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2 愛されているのだから

 


「ルア、あれは君の友人じゃないか?」


セシル様の視線の先には、ふたりの男女が寄り添っていて、とても幸せそうな顔をしている。


アイリス・フローレンス侯爵令嬢と彼女の婚約者だった。


アイリスは私の幼馴染で、大切な親友。

彼女は黒髪に桃色の瞳で、可憐な容姿をしている。



アイリスは私を見つけるとすぐに笑顔になり、こちらへ駆け寄ってきた。


「ルアリナ! 今日は遊びに?」

「ええ。アイリスも婚約者様と?」

「ええ。でもルアリナに会えるなんて」


その時、アイリスが私を抱きしめた。

そして、にこりと笑った。


「私の親友と馴れ馴れしくしないでくださる?」

「彼女は“私の婚約者”だ。それより侯爵令嬢、貴女の婚約者が構って欲しそうにしているが?」


セシル様はとアイリスは、よくこうやって対立している。

それが私にはすごく面白い。


セシル様は後ろに控えている男性を指差した。

彼はアイリスの婚約者だ。


セシル様の側近の方よね。

公爵家の長男だったかしら?




それより、“私の婚約者”が強調して聞こえたのは気のせいかしら。


「引き留めてごめんなさい。では、失礼しますわね。ルアリナも、楽しんでね!」


そういうと、アイリスは手を振り婚約者のところへ走って行った。




「本当、アイリスは婚約者のことが好きなのね」


「君は?」

「……?」


私は彼の言うことが分からず、黙って見つめ返す。


「俺はルアを愛している。ルアは?」


熱を持った金色の瞳がこちらを直視し、私は頷く。


セシル様はよくこうやって不意打ちをしてくる。



「あっ……わ、私もです。でもいきなり言うのは辞めてください」


「何故?」

「そ、それは……恥ずかしい、からです」



またもや赤面した私を見て、セシル様は満足したように笑った。


「ははっ、そうか。それはよかった」





そう、私はセシル様に愛されているんだわ。



だから、大丈夫。



———だって、私は愛されているのだから。









この時はまだ知らなかった。

こんな日がずっと続くと思っていたから。




まさか、あんなことになるなんて、夢にも思わなかった。

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