第六話
「それで今日はどんな仕事なんだ?」
「うーん、今日は君を紹介したい人がいるんだよね」
そう言われて、吉原の塀の側、吉原の最奥にあるとても大きい屋敷へ向かわされた。その屋敷にずかずかと入り込んでいく。その扉の奥には一人の少女が座していた。
「ようこそ、暁の方。そして、探偵様と剣士様。この家の主人に代わり先に歓迎させていただきます」
その少女は丁寧な所作でお辞儀をする。その言い様はまるでこの状況が読めていたような口調である。どう考えてもこの麗人があらかじめ時間を指定出来るとは思えないのだが不思議な話である。
「そんな顔をしないでください。このあと当主から話があると思いますが我々にはこの状況が見えていたのですよ」
麗人の方を見るがこちらは何も言うなといった表情をしている。その顔から読んだことを信じて、何も言わずにいると、少女が立ち上がりついてくるように促してくる。どうやらその投手に合わせていただけるらしい。男は明らかに警戒しているのだが、少女はどこ吹く風という様子である。
いくつもの部屋を見送った廊下の先にさらに一段大きな襖が前に広がっていた。正確には佇んでいるのであって広がるという状況ではないのかもしれない。こちらに案内してくれた少女が合図を送ると袖の女が襖を開き始める。
奥にいるのは二人の女性。妙齢の女性だった。二人の左、美という評価をしたい女性がひらひらと手招きをしていた。その姿にふわりと前に出てしまった。隣にいた暁の方はそれを静止する右の手が完全に止まってしまっていた。剣士はその光景に唖然とした様子であり、止める術など持ち合わせてはいなかった。さらに暁の隣にいた少女は首を横に振り、静止は要らずと言った表情である。
対して、手招きをした女性の隣に座する女性もまた笑顔のまま動かずにいる。どうやら、左の女性がそうすることを知っていたかのような立ち振る舞いである。
二対の女性の前に立った男はさらに「ちこうぉ寄れ」と言わんばかりに手を招く女性の前へ顔を寄せる。その顔に女性の手が触れた瞬間に男の自我が蘇る。ばっと後退りし女から距離を取る。それはとって喰われそうになった獲物のそれであった。
明らかに三人は敵意を向けてしまう。
「そんな風に警戒せんでも良いよ。可愛い顔が台無しやけん」
「母様があのような事をなさるからでしょう?」
「イザナミ様、お戯は程々にしてください。本当に何をなさるのかとヒヤヒヤしましたよ。それにアマテラス様も楽しんでいないでお止めください」
暁の方はもちろん彼女たちと面識があり、一番に話しかける。そんな彼女に薄くケラケラと笑いながら手招きをしていた女性は謝罪を述べる。
「それで今日は一体どう言った要件だったのでしょうか?伊代を連れて来いとのお話でしたけど」
「それなんだけどね、そっちの子に私の仕事を手伝って欲しいのです」
「はぁ、それは良いのですがそもそも貴方様方は一体どう言った方々なのでしょうか?先ほどお名前はお聞きしたのですが」
イザナミと声をかけられた女性は自らのことを神のようなものだと語った。江戸を穢土と語り黄泉平坂を開いているという話だった。そして、日本最古の美女を吉原に座らせたと話す。それが自らの義娘であるアマテラスであり、その身の回りの世話をしていたアメノウズメもついでに連れてきたと言う。