69 ここに来ることを知っていた?
殿下の剣が、魔物を斬り裂く。
一体。
二体。
倒れるたび、黒い霧が地面に散る。
「……数が多い」
私は周囲を見回す。
逃げ遅れた人影はない。
——よかった。
「殿下、ここにいる分は全部、倒してください」
殿下は一瞬だけこちらを見て、すぐに頷いた。
「ああ。全て片付ける」
剣が唸る。
魔物は弱い。
だが、怯まずに向かってくる。
「……おかしい」
ぽつりと、言葉が漏れた。
「普通なら、ここまで数を失えば引きます。でも…」
殿下が、魔物を斬りながら言う。
「でも?」
「……いえ。まだ、確信は」
本当は、少しだけ引っかかっている。
魔物の数。
現れる間隔。そして——こちらを囲もうとしない動き。
「……殿下」
「なんだ」
「この魔物たち……たまたまここにいたのではないかも知れません…」
殿下は眉をひそめる。
「それは……どういう」
その時、また一体、魔物が現れた。
「…くそっ!」
殿下が舌打ちする。
「倒せば倒すほど増えるな…っ!」
「はい。でも……強くはなりませんし…数もだんだんへっています!」
私は、炎の向こうを見る。
「…時間を稼いでいるだけ、ということか……?」
殿下は、魔物を斬り伏せ、低く言った。
「つまり、俺たちがくることを知っていた?」
「……かもしれません」
まだ、断定はできない。
ただ——。
「殿下。ここ、長居すべきではありません」
「民は?」
「……この場に残っている人はいません」
殿下は、一瞬だけ周囲を確認し、頷いた。
「分かった。最後に——」
剣が、大きく振るわれる。
残っていた魔物が、まとめて倒れた。
静寂。
燃える音だけが、残る。
「行くぞ」
殿下が言う。
私は、はっきりと答えた。
「はい」
走り出しながら、胸の奥で思う。
——これは、偶然じゃない。
でも、まだ“分からない”。
分からないからこそ——追う。
本当に止めるべきものが、あの洞窟にあるかどうかを。
そして、彼女の真意を。
私たちはあの森へと急ぐ。




