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できることなら、もう一度貴方の隣に。〜“殿下”、私を忘れてください〜  作者: 桜夜.Ari
第五章 寄せられる違和感、選ばれる覚悟

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58 掴んだ手を、離すために

転移陣の光が、足元でほのかに光る。


次の瞬間、白い石畳と、見慣れた宮殿の門が視界に広がった。




……来てしまった。



逃げ場のない現実が、胸に落ちる。


「っ……本当に、来たのだな」


低い、驚くような声。


息が、止まった。


「え……!?セ…殿下…どうして………」



門の前に立っていたのは、間違いなく彼だった。



どうして、ここに?


「なぜ……私が来ると……」


問い終える前に、セシル様は視線を逸らした。


「夢で、初代皇帝に、教えてもらった」

「初代……皇帝……」



エーテリウス様のことだ。


私は、無意識に拳を握る。


エーテリウス様は、アルテイア様同様、すべてを知っているのだろう。


でも、どうしてセシル様に……?


まさか。


一瞬、ある可能性が思い付いたが、私は首を振る。


な訳、ないわ。




「それよりも」



セシル様は、私を真正面から見据える。

逃げられない距離で。


「行かなくてはならない場所が、あるのだろう?」




「……はい」



私は、視線を逸らさずに答える。



「帝国は、闇に呑まれつつあります。魔物の被害件数が最も多い山へ向かいたいと考えています。……そこで、何かヒントに繋がるものを、見つけたいのです」



言い切った瞬間、自分の声が少し震えているのに気づいた。



今は、感情に構っている場合じゃない。




セシル様の存在に、心を乱されている場合じゃない。


私は、目の前にいる殿・下・と、この帝国を守るために、ここにいる。




「わかった」


殿下は、迷いなく言った。


「すぐに向かおう。準備は要らない」



……即答。



それが、少しだけ胸に刺さる。


殿下……“セシル様”を、危険な目に、合わせたくないのに。





「では、転移します。殿下……お手を」



私は、そう言って、手を差し出した。



一瞬。


殿下の動きが、止まる。


ほんのわずかな躊躇。


それは、私が知っている彼のものだった。



「あ……あぁ」


指先が、わずかに触れる。


次の瞬間、確かな体温が、掌に伝わった。


熱い。



思っていたよりも、ずっと。


胸の奥が、つん、と痛む。


久しぶりに触れたその温度は、忘れたふりをしてきた記憶を、容赦なく揺さぶってきた。



だめ……今は……駄目。



私は、すぐに魔力を展開する。



光が、二人を包み込む直前。


殿下が、低く囁いた。



「……俺・が、守るから」


その声は、かつての……セシル様のもので。




心臓が、跳ねる。


返事をする暇もなく、視界が白に塗り潰された。




次の瞬間。



冷たい風が、頬を打った。


森が広がる。


霧が、異様なほど濃い。

白霧村のものとは違う。

重く、澱んでいる。


心なしか、記憶の中で見た時より、澱んでいるような。


「……ここが」


殿下が呟く。


「はい魔物被害が、最も多い場所です」



地面には、無数の爪痕。倒れたままの木々。


そして。



遠くで、何かが、低く唸った。


胸の奥で、女神の力がざわつく。



近い…っ!!



間違いない。


本能が告げている。




ここは、根源に近い。





私は、深く息を吸った。



そして、ゆっくりと殿下の手を離す。




もう、掴み続ける理由はない。



「行きましょう、殿下」


前を向いて、言った。



「ここから先は……覚悟が、必要です」


殿下は、一瞬だけ私を見てから、微笑む。


「ああ。既に承知している」


そして、付け加える。


「……それでも、共に行く」



霧の奥で、闇が、確かに蠢いていた。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


もしこの物語が、少しでも貴方の心に残ったのなら。


続きが気になると思って頂けたらブックマークや評価をしてもらえると嬉しいです。


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