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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

2025企画参加よりツナグはなし

かなしいあめのひおもいで

作者: 山本大介
掲載日:2025/06/11

 環が幼い頃だった。

 幼馴染と海へ出かけ、そこで彼女は命を失った。

 ・・・だが。

 

 じめじめしてる?

 

たまはぷかぷかとういている。

ここはみずのなか。

じっと、

じぃーっとしているの。

おかあさんがいいよというまででちゃいけないんだって。

ぽつぽつざーざーとあめのおとがきこえる。

おかあさんきょうはあめ?

たまがきくと、

そうね、たま、きょうおそとはあめよ。

といってくれた。

ふーん。

ぽつぽつしとしとあめのおと。

たまはまたねむくなったんでおめめをとじたんだ。





水がはんぶんくらいにへらされたんだ。

わたしは7さいになったんだって。

おめでとうってお母さんが言ってくれて。

お父さんがかわいいアヒルと犬のおもちゃをくれた。

お兄ちゃんがハッピーバースデー!を歌ってくれた。

とってもうれしかったなあ。

みんなまたあしたね。

おやすみなさい。


会いたいな。

会いたいよ。

あの子に・・・。

アオちゃん・・・。

お母さんにそう言ったら、

もうちょっとだけまとうねって言われたんだ。


お母さんが絵本や外のお話をいっぱいしてくれる。

お父さんが勉強を教えてくれる。

お兄ちゃんが学校の話をしてくれる。

外のせかいって楽しそう。

私はためいきをついた。

ぷくぷくと水があわだつ。

外はしとしと雨がふっている。

ずーっと雨が続いてる。

お父さんが教えてくれた今はつゆなんだって。

ここにずっといる私。

なんどめのつゆなんだろう。


・・・・・・。

・・・・・・。

なんだかねむれない。

私はからだを動かしてみた。

あれ。

あれあれ。

動くよ、私のからだ。

治ったのかな。

きっとそうだ。

だけどおもいな。

そっか、お母さん、お父さん言ってたね。

たまはりはびり中なんだって。

でも治ったんだもん。

きっとそう。

よいしょっと。

わたしはおふろから。

おりみてた。

ケガしてからはじめて。

ぺた。

ぺた。

歩く。

歩ける。

歩けるよ。

そうだ。

会えるんだ。

会えるよ。

アオちゃん。


しんとしずまりかえるお家。

ぽつぽつしとしと雨の音だけがする。

だれもいないのかな。

ぺたぺた。

私はゆっくりとゆっくり、小さかったころのきおくをたよって家の中を歩く。

あれ。

ふらふらする。

まだおふろに入っていた方がいいのかな。

そっかあ。

いやいや。

だけどだいじょうぶだもん。


げんかんには赤い長ぐつがあった。

かわいいかわいい小さな長ぐつ。

きっとこれ私のだ。

おかあさんありがとう。

よいしょ。

私は赤い長ぐつをはいた。

ん?

げんかんのかがみにうつるすがた。

これ?私?

うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわっつ!!


私は走りだした。

会いたい。

一目でも。

あの人に。

会わなくちゃ。





 環は水槽の世界から飛び出し、外へ出た。

 どしゃぶりの雨の中、ふらりふらりと歩く少女がいる。

 彼女の思いとは裏腹に、身体は言う事をきかない。

 心だけが逸り、会いたい一心で雨中を彷徨う。


 やがて・・・。

 ひとり傘をさす少年の後姿を見た瞬間、環はその人だと分かった。

 追いかけようとする。

 だけど、少年の足早に歩く速さに追いつけない。

 彼女は思いっきり、力の限り叫んだ。

 雨の音に自分の声がかき消されないように、

「アオちゃん」

 そう呼ばれた少年は振り返る。

「!」

 次の瞬間、彼は顔を強張らせ、尻餅をつくと、

「来るなっ!」

 と叫び、四つん這いでフラフラと這いつくばって立ち上がると走り逃げ去った。

「・・・・・・」

 少女はその場に立ち尽くす。

 じっとずっと彼の小さくなって消えて行く後ろ姿を見ていた。


 あとを追いかけて来た兄がそっと大きな布を環にかぶせる。

「帰ろう」

「ゔん」

 環の目から自然と涙がこぼれた。

「きっと戻れるから」

 兄の優しい言葉に、彼女は何度も頷き、

「ゔん、ごめんね」

「・・・・・・いいよ、いいんだ」

 赤い長靴の少女は雨の町を、とぼとぼと来た道を歩く。


 家の前まで来ると、母が飛びだして彼女を抱きしめた。

「環っ!」

「お母さん」

「ごめんね!きっと、きっと、あなたを元通りにしてあげるから」

「うん、私がんばる・・・がんばるよ」

 布の下で号泣する娘、抱きしめる母も号泣している。

 降りづける雨の中、父は静かに頷き、みんなの肩を抱き、家族は我が家へと戻った。

           おしまい




ちょっと苦戦しそうだなと思いましたが、途中からいい感じにハイテンションで書けました。

終盤を書いていた時、思わず泣いちゃって・・・自分の拙作に酔える私って幸せだなあと・・・あ、滅多にこうはならんですからね(笑)。

じめじめというテーマにしては、ホラーっぽく、切なくもありハートフルな感じになっちゃったけど、よかろうもんということで、できたーっ(笑)!

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悲しい話ですね……。 中身は同じだとしても見た目の印象には勝てないというのが複雑な心境になります。 人間を辞めて化け物になってみたくはありますが、見た目まで化け物になりたくない……。 そう考えると吸血…
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