19 新たな一歩
私はフィアナさんの言ったことを考え、ある決断をした。
きっと、私の心にはセシル様の存在が深く刻まれているし、過去を振り返ることは容易いけれど。
——新しい一歩を踏み出さなければ。
過去に囚われる限り、私はずっとあの日のまま動けない。
セシル様のことを忘れられない。
でも、だからこそ——思い出にしなくちゃいけない。
いつか、彼に相応しい人と結婚して幸せになったとき、胸を張って祝福できるように。
私が、私自身で立てるように。
私はフィアナさんに言った。
「少しの間、帝都で暮らそうと思うの」
「……帝都?」
「気持ちを整理したいの。それに……向き合わなきゃいけない気がするの」
フィアナさんは驚いたように瞬きをしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「わかったわ、ルアリナ。無理だと思ったらすぐ帰ってきなさい。あなたの居場所はいつだってここにあるのだから」
「……ありがとう、フィアナさん」
玄関へ向かおうとしたとき、カトレアが私の腕をぎゅっと掴んだ。
「ねぇルアリナ、本当に行くの?」
「ええ。でもそんなに心配しないで。すぐ会えるわ」
「うん……わかってる。寂しいけど……でも、大丈夫。ルアリナなら」
カトレアはぎゅっと抱きしめて、小さく笑った。
会おうと思えば、すぐ会える。
それが私にはすごく幸せなことに感じる。
けれど胸の奥は、静かに波打つ。
私は彼女の頭をそっと撫でた。
——大丈夫。
これは逃げるためじゃない。
——自分を取り戻すための一歩。
私は荷物を持ち、家を振り返った。
「いってらっしゃい、ルアリナ」
2人は私を抱きしめた。
「…行ってきます…!」
私は帝都へ向かう転移魔法を発動させた。




