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捕食者のサガシモノ  作者: 星 ひかり


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十六 息を潜めて夜は眠る

 子供や若いハンターは、人から悪意を持って『殺し屋』と呼ばれる。


 誰が、いつからそう呼ぶようになったのか定かではないが、ディールを神と崇める宗教まであるくらいだから、それに影響を受け、狩りに反発する声があってもおかしくはない。そうでなくても、派手に戦うところや、いくら殺しても表情一つ変えないところを見れば、嫌悪感を持つだろう。

 失った命を(しょく)すことはあれど、実際に命を奪う行為には嫌悪を抱く。それが人というものだ。

 そうした嫌悪から、命を奪うハンターと自分たちは別の人種だと思いたくて『殺し屋』という蔑称がつけられたのかもしれない。


 人を守るためとはいえ、悲鳴を上げる生物に暴力を振るい続け、表情一つ変えず無残に殺す姿。己の傷に喚くことは決してせず、大人でも悲鳴を上げる深手に声すら上げないで意識を保つ子供。そのような存在、普通なら気味が悪いと感じるだろう。


 心がない『殺し屋』。殺しを楽しむ『殺し屋』。命を(かろ)んじる『殺し屋』。含まれる意味は違えど世間に広まっている蔑称。

 自分たちを守ってくれているからと、崇拝の意を込めて『殺し屋』と呼ぶ人もいるが、その存在はかなり稀だ。感謝していても、崇拝して『殺し屋』と呼ぶ人は滅多にいない。


 当のハンターたちは、どのような意味が込められていても何とも思わず、否定する気もない。否定したところで何も変わらないし、他人から見たらそう見えているのだから仕方がない。言うだけなら実害は受けないため、勝手に言わせておけばいいと思っている。


 一つ、思うことがあるとするなら――。


 『殺し屋』と呼ばれる存在になりたかったわけじゃない。


 ハンターにならなくても生きていけたなら普通に暮らしたかった、と声を上げたくなる時がある。



 今日は、そんな日だ。



 いくら考えないように目を逸らしても、頭の中には残り続けて消えない。 

 何度も見る、死体。何度も見る、血。何度も聞く、悲鳴。もう消えることはない、古くなった傷跡。

 消えないから、戦うしかなかった。


 ――好きでやっているんじゃない。


 朝と夕方に見かける登下校する学生。ハンターはその中には入れない。

 たまに聞く学校のチャイムの音。ハンターはそれに従う必要はない。

 普通の学校で義務教育を受けて、高校は行きたくなくても卒業しろと親に言われて高校に通い、反抗しながら、時には親のありがたみを感じ、友達と遊んで、勉強して、朝が来るのを当たり前のように感じながら生きていく。


 今の自分たちとは程遠い普通。

 たぶん、生きる世界が違う。


 父親の強さを目の当たりにした夜だった。

 親が生きていればと、もしもの世界が頭を(よぎ)った夜だった。


 羨ましくて目を逸らしていた普通の暮らしと、生きていて欲しかった家族の憧れを意識した夜だった。


 所詮は、ないものねだり。

 願っても叶うことはない。

 だからこそ、誰かの普通を守るために戦い続ける。

 その道を選んだのは自分たちだ。


 羨望も、憧れも全て、今の自分たちには不要だ。

 迷いの種は忘れよう。

 

 そうやってまた目を逸らし、ウェンディゴとの戦いに向けて、愛桜たちは眠る。


               ******


 ウェンディゴは、灯り一つない町中に隠れ、夜が明けるまで待つ。

 ハンターが街中に出てくるのを、ずっと陰から覗いている。


「しくじった! 俺としたことが、焦ってしまった。だから思い通りにいかなかった!」


 思い出しただけで苛立ちが抑えられず、キリキリと爪を噛む。

 『声』に逆らって死のうとする人間は初めてだった。気に食わない。


 だが、面白いおもちゃを見つけた。

 心が未完成なハンター。あれを思い出すと、にやけてしまう。


 体は成長しているが、心はまだまだ未熟な年頃だ。隙がなさそうに見えて隙だらけだ。

 一度心の綻びを見つければどこまでも落ちていくだろう。


 人を守る存在が、もし人を傷つけたら、仲間を傷つけたら、そう考えるだけで笑いが止まらない。

 

 心の綻びから、奴らにとっての最悪を再現してやる。

 絶望を用意してやる。


「ヒヒッ。ヒヒヒヒヒッ!ヒヒヒヒヒッ!」


 ウェンディゴは、口を手で覆って堪えきれない笑いを抑える。朝を待ってじっくり楽しむために、まだ、誰かに見つかるわけにはいかない。


 今は我慢だ。


 朝が待ち遠しい。楽しみで仕方がない。


 ――あぁ、早く、心を壊してやりたい。

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