。と言っても心臓は動いているから、人間でいう植物状態のようなものだ。

「見えた」

「光ってる光ってる!」

「ここからだ。気を抜くなよ」

 ようやく見えた弱点に騒ぐ炎を愛桜が静かに落ち着かせたところで、角の形が変化し始めた。

 カミトカゲの頭にある角は、石が埋まっている見た目をしていたが、それが外に伸びていき鬼の(つの)のようになる。

 これが、『核』ではなく『角』という字で表現されている理由だ。

 (かく)は力の源。角が大きくなればなるほど力と生命力が上がる。

 カミトカゲの角が更に輝きを増し、削った鱗が再生し始める。しかし、発光する角のおかげで周囲が光に照らされ、カミトカゲの姿形(すがたかたち)もよく見えるようになった。

 二人が構え、角めがけて攻撃に出ようとした、その直後、


 愛桜は後ろに吹き飛ばされた。


 一瞬の事だった。

 目の前にあったカミトカゲの後ろ脚が、邪魔だと言わんばかりに愛桜を蹴ったのだ。咄嗟に刀で防御して直撃は免れたが、身体は宙に飛ばされた。

「俺に任せろ!」

 その様子を見た炎は勢いよくカミトカゲに突進していく。

 愛桜は炎の声を聞き、地面に着地するとすぐにサポートに回ろうとしたが、続いた声に動きを止めた。

「囮を!」

(あぁ、とどめじゃなくて囮ね)

 炎はカミトカゲの視界に入り、気を引いている。

「とどめを任せろかと思った。今の勢いは囮役じゃなくてとどめだろ」

「聞こえてるぞ!」

 ボソッと出た心の声に、余裕のないはずの炎が反応した。

「引き付けてるから早く!」

「了解」

 カミトカゲが巨体のせいで、角はここから届かない高い位置にある。

 愛桜は刀を握り直してカミトカゲの死角から跳躍し、角に手が届く位置に来る。そして、落下が始まる前に右手に持った刀で角を斬った。しかし、足りない。角に傷はついたが壊すには至らない。それを分かっていた愛桜は、傷をつけた場所に左手に持った刀を突き刺した。刀は深くまで突き刺さり、カミトカゲはようやく身の危険を察知して愛桜を振り払おうとする。が、愛桜はカミトカゲの体を足場に、角から刀を引き抜いて、地面に降りる。

 

 角に空いた深い穴。致命傷だ。

 カミトカゲは動きを止め、その場に倒れる。


「やったな」

 炎がほっと息を吐いた。

 角は徐々に輝きを失い、洞窟は光一つない暗闇に戻ろうとしていた。

「これ、どうするんだろうな」

 カミトカゲの巨体は回収されるのだろうが、この狭い洞窟でどうやって外まで持ち出すのだろうかと、炎は少し気になった。

「さぁ、回収班がどうにかするだろ。ともかく、仕事は終わりだ。早く帰ろう」

 愛桜は、そんなことはどうでもよく思い、既に出口に向かって歩き出している。

 この時、愛桜が寝ずに仕事を続け、二十四時間が経とうとしていた。この二十四時間の中で仕事を四件こなしており、オーバーワークによる疲労で足がおぼつかなくなっていた。

 足を躓かせてふらついたのはそのせいだ。

「おっと」

 声を出したのは炎だ。いつの間にか隣に来ており、暗闇にも関わらず愛桜を支えて転ぶのを防いでくれた。

「おぶって」

 愛桜はポツリと呟き、そのまま炎に身体を預けると、

「マジか」

 炎は嫌なそぶりも見せずに愛桜をおんぶした。

「サンキュ」


 愛桜が炎の背中で眠ることはなかったが、炎は帰るまでずっとおぶってくれた。


「起きたら(めし)はちゃんと食えよ」

 炎が愛桜をベットに放り投げてそう言うと、愛桜は親指を立てて「了解した」の合図をしてそのまま眠りにつく。


(限界だったんだな……後で何か持ってきてやるか)

 この様子ではすぐには起きないだろうが、起きた時に何か食べれるように。そんなことを思いながら、炎も帰って休むことにする。

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