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できることなら、もう一度貴方の隣に。〜“殿下”、私を忘れてください〜  作者: 桜夜.Ari
第五章 寄せられる違和感、選ばれる覚悟

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55 気づいたのは、失った後だった 【セシル視点】

柔らかな光に満ちた空間だった。


眩しいわけではない。

ただ、澄んでいる。


「……来たか」


背後から声がした。





振り向いた先に立っていたのは、俺とよく似た男。


背丈も、佇まいも。


だが、一つだけ。




瞳に浮かぶ色だけが、違う。




深い、深い悲しみと、拭いきれない悔恨を宿した目。



「……あなたは」

「エーテリウスだ」


その名を聞いて、息を呑む。


帝国の始まりを築いた、初代皇帝の名だったからだ。



「混乱していることだろう。だが、時間がない」



胸の奥がざわついた。


「世界は…今、崩れかけている。闇はすでに、根を張っている」


「…闇、ですか」



問い返すと、彼は、視線を逸らしたまま、低く言った。



「私たちは、かつてそれを封じた。だが——完全ではなかった」




「…私には守りたい者がいた」





その声は、世に名を轟かせた皇帝のものではなかった。

ただの、一人の男の声だった。





「彼女は、誰よりも強く、誰よりも優しかった。そして、この帝国を誰よりも愛していた。そして、彼女は……自分を犠牲にすることを、躊躇わなかった」



「…止めなかったのですか?」


胸が、痛む。

なぜか、自分のことのようの感じられる。


「もちろん……止めた。何度もだ。だが……心のどこかで、甘えていた」


静かな自嘲。


「彼女といつまでも共に居れると。失わない、と。——なんの、根拠もないくせに。私はただ…理解していなかっただけだった」


俺は、何も言えなかった。



「気づいた時には、もう遅かった」



俺の脳裏に浮かぶのはただ1人。

どうして今、君が思い浮かぶのだろう。


君は…また、いなくなるつもりなのか。


エーテリウスは、初めてこちらを見た。


沈黙が落ちる。



「セシル。君は、私と似ている。未来を恐れ、選択を先延ばしにするところが、だ」


エーテリウスは一瞬だけ目を伏せ、それから、はっきりと告げた。




「だが、君は、君にはまだ時間がある。

……後悔は、選ぶものではないのだ。選ばなかった結果、辿り着く場所だ」





「きっと彼女も、私の妻と同じことを考えている。自分が離れれば、皆が救われる、幸せになれると」



息が、詰まる。



苦しい。


俺は、ルアリナのことを何も理解していなかった。

俺の気持ちばかりで、何も。



「だから——」


エーテリウスの声が、わずかに震えた。


「もう時間がない。覚悟を決めろ。彼女はもうすぐ君の元へ来る。そして、行かなければならない場所があるというはずだ」


彼女が来る?

行かなければならない場所がある?


言葉の芯がわからない。


「帝国に、なんらかの危機が訪れるのは、今なのですか…?」


「あぁ、危機は近い。もうすぐで…あいつが動き出す。だからお前に、魔力を託す」



“あいつ”


それは、誰なのだろうか。





その時。


体内に、どこか懐かしい魔力が流れ込んでくる気配がした。


その魔力をどう使うのか、手に取るようにわかる。





「だから、何があっても手放すな。…………私には、もう……できないから」



言葉にできないくらい、深い後悔が、悲しみが、手に取るようにわかる。


周囲の光が、静かに揺らぐ。



光が、ゆっくりと薄れていく。



まるで、朝靄が溶けるように。


エーテリウスの輪郭が、少しずつ曖昧になっていった。



「……待ってください」



思わず、声が漏れる。


だが、彼は首を振る。



「君なら大丈夫だ」



穏やかな声だった。



「私は、ここまでだ」



その瞳に、もう迷いはない。

後悔も、悲しみも、すべてを抱えたまま——それでも、静かに立っている。



「お前は、もう一人で立てる」



「……俺は、あなたのようになるでしょうか?」


自分でも驚くほど、弱い声だった。


エーテリウスは、ほんの一瞬だけ目を伏せ、そして微笑った。



「同じ道は歩まない」



断言だった。


「大丈夫だ…君たちなら、大丈夫だ。失うことを、選ぶな」




「逃げるな。信じろ。…自分と、彼女を」




世界が、白に溶けていく。




「共に歩むと決めたのなら……何があっても背を向けるな」






「お前はまだ……()()()()()()()()()()?」



最後に、そう言い残して。

次の瞬間、世界が白に染まった。



目を覚ましたとき、胸がひどく痛んでいた。


“思い出せない”?


なんのことだ…。




いや……本当はわかっている。




彼女…ルアリナに会った時からの言い表せない違和感、喪失感。



何かが、あることを。




だが……俺がそれを考えてはならない気がした。







———“後悔は、選ぶものではない”





俺は、拳を握る。




怖くないわけがない。

それでも。



「……後悔だけは、ごめんだ」



この想いだけは、偽物じゃないから。




それだけは、はっきりしていた。





理由は分からない。



だが、自分に課せられた運命から、今から起こる未来から、目を背けてはならないという感覚だけが、異様なほど強かった。




なぜか、何もわからないのに心がすっきりとしている。



「きっと、大丈夫だ」





そして信じる。



自分を。






そして……君を。







「母上、父上、イリス…俺のすべきことがわかりました」



ここまで読んでいただきありがとうございます。



少しでも、続きが気になると思っていただけたら。

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― 新着の感想 ―
様々なサイドでストーリーを描かれているのに感動しました。 恋愛的で、多様な悩みを表現するのに苦労した事でしょう。 大変よい、作品だと思いますよ。
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