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じゃんけん  作者: 冬花
8/16

五月(捜)

 大原連合の残党との小競り合いはその後もちょくちょく続いた。

向こうは「田島」の消息が掴めない事を草心会(おれたち)の仕業だと勘付いていたようだった。

それもそうだ、敵対組織の長を襲った後に襲った仲間が消えて、あとの連中のヤサにはキンタマが送られた訳だ。ウチ以外にないだろう。

もとより俺は連中を全員殺すつもりだが。






「え?バーベキューだぁ??」


「そうなんです。会場は決まったから今人数を集めてるそうなんです。」


俺は梅津から、秀成が近々バーベキューをするから来いと飯田の頭から連絡があった事を聞いた。


「珍しいじゃねぇか。まぁー、めんどくせぇけどな。」


俺は小説を片手にソファに寝転びながら答えた。


「6月の真ん中の週は空けといてほしいとの事でした。」


梅津はカレンダーを見ながら説明する。


「チッ。梅雨じゃねぇのかぁ?」


俺は気乗りしない。


「でも親分!中々ない機会ですよ!行った方が…。」


藤村が割り込んでくる。


「だーってろ!お前なんか連れてかねぇーよ!!」


俺の意地悪に藤村はげんなりしていた。

藤村は煙草を片手に窓に向かった。


「おい藤村ぁ。掃除したばっかなんだから煙草の灰落とすんじゃねぇぞ!」


俺は昨日事務所の大掃除を組員達にやらせた。思いの外綺麗になった事務所の居心地は良い。

俺が寝転ぶソファもいつもなら座りたくもない程に煙草の灰やら何やらで汚れていた。さすがに掃除をしたくもなる。


窓の外を眺める藤村は黙っている。


「藤村、返事しろ。」


梅津が藤村を注意したと同時だった。


「ガサ入れです!!」


俺は飛び起きて刀や何やらを片付けるように言った。

梅津と顔を見合わせる。


俺はこの間の田島の件で来た事がすぐに分かった。さすがにバレたのではないかと梅津を見たが、梅津は首を横に振る。


この日は事務所には8人、3人が入り口へ向かう。


(ドンドンドン!)


