62 俺が守る【セシル視点】
なぜ、あの場所に彼女がいたのか。
その疑問が、胸の奥でくすぶる。
思い出すのは、数週間前のことだ。
新聞騒ぎの直後、俺は影に命じた。
クルーディア・フォーレンスと、その周辺を調べろ、と。
いつもなら、三日もあれば十分な任務だ。
だが、今回は違った。
報告が上がったのは、それからかなり経ってからだった。
『……殿下』
夜更け、書斎の灯りの中で、影——イグナスは膝をついた。
『フォーレンス嬢についてですが……正直に申し上げます。詳細は、掴めませんでした』
『……何?』
思わず眉が寄る。
イグナスが言葉を濁すこと自体、珍しい。
『わかったことは、外出が増えていること。頻度は不定。
そして———護衛を、連れていないことが多い』
『護衛なしだと?』
公爵令嬢だぞ。
あり得ない。
『はい。私も何度か追跡を試みましたが……』
影は一瞬、言葉を切った。
『………見失いました』
『お前が、か?』
『……はい。…まるで、何かに包まれているようでした』
『魔法か?』
『断定はできませんが、おそらく。ただ…視界が歪み、気配が途切れる。彼女自身から発せられているものでは、ないように思われます』
沈黙が落ちる。
『外出先は、山が多いようです。特定の場所を、何度も』
——山。
『……彼女自身に、異変は?』
イグナスは、ほんのわずかに首を振った。
『いえ、表向きは、変わりません。礼儀正しく、穏やかで、社交的です』
『そうか』
『報告は、以上です。…………それと』
イグナスは、そこで一度、言葉を切った。
『これは……私の憶測ですが』
『帝国の未来の中心に、彼女はいるのではないかと』
今になって、すべてが、一本の線でつながり始めている。
「……まさか」
呟きは、誰にも届かない。
俺は、暖炉の前で拳を握る。
もし、クルーディアがこの出来事の中心にいるとしたら。
ルアリナを守れるのは、もう俺しかいない。




