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できることなら、もう一度貴方の隣に。〜“殿下”、私を忘れてください〜  作者: 桜夜.Ari
第五章 寄せられる違和感、選ばれる覚悟

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64 あなたを守ります


「はい。お話し…しましょう」



暖炉の前で、私は膝の上に手を重ねた。


「……まず、あの山は闇に、最も近い場所だと、踏んでおります」


私たちは、暖炉の前に座る。


火はないのに、なぜか暖かかった。




「あの山を選んだ理由は魔物の発生件数が多いから、でもありますが……感情が溜まりやすい場所、だからです」


「感情……?」


殿下の眉が、わずかに寄る。



「恐怖、後悔、憎しみ。 誰かを失った者、守れなかった者、捨てられた想い……」



言葉を選びながら、続ける。


「そういうものが、長い時間をかけて沈殿していく場所が、あります。

あの山が、まさしくそれなのです」



殿下は黙って聞いている。



「そして……それを“餌”にする存在がいます」



「……洞窟の、あれか」


「はい」


私は頷く。

あの、恐ろしいほどの魔力が集まった洞窟。



「さきほど感じたのは偶然ではありません。あの存在は………おそらく人の心の弱さに反応するのだと、思います」


私に、雑念があったから……。


だから、あれは私を引き込もうとした。



アルテイア様のように、感情をコントロールしなければ………。

 



「そして、クルーディア様があそこにいらっしゃった理由は、私にもわかりません。

ですが、以前のクルーディア様と、纏っている雰囲気が違う。それは、わかりました」



暗くてよく見えなかったけれど……間違いない。







「それに——」


私は、視線を上げ、はっきりと言った。


「放置すれば、帝国全土が。魔物が増えるだけではありません。

人が、人として平和に暮らせなくなってしまう」




殿下の表情が、硬くなる。


「……それを止めるのが、君の役目か」


「ええ」


小さく、頷く。


「それが、女神としての、私の役目です」



きっぱりと。




今まで胸にあった迷いは、もう消えていた。


なぜか、“大丈夫“に感じる。



だけど。

これは私だけの問題じゃない。




「ですが…………それには、貴方を巻き込んでしまう。私は、それが………不安です」



貴方は我が国で一番尊い存在。


それに………私が一番怖いことは。




セシル様、貴方をなくすことなんです。


そうは、口が裂けても言えないけれど。



「…巻き込んでくれ。どんなことにも。覚悟はあるから。俺は、ルアリナ…君を守りたいんだ」




———私を?


どうして、私なんかを。


“好意”があるから?



でも、彼は皇太子よ。



責任がある。



それに………。





わからない。


どうして、貴方は私に手を差し伸べてくれるのだろう。

貴方の考えが私にはわからない。


でも、それでも。



「絶対に、大丈夫だから」


そう言ってくれる貴方が。


どれほど、私をすくってくれるのか、貴方にはわからないでしょう。





「わかり、ました。でも、本当に危険だと思ったら、逃げてください。これは、お願いです……では……よろしく、お願いします」


私が、貴方を守りますから。




「あぁ、もちろんだ…君を、君を守るよ」



そう言って微笑む彼を、私はもう一度だけ見つめる——。





この人と、共に。



この帝国を……——守るのだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


少しでも、続きが気になると思っていただけたら。

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