一 生存本能
誰かの悲鳴が聞こえる。
誰かの呻き声が聞こえる。
誰かの叫びが響いている。
誰かの泣き声が聞こえる。
誰かが溢した涙が地面に落ちた音がした。
また誰かが、食い殺された。
研ぎ澄まされた五感は、あらゆるものを感じ取っている。
遠くから聞こえる声、土の匂い、血の味、風の鋭さ、迫りくる刃の動き。
戦わなければ、生き残れなかった。
殺さなければ、殺されていた。
生きるためには、殺し続けるしかなかった。
身に着けたくて得た殺しの才能ではない。
欲しくて手に入れた力ではない。
どれくらいで動かなくなるか、どこが致命傷になるか、どのくらいで死ぬのか、知ろうとしなくても自然と身に付いた知識。
戦えば戦うほど楽に殺せるようになった。殺した時の不快感もなくなっていき、心咎めなどはなくなって、悔悟の情は失せていった。
だって相手は人の形をした獣だから。人に害を与える獣だ。殺したとしても、罪悪感を抱く必要はない。
何も感じず、息をするように命を奪えるようになった。
それが当たり前になった。
でも――
命を奪いたいわけではなかった。
生きることに縋っていたわけではなかったのに。
いつからか死に慣れて、恐怖は薄れて、死ぬことを恐れなくなっていたのに。
ただ――生きるために。
生きるために殺す。
何も考えず、自らの生存本能に従い、ただ、生き残るために。
生きることしか考えられない世界で、愛桜はずっと殺し続けてきた。




