21 引き止めないで
「私と、少し話してもらえないだろうか?」
そう言われた時は驚いた。
だって彼は女性が苦手だから、話そうなんて言わないはずだから。
それに。
彼は、一人称を“私”と……呼んでいた。
壁を感じた。
壁があるのは普通なのに。なのに。
違うわ、私の前では俺って言っていたから、少し違和感を感じただけよね。
私がしたことだから、傷つく資格なんてない。
傷ついてなんかないわ。
「妹への贈り物を選びたいんだ。君のような女性の意見が必要で」
唐突な申し出に、私は困惑した。
なぜ引き止めるの?
女心ならメイドに聞けばいいじゃない。
女性は嫌いなんじゃないの?
セシル様の声は真剣だった。
けれど、私の心は大きく揺さぶられていてショート寸前。
ルアリナ、これ以上、彼と関わってはだめよ。
私の決意を揺さぶらないで。
もう嫌なの。
あんな思いをするのは。
かつて自分のすべてを捧げた人。
けれど今、その人の中に「婚約者のルア」は、もういない。
それなのに、彼の優しさや真っ直ぐな眼差しが、心に痛みを与える。
「申し訳ありません。私にはできません」
ルアリナはそっと頭を下げた。
「妹さんのこと、大切に想っていらっしゃるのですね。ならば、あなたの心で選ばれたものが、きっと喜ばれると思います」
セシル様は少し戸惑い、ほんの僅かだけ寂しそうな表情を見せた。
やめて。
そんな表情を見せないで。
「そうか。でも……。いや、迷惑をかけてすまない」
その言葉に、ルアリナの胸がきゅっと締めつけられる。
なぜ、そんなふうに言うの……。
私は耐えきれなくなり、それ以上言葉を交わさず、その場をそっと去った。
背を向けた瞬間、こぼれそうになった涙をぐっとこらえる。
もう、関わってはいけない。
私には、もう一度、あなたの隣に———
立つ資格なんてないというのに。
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