表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/53

11 会ってはいけない


——さっき見た馬車。

あれは間違いなく、セシル様だった。


姿形だけじゃない。

あんな短い一瞬でも、私を見つけた時の“目”が、忘れられない。


まさか気づかれた……?


いや、大丈夫。

声もかけられなかったし、あれだけの人混みだもの。




——バレてない。

そう、自分に言い聞かせるように、私は息をついた。


買い物を終え、家に戻ってベッドへ身を投げる。




「……はぁ」


胸の奥にたまっていた息が、一気に流れ出る。

思考は混乱しているのに、体だけが妙に重かった。


気づけば、ゆっくりと意識が沈んでいった。



◆ ◆ ◆





「……て! ……きて! ルアリナ! 夜ご飯だよー!あ、やっと起きた!」


「え……?寝てた!? 本当にごめんね。でも……ついさっき朝食を……」




カトレアは、悪戯が成功した時みたいにニコニコしている。



そして——。



「ルアリナ、一日中寝てたもんね!」

「……ぇ?」


私の頭に、理解が追いつく前に言葉だけが落ちてくる。


「ちょ、ちょっと待って。一日中……?」


「そうだよ〜。いくら揺すっても起きなかったし!」


そんなはず、ない。


私は呼ばれたらすぐ起きる方なのに。



ぼう然とする私を見て、カトレアはさらに楽しそうに笑った。


「ふふっ、ほんっとよく寝てた!」


そのタイミングで、フィアナさんが部屋に姿を現す。


「ルアリナ、おはよう」


「ごめんなさい……フィアナさん。お手伝いできなくて……」


深く頭を下げると、フィアナさんはふわりと目元を和らげた。


「大丈夫よ、魔力が多い人は、魔力を循環させるために眠るのよ。ルアリナは魔力が多すぎるから、普通のことよ」



その優しいまなざしに、胸の奥がきゅっと痛んだ。


——お母様も、こんな風に見つめてくれたな。



元気にしているだろうか。


帝都にいる家族は、私のことを忘れてしまったのだろうか。


当然か。




会いたい。

でも、会ってはいけない。



私が姿を現せば、また誰かを傷つけてしまう。


そう思うと、胸に小さな穴が空いたみたいに、ひどく寂しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