5 別れと決意
「セシル様、無駄です。これでは他の人に被害が出るわ。早く魔物を……!」
「腕利の護衛が追っている。もう殺したはずだ。それより、人の心配ではなく、自分の心配を……」
「…っ!ルア…ルアリナ、頼む…!頼むから………」
セシル様は、今にも消え入りそうな声で懇願する。
金色の目に涙をためながら必死に治癒魔法をかけているけど。
傷口は治るどころか悪化していく。
余裕のないセシル様、初めて見た。
血がどんどん溢れ出る。
なのに痛みは感じない。
死ぬのかな、わたし。
家族は、悲しむだろうな。
セシル様を1人にしちゃうかもしれない。
「セシル、様……私は、あなたと出会えて…幸せ、だった。……ありがとうございます……あいして…いますわ。幸せに…なって………貴方は……わたしの、たいせつな…ひとだから…」
脳内に声が響く。
『忘却魔法を、使わなきゃ、彼のために…!』
聞いたことがない魔法。
けれど。
どうしてか、わかった。
「……でも、ごめん、なさい。これは、貴方のため」
そう言って、私は自分の中にある限りの力で魔法を唱える。
この魔法を使うのは、命を天秤にかけるのと同じ。
もしできたとしても、命が助かる保証はない。
だけれども。
「駄目だ頼むやめてくれルアリナ!やめろ!俺は、」
セシル様が叫ぶ。
でも、続きの言葉は聞くことができなかった。
いや、聞かなかった。
こんな時、どうするかは分かっている。
前は失敗してしまったけれど
『忘却』
光が私を包み込む。
貴方の為を想うなら。
さようなら、セシル様。
セシル様。
とても、愛しておりました。
今まで私を好いてくださって、本当にありがとうございました。
できることなら、もう一度。
貴方の隣に。
なんて考える自分はどれほど烏滸がましいのか。
『転移』
どこか、どこか、私のことを知らないところへ——。
薄れていく意識の中、貴方を想う。
セシル様——。




