表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捕食者のサガシモノ  作者: 星 ひかり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

十 メガちゃんパーティー

 さぁ、お待ちかねの『メガちゃんパーティー』だ。


 支給日のイベントは全て終わり、炎は嬉々としてメガウエハースを開封する。

 場所は、地下室がある部屋の一階だ。


 そこには、梗香、灰鳴、灯も集まっている。

 愛桜は休んでいるが、炎は大好物を前に待つことが出来なかったので、四人でパーティーを始めることにした。


「おほーうっ」


 炎はなんだか変な声を上げ、目をキラキラさせてメガウエハースを取り出す。

 

「梗香ぁ~。マジでありがとうなぁ」

 炎は、本当に嬉しそうに目を潤ませる。

「これで支給日に遅れたことチャラにしようとした私って……。なんか良心が痛むわ」


「灯もぉ~。買ってきてくれてありがとうなぁ」

 もう泣き出すのではないだろうかと思うほど、感極まる炎。

「本当に好きなんだね。喜んでもらえて私も嬉しいよ!」


 罪悪感に胸を押さえる梗香と、微笑む灯。

 下心があった者と、なかった者。

 その二人には、炎の喜ぶ顔を見た時の表情に大差があった。


「もう食べようぜー。灯が淹れてくれたお茶が冷める前にー」


 灰鳴は、その様子を少し面白く思いながらも、炎が泣き出す前にさっさと始めたくてカップを手に持つ。

 カップの中身は、灯が淹れてくれたお茶だ。メガウエハースに合うように少し苦めのお茶を選んで淹れてくれた。


「そうね! 一仕事(ひとしごと)お疲れさま!」

「うん、お疲れさま!」

「みんなお疲れ! いない愛桜には悪いけど、メガちゃんパーティー開幕だぜ!」


 灰鳴に続き三人もお茶を手にして、少し高い位置に掲げることで乾杯とする。


 こうして、メガウエハースを美味しく食べるだけの会、メガちゃんパーティーが始まった。


               ******


「う、うまい!」


 炎が大声で大好物を堪能しているところ、灯はメガウエハースを小さく切り分けて他の三人で分ける。

 メガウエハースはサイズが大きいため、一人で一個食べるには量が多い。だから、そのまま齧りつくのも、一個丸々完食できるのもメガウエハースに取り憑かれている炎だけだ。


 パーティーと言っても、ただメガウエハースを食べるだけなのでパーティーっぽいことは特にしない。

 始まるのは他愛のない会話だ。


「そういえば、数日前にも出たらしいわね、紅猫(こうねこ)


 そう切り出したのは、梗香だ。


 灰鳴は、気になっていた噂の話が出て、一旦食べるのを止める。

「俺も聞いたー。ディールが跡形もなく消えたらしいねー」

 

 メガウエハースをハムスターのように(かじ)って食べ進めていた炎は、

「なんと! また出たの俺知らなかった!」

 と、噂に食いついた。


「噂は、噂でしょ?」

 灯は、そういう噂は苦手で、不安げに梗香を見る。


「でも、噂があった時に調査班に聞いたら、実際にディールは消えてたって言っていたわ」

「都市伝説にしては現実と合ってるよねー。一晩でディールを塵と化す化け猫だっけー?」

(あか)い猫だから紅猫っていうけど、見れるものなら見てみたいわね」


 興味津々に話す梗香と灰鳴。


 怖がりの灯は、少し震えた声で言う。


「怖く、ないの?」


「灯、都市伝説だから怖く感じるのよ。実際、紅猫がディールって言われたら怖くないでしょ?」

「……それは、そうだけど」


 梗香の言ったことに頷く灯だが、ディールなのか、化け物なのか、あるいは幽霊の類なのか、それは誰にも分からず、不安は拭えない。


「俺は珍しい猫は見てみたい!」

「炎は単に猫好(ねこず)きなだけだろー」

「猫は正義!」


 炎は、違う角度から紅猫に興味があるようで、灰鳴にツッコまれた。


 臆病で心配性の灯は、炎のその気楽さを見て、

(私もこれくらいに捉えられたらなぁ)

 と、少し羨ましく思ってしまう。


 紅猫で盛り上がる四人だが、ディールに(まつ)わる都市伝説は数多くある。その中でも紅猫の都市伝説は有名で、頻繁に噂が広がるためニュースで取り上げられるほどだ。だから、紅猫の噂はほとんどの人が知っている。

 逆に言えば、他の都市伝説はあまり知られていない。


 梗香は都市伝説というより情報収集が好きで、どこから情報を仕入れてくるのか他の話題にも精通している。

 そして、自分だけが知る情報は人にも共有したくなるのだ。


「都市伝説と言えば、『龍を一人で追い払った子供』とかあったわね」

「その子供、関わると喰われるんだっけ?」

 炎が聞いてきて、梗香は驚いた。話題に出したものは、かなりマイナーな都市伝説のはずだ。

 意外と知られているのだろうかと、梗香は自分の情報力を疑いながら答える。

「そうそう。人間の味方なのか敵なのか分からないーってやつ」

 