外では警官が騒いでいる。


「開けろコラァ!!大原署だ!!」


こういう時はすぐには開けるなと組員達には常々言い聞かしてある。ガサ入れはこれが初めてではない。


「梅津、ガサ入れなんて久しぶりだなぁ。」


俺は余裕を見せた。


「はい。昔はしょっちゅう来てましたが。」


梅津も余裕だ。


「藤村ぁ。そんなにウロウロすんなよ。たかがガサくらいで。」


コイツは初めての経験らしい。


「令状あんのかコラァ!!!」


ウチも負けてはいられない。


「あんだよ!いいから開けろこのガキオラぁ!!」


俺は窓を開けて下を見た。刀なんかは組員総出でうまく隠した。


「おーい。草野ぉ。開けてくれよ〜。」


大原署の鉢屋だ。コイツは大原署のマル暴だ。草心会とは長い。


「昼下がりから怒鳴るなよ。今開けるからよ。」


俺は入り口の連中に開けるように指示すると扉が開いた。


開いたと同時に怒鳴り声が増す。


「どけコラチンピラぁ!!」


どっちがヤクザかわからない。それ程マル暴も気合いが入ってる。


マル暴の刑事が何人か俺の居る部屋に入ってきた。

下ではまだすったもんだしている。

俺は下に向けて大声をあげた。


「黙ってろテメェらぁ!!話が聞こえねぇんだよ!!」


俺の怒声に返事をするように事務所内は静かになる。


俺はイラつきながら煙草を手に取るとそのままソファに座り込んだ。

俺の目の前に鉢屋が来た。相変わらずセンスのない格好だ。


「グレーのスーツに紫のシャツ?今時ヤクザでもそんなカッコしねぇぞ鉢屋さん?」


鉢屋は俺の文句を無視して令状を読み上げると、そのまま令状を俺に見せつける。


「草野、大原連合知ってるよな?そこのガキ一匹連絡が取れねぇんだよ。なんか知ってっか?」


あえて鉢屋は「田島」とは言わない。

他の刑事はダンボール箱にあれこれ事務所にある物を詰めていく。


「知らねえなぁ。あんなチンピラにもなれねぇ奴が入るトコなんて。」


「知らねぇって事はねぇだろ。こないだお前襲われたんだろ?おかしいじゃねぇか。その後すぐにあいつらのメンバーが居なくなるって。」


そりゃそうだ。素人でも草心会が怪しいと思うだろう。だが俺達は絶対に匂わせない。

警察には何一つ情報は渡さないのがヤクザの基本だ。


「知らねぇんじゃ任意同行で来てもらうコトになるけど良いんかい?」


ヘラヘラしながら鉢屋は語りかけてくるが、目は笑っていない。


「親分が知らねぇって言ってんだ!しつこいぞお前!」


藤村が突っかかった。


「君は?」


「草心会の藤村だよ!」


鉢屋はゆっくりと藤村の目の前まで歩いていくと藤村の肩に手を置いた。

藤村は咄嗟に払いのける。

鉢屋は手早く肩から胸ぐらに手の位置を移す。


(ギュ!バーーーン!)


