45 大樹
———言葉を失うほど、美しい光景が広がっていた。
思わず、息を呑む。
「……綺麗」
見上げると、水面下から世界を眺めているかのようだった。
やわらかな光が揺らめき、静寂と涼しさが、全身を包み込んでゆく。
光は水のように波紋を描きながら煌めき、無数の金色の粒子が、空からそっと舞い降りる。
あたりを見渡せば、花々が色鮮やかな淡い光を放ちながら咲き誇り、深い緑の葉が生い茂る森の中に、金の粒子が静かに漂っている。
木々の間から零れる木漏れ日は、踊るように揺れていた。
……まるで、海の底に広がる森みたい。
そんな幻想の中心に、一本の大樹がそびえ立っていた。
まるで枝垂れ柳のように、長く垂れた枝は、青い光を宿し、流れるようにきらめいている。
その頂からは、淡い光が滝のように零れ落ち、地面に走る青白い光の川が、幻想の世界へと続いていた。
小さな水たまりの上では、光が揺らめき、静かに広がる波紋が、時の流れを忘れさせる。
そよ風が吹くたびに、柳の枝がそっと揺れ、葉のきらめきが、水面に映る星のようにまたたいた。
「どうして……」
——どうして、私はここに?
問いかけかけたその言葉を、飲み込んだ。
この場所に導かれた理由は、きっと自分自身で見つけなくてはいけない。
そんな気がした。
ここにいる意味がある——そう、確かに思えた。
私はゆっくりと歩き出し、青く光る大樹へと足を向けた。
宙に舞う粒子が、まるで呼吸するように揺れ、
枝は風とともにやさしく揺れている。
ふと、一陣の風が吹き抜けた瞬間、幹の中心が、ちらりとその姿を見せた。
目を奪われた。
息をすることさえ、忘れてしまう。
そこは、森のどこよりも鮮やかに、強く、美しく輝いていたから。
私は、そっと手を伸ばした。
静かに、大樹の幹に触れる。
——その瞬間、心の奥底で何かが、微かに震えた。
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