「そんなのあるんだー」

「あれ、灰鳴は初耳のようね。灯も?」

「私は、そういうの疎いから……」


 灰鳴と灯は知らない。それなら、やはりマイナーな都市伝説で合っているのだろうか。

 梗香は定まらない都市伝説の立ち位置に、なんだか自信を無くす。

 しかし、ネタはこれだけではない。梗香は、自分だけが知っているであろう様々な都市伝説を思い浮かべる。


「そっかぁ。他にも面白い噂はたくさんあるのよね」


 次はどれを話そうか悩んでいると、炎が割り込んできた。


「『人間そっくりなディール』とか、『狼男』とかな!」 


「へぇー。姿が変わるディールなんていたら、混乱しそうだねー」

「人に紛れて暮らせるんじゃ……」

 灰鳴は純粋に噂を面白がっているようだが、灯は不安を煽られて顔を青くした。

 

 炎が出してきたのはどちらもマイナーどころか、人々が真に受けて不安に駆られないよう、規制されている都市伝説だ。


 梗香は、ここまできて炎が知り過ぎているのだと気づく。


「炎、噂にずいぶん詳しいのね」

「俺、意外とこういう話好きなんだよな。本当かもしれないし」


 なるほど、炎はマイナーな話も知っているほど、都市伝説が好きらしい。

 梗香は自分の情報力はやはり高かったのだと自信を取り戻し、突然面白いことを思い付いた。


 炎の話からは逸れるが、こんなに面白い発想、口に出さずにはいられない。


「『龍を追い払った子供』は案外、愛桜のことかもね」


「ありえる!」

「そうかもー」

「うん。愛桜くんならって思う」


 みんなも同じことを思ったのか、すぐに大きな反応が返って来た。

 そんな中、炎は、いち早く現実的な考えを巡らせる。


「でも龍って、一国を滅亡させたんだろ?」


 炎は都市伝説が好きだからこそ、事実かどうか気になって答えを求めたくなるのだろう。

 それにしても、せっかく面白いことを思い付いたのに、熱が冷めるのが早すぎる。

 梗香の熱も、炎につられてすっかり冷めてしまった。


「小さい国だったらしいけど、昔そうだったみたいね」

「だったらやっぱり噂でしかないよなぁ。いくら強いとはいえ、愛桜もそこまでできないだろ」


 炎は、残念そうにメガウエハースにかぶりついた。


「だねー」

「そっか……」


 灰鳴と灯も、話を聞いて納得してしまった。

 二人はなんとなく、炎と同じように小さく切ったメガウエハースを口に運ぶ。


 ハンターの主力として仕事をする子供たちだが、その中でも愛桜は規格外だ。愛桜の戦いぶりを見れば、大抵の人は愛桜より強いハンターはいないのではないかと思うはずだ。


 それでも、龍には及ばないだろうというのが結論だ。


 愛桜が無理なら、誰がやっても無理だと思う。それほど、ディールを相手にした時の愛桜は強い。


「愛桜くんならどうするのかなって、少し思うけど」

 灯はポツリと言って、お茶を飲む。


「それは俺も気になるー」

「俺も俺も!」

「今度聞いてみようかしら」


 もし、最も強いハンターが龍に挑むなら。

 どう戦うのか、同業者として気にせずにはいられない。



 そんな(ふう)に話をして約二時間。集まった四人で雑談に花を咲かせたのだった。


               ******


 愛桜は、次の日の朝に目を覚ました。怪我はほぼ完治して体も軽い。

 起き上がってふと、普段ないものが目に入る。

 

 テーブルの上に、メガウエハースが置いてあった。

 

 小さく切り分けられたものが皿の上に乗っていて、ラップがかかっている。

 皿の近くには紙が置いてあり、何か書かれているようだ。


 見てみると、炎、灰鳴、梗香、灯からのメッセージだった。


 愛桜抜きでメガちゃんパーティーやったぜ! 四人で抜け駆けごめんな! 炎

 ゆっくり休めたか? 無理するなよー。 灰鳴

 甘いもの、必要でしょ? 疲れていてもご飯はちゃんと食べるのよ。 梗香

 私は明日仕事ないから、何かあったら呼んでね。いつもお疲れさま。 灯

 

 愛桜は、龍の討伐を一人でするならどうする? 


 最後の文は灯の字だが、後ろに名前が書かれていない。四人からのメッセージということなのだろう。


(なんだ? これ)


 愛桜は、突然の問いかけを不思議に思いながら、考えてみる。


(龍か……懐かしいな……)

 

 あれは、狩猟団体に入る前だったと思う。一度、龍と対峙したことがあった。

 あの時は討伐できなかったが、今ならどうなるのだろう。


 ――それは、愛桜自身やってみないと分からないことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