鉢屋は藤村を綺麗な「一本背負」で投げ飛ばした。


「いっ…!」


床に叩きつけられた藤村は苦悶の表情を浮かべる。


「ガキがイッパシの口叩くんじゃねーよ!!」


鉢屋の怒声で騒ついていた事務所内は再び静かになった。


「ウチの若いのに何してんだお前、警察だから何やっても良い訳じゃねぇぞ。」


梅津が静かに抗議する。


「ああ、悪い悪い。梅津よぉ〜、何か知ってんなら教えてくれよ〜。」


鉢屋は藤村に「キメた」後、相変わらずヘラヘラとしている。


「とにかく何があったか知らねえが、草心会は無関係だ。何か聞きたいなら任意同行してやってもいいぜ?」


俺はじっと鉢屋を見つめた。


「は〜。分かったよ。でもよぉ〜警察も手ぶらじゃ帰れねぇのよ〜。何か出してくれよ。」


鉢屋はため息をついて俺の椅子に腰掛けた。


「梅津。」


俺は梅津に声をかけると梅津は下の階に降りて行った。


「いてぇ〜。クソポリぃ〜。」


背中を気にしながら藤村が鉢屋を睨む。

痛がりながらの恨み節は迫力に欠ける。


「悪かったよ藤村くん!でもね、あんまり警察舐めんなや。次は身柄だぞぉ?」


鉢屋はテキトーな灰皿を見つけて煙草を吸い出した。


「親分。持ってきました。」


梅津が隠してあった日本刀を何本か持って来た。


「おう、悪いな。」


俺は梅津に礼をすると鉢屋に向かって言った。


「鉢屋さん、今日はこれで帰ってくれよ。」


鉢屋は吸い出したばかりの煙草を消すと部下に刀を押収するように指示した。


「刀はもう腹いっぱいなんだけどなぁ…まあいいや。今日はこれで帰るけど、何かあったら次は身柄だからね。」


鉢屋の「脅し」に俺は鼻で嘲笑った。









 「帰ったか。他の()()だけどな、また来られちゃかなわねぇからまだしまっとけ!」


俺は鉢屋達を2階から見送ると組員らにそう指示した。


「田島の件、バレたかと思ってヒヤヒヤしたよ!」


俺は梅津におどけてみせた。


「絶対バレません。団子にして魚に食わせましたから。」


梅津は田島をどう()()したかを俺に言ってみせた。


「まぁ刀くらいじゃかわいいもんだけど、拳銃(ちゃか)は絶対バレる訳にはいかねぇからな。」


草心会にも銃はある。こればっかりは見つかる訳にはいかない、「宝」だからだ。


「隠し場所変えますか?」


梅津の問いに俺はしばらく考えて梅津に聞いた。





……「なぁ、この前アポ取った時の後藤の電話番号教えてくれ。」


俺は次のガサに向けて対策を採る事にした。

正直、大原連合との小競り合いはこれで終わるとは思っていない。まだ()()は湧いてくる。

となると警察の締め付けも今まで以上に強くなると考えた。

銃はもっとバレない場所に隠しておいた方が身のためだろう。


警察もよっぽどでなければ市長には手は出さないし、俺と後藤市長がツルんでる事は知らないハズだ。


「これです。」


梅津からメモ用紙を受け取った俺は早速後藤に連絡をする。

後藤とは()()()()から俺から直接連絡を取る事はなかった。

当時とは電話番号も違う。


「はい、大原市長後藤良久で御座います。」


女の声だ。秘書かなんかだろう。


「草野義一と言います。市長に草野から相談したい事があると取り次いでもらえますか?」


俺は丁重に女に伝えた。


「少々お待ち下さい。」


電話口では草野さんという方とかなんとか言っているのが聞こえる。後藤は近くに居るようだ。


「珍しいですね、直接お電話なんて。この間はどうも。」


しばらくして後藤が電話口に立った。


「おう、今の秘書か?女かぁ。ヤッてんの?」


俺は後藤にさっきの女が愛人かどうかを聞いた。愛人だったとしても白状する事はないだろう。

まぁコイツは数年前に離婚してるが。


「はい、秘書です。え?ヤッてる訳ないじゃないですか!それよりどうしました?どうせ()()な頼みじゃないんでしょ?今秘書には出ていってもらってますけど、これから打ち合わせなんで手短に…。」


俺は笑いながら本題に移す。


「お前、あの時の倉庫の跡に会社建てたろ?あそこちょっと借りれないかなぁ?」


しばらく沈黙したあと、後藤はあの倉庫の現在について語った。


「あの会社なんですけど、今無いんですよ。会社関係は託児所だけ。この間来たでしょ?三星!

でも建物はありますよ。たまに資料置きに行ったりとか、夏の花火大会の時は駐車場解放したりとかね。

まぁ〜また「倉庫」みたいに使っちゃってますよ。」


後藤は何に使うのか俺に聞かなかったが、「使っていい」という事で、市役所のロッカーに鍵を入れて置くからこっちから取りに行くという事になった。


「あ、でもあんまり人目につかないようにして下さいよ?いくら人気の無い峠道だからって、たまには人来ますから。最近は記者も嗅ぎ回ってるんですよ。」


「大丈夫だよ。行く時は少数で行くし、記者っぽいのが居たら拐う(さら)からよ。」


俺は冗談で言ったつもりだったが、後藤は少しイラついたようだ。


「だからそういうのがマズイんですよ!」


「分かってるよ。お前それと、あの「埋めた」場所って間取りでいうとドコなんだ?」


俺は笑いながらも興味本位で聞いてみた。化けて出られちゃかなわない。


「嫌な事思い出させるなぁ〜。便()()の横辺りです。便所の横に階段があるんですけど、その階段の下じゃなかったかな。」


当時はあの女を埋めたとは後藤には言っていなかったが、あの後少しして建物を建てる時にさすがに掘って出てきちゃマズイという事で後藤には成行を説明しておいた。

後藤は俺が「なんか建てちまえ」と言った時から分かっていたようだが。


「じゃあそういう事で、これから取りに行くよ。」


俺は電話を切ると、組員の中から一番堅気に見える奴に鍵を取りに行くように指示した。

詳しい事は言わない。

正直なところ俺も忘れたい過去だ。


「これでバレねぇだろう。」


梅津は散らかった俺の椅子周りを片付けて冷蔵庫から缶コーヒーを持って来て俺に渡す。


「親分どうぞ。しかし大丈夫ですか?大胆というか…」


「大丈夫だろう。警察なんか政治家には頭が上がらねぇから。怪しくても来ねえよ。」


ちなみに草心会で俺が昔、堅気の女を殺して埋めたのを知るのは梅津だけだ。まぁ組員の間で噂にはなってるかもしれないが…。




 俺はしばらく待った後に組員が取ってきた鍵を受け取ると、藤村を連れて事務所を出た。

梅津は自分も行くと言ったが、草心会のトップ2人が一緒に居れば目立つ。梅津はしぶしぶ了承し、藤村にこれから隠すチャカと、武器として短刀(ドス)を渡して俺達を見送った。


車に揺られながら特に藤村と話す事もないが、何となく藤村の生い立ちの話題になった。


「お前どこの生まれなんだよ?」


「はい。実は日本人じゃないんです。というか、なんて言うんですかね、合いの子なんです。」


「え?お前雑種だったのかよ!」


「雑種っ…。」


「ああ、悪い悪い。でもどこの国との?」


「中国です。死んだお袋が中国人でした。親父は物心ついた時には居なくて。」


意外な話に少し車内は盛り上がった。


「ガキの頃はずいぶんいじめられましたよ。腐った牛乳とか飲まされたり。ははっ!」


藤村は時折嫌な顔を浮かべながら昔話をした。


「で、中学出てパチンコで働いてたら梅津のカシラと出会ったって訳なんです。結構居たんですよ、パチ屋。」


「ふーん。お前も大変だったんだな。」


俺は外を眺めながら煙草に火を着ける。


「ヤクザって最初は何だか分からなかったんですけど、「家族」なんだなぁって最近分かってきたんです。」


不意に良い話をし出す藤村の頭を俺は柔らかくゲンコツをした。


「バーカ。お前にヤクザが分かるなんて百年早えよ。」


「ハハッ。すみません。」


俺はこういう奴を自分の組に入れた事を少し嬉しく思った。


峠を走る車の中から大原の街並みが星のように見える中、俺は少し眠たくなっていた。


「親分、いつか「親父」って呼ばせて下さい。」


この野郎はまた不意に良い話をする。

俺は少し照れたが、照れ隠しに眠気を笑気に変えた。


「バカ。親分ってのは親父と一緒なんだよ。」


藤村は笑って俺に再び謝ると、もう着くと俺に報告した。


砂利が敷かれた駐車場に車を停めると、前と後ろから車が来ないのを確認した。


「よし、行くか。」


俺達は車を降りて建物の入口に向かう。


(後藤建設ねぇ…。)


既に錆びついた後藤の会社の看板を見ると、俺は藤村に鍵を渡した。


(懐かしいな。面影は残ってる。)


俺はあの日の事を少し思い出していた。


「親分、開きました。」


藤村は中へ進んで行く。


(なにが"大原を元気に"だよ。)


会社の中には今は使っていないであろう後藤の顔写真入りのポスターが積まれている。


(平成元年か。)


後藤の政界での出世は早い。奴が市長になる前はたしかに大原は古びた街だった。


「どこに隠します?」


藤村は少し暗闇に怯えながらも、仕事を果たそうと勇気を振り絞っているように見えた。


「2階にするか。」


俺の提案に藤村は電気を点けようとしたが、俺は目立つからやめろと言った。


「懐中電灯ねぇのか。」


藤村はハッとして車に戻ると懐中電灯を一本持って来た。


「足元気をつけて下さい。」


俺は藤村と一本の懐中電灯の灯を頼りに階段まで歩く。


「ここか。」


階段に差し掛かると俺は藤村を止めた。


「ちょっと待て。」


藤村は早く帰りたいようで、俺の顔を見て目を丸くする。

俺は煙草を一本出すと火を着け、階段のふもとに火事にならないような場所を探すとそこへ置いた。


「なにしてるんですか?」


藤村は怪訝そうに俺に訊ねる。


「ん?まぁいいんだよ。行くぞ。」


線香なんか持ってきたらバレバレだ。

俺は初めからこうするつもりだった。

別に罪の意識があった訳ではないが、なんとなく「人間」ならこうするだろうと思った。


俺達は2階の会議室に置かれた土しか入っていない鉢植えの中にチャカを隠した。もちろん鉢の中の土は藤村に掘らせた。


「これで大丈夫ですか?」


「ああ、良い感じだな。」



俺達は仕事を終えて足早に会社を出た。


帰りがけに線香代わりの煙草がゆらゆらと煙を上げているのを俺は少しだけ見つめた…。




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