四月(参)
事務所を出た俺は繁華街の隅にあるスナックに顔を出した。
「いらっしゃい。」
今日は平日ということもあって他に客は居ない。
俺は軽く手を揚げ挨拶するとカウンターに座る。
「草野さん。どうもご苦労様です。」
「おう、ママ。この間は悪かったな。変な事に巻き込んじゃって。」
「いいのよ。客同士のケンカなんか日常茶飯事よ。今回はたまたまね、あんな事になっちゃったけど。」
このスナックはウチの若いのが桑子の奴と揉めた場所だ。草心会の人間は俺を含めちょくちょく来る所だ。
あの日は桑子の連中と揉めた後に店の前の路上で持ってたナイフで刺したらしい。
俺は騒ぎを起こした事への謝罪と事のいきさつを聞きに来た。
「で、どういう経緯で喧嘩になったの?」
俺はいつも飲むウイスキーを出してもらい、一口飲むとママに尋ねた。
「最初に居たのはチンピラの方。なんて言ったっけ、あぁ桑子組だ。最初から態度が悪くてね〜。もう酔った状態だった。」
ママはジョッキを拭きながら説明する。
「仕舞いには他のお客さんと揉め出しちゃってね、そこに草野さんのところの子がたまたま来たのよ。で、なにやってんだって話になってね。あの子大丈夫でした?」
「あの子」というのは刺したウチの若い奴の事を言っている。
「ああ、懲役にはなるだろうけど、ヤクザにとっちゃ勲章だよ。気にするな。」
俺がタバコを咥えるとママは手際よく火の着いたライターを差し出して俺の口元にやる。
安堵した様子のママは一つ思い出したかのような顔をした。
「そういえば昼間にも見たのよあのチンピラ!」
「どこで?」
「この前の道をまっすぐ行くと大通りになるでしょ?そこの近くに高級クラブあるじゃない。そこに入っていったの!」
「他に誰かは?」
「分からないけど、(昼間じゃクラブやってないのになぁ)って思ったのよ!」
「警察には言ったのか?」
「いや、言ってない。言った方が良いかな?」
「いや、言わなくて良い。」
(あのクラブのあるビルはたしか…)
俺が何かを思い出そうとした瞬間携帯が鳴った。
「おう。」
相手は梅津だ。
「親分、報告があります。」
「わかった。戻る。」
俺は携帯を胸にしまうと、半分以上残ったウイスキーを一気に飲み干した。
「悪いママ。また来るよ。」
俺は元来た道を戻り事務所に入った。
「どうした?」
静まり返った事務所内で梅津達が待っていた。
「親分、「代わり」の指を詰めてすでに本家まで使いを出したんですが…」
「うん。」
「使いが出てしばらくしたら、指があったんです。」
俺は驚きながらもどこにあったかを聞いた。
「どこにあったんだ。」
「それがそこの鞄が開いていて、うまく飛んだ指が鞄の中に入ったみたいなんです。」
梅津の視線の先に目をやると、黒い鞄がそこにあった。さっきもたしかに置いてあったが、中身は見なかった。
「あぁこれ。当番の奴のか。」
俺はそう言うと鞄の中身を見た。中には着替えなんかが入っている。
「親分すみません!」
鞄の持ち主が頭を下げる。
「いいよもう。藤村の持ってったんだろ?じゃあ見つかったのは神棚に一晩置いて、明日にでも埋めてこいよ。」
神棚に指を置くのは親父がよくやっていた。
なんだかわからないが、それから俺もよくやる。
俺は呆れながらも部屋の隅で自分の左手を抱えながらうつむく藤村を見た。
「藤村ぁ。そんな面見せんなよ。お前の指が俺を助けたんだ。それで良いじゃねぇか。」
「はい。」
今にも泣き出しそうな藤村を見て俺は笑った。
梅津は相変わらずしかめっ面だ。
「お前には助けられた。今度飲みに連れて行ってやる。な!」
そういうと藤村はやっと目の輝きを取り戻した。
「ありがとうございます!」
俺はボコボコになった藤村の顔を見てまた笑った。
藤村への慰めもそこそこに、俺は自分の椅子に腰掛ける。
「梅津。大通りのとこの高級クラブって何て言ったっけ?」
「たしかー「三星ビル」だったかと。クラブはたしか「アルファ」です。」
「三星ビルか…一番上のテナント何があるか分かるか?」
「託児所です。あの託児所の経営会社は、元は市長が社長でした。」
俺はスナックから帰る途中に全て思い出していた。
梅津に聞いたのは「答え合わせ」のつもりだ。
「梅津、市長にアポ取れるか?あの野郎。舐めた事してんじゃねぇか。」
「わかりました。いつにしますか?」
「向こうの都合で良い。少し考えたい。」
久しぶりの俺の戦闘態勢に梅津も心踊るようだ。
「一体、何があったんです?」
俺は興味津々な梅津にここまでの成り行きを話した。
次の日、早速市長にアポを取ったと梅津が報告にきた。
「来週の金曜なら良いそうです。」
「おう。」
俺は市長の後藤とは顔見知りだ。それどころか後藤がまだ市長になる前にあいつを助けてやった事がある。
もう10年前だ。あいつは市議会議員だった。
俺は真夜中に後藤からの電話で起こされた。当時は草心会を組として発足させて間もない頃で、俺も大原はおろか各地で他組織と戦争をする体力があった。
「もっ…もしもし!草野さん!?」
「なんだよこんな時間に。」
「いやぁ〜まずい事になっちゃって!とにかくウチの倉庫来れます!?」
倉庫というのは、当時後藤は議員の他にも手広く事業をやっていて、その中の一事業で使う在庫なんかが入ってる倉庫が大原の外れの山の中にあった。
「わかったよ。」
俺はしぶしぶ真夜中に後藤の所有する倉庫まで来た。あたりは暗く街灯もない。
「草野さん!こっちこっち!」
暗闇から後藤の焦った声が聞こえる。
「何がどうしたんだよ。」
(ガラガラガラ!)
後藤が倉庫の扉を開ける。中は真っ暗闇だ。
言われるがままに倉庫に入ると後藤も後から入ってきて扉を閉める。
「電気。」
ぶっきらぼうに俺はそういうと後藤は返事もせずに電気を点ける。
「?」
オレンジ色の灯りの下に「ソレ」は居た。
そこにはボロ雑巾のようなワンピースを着た女が横たわっていた。口にはタオルが巻かれていて、声を出せないようだ。
「フ〜ッ!フ〜ッ!」
女は必死にこっちを見る。顔は血だらけで汗がすごい。
「いや、そんなつもりなかったんだけど、その…」
「ヤろうとした訳だ。」
「はい。そうです…。」
要は強姦しようとして抵抗されたから殴ってここに連れて来たらしい。
「駅前で声かけて、飯食った後にホテル誘ったら断られて…そっそれで…」
「いいよ分かったから。」
俺はしばらく女を見つめていた。女もこちらを睨む。
「後藤よ。お前コレどこの女だ?」
「なんでも家出して来たって…。」
「はぁ?未成年か?」
「いや、ハタチだって…。」
「ふ〜ん。まあいいや。お前帰って良いぞ。」
「え?いいの?だってコレ…どうするの?」
「後で連絡するよ。倉庫の鍵よこせ。」
後藤は俺に鍵を渡すと倉庫から逃げるようにその場を後にした。
「なぁ姉ちゃん。行方不明の奴って日本じゃそこら中に居るらしい。」
女は悲壮な顔で俺を見る。
「親と喧嘩でもしたのか?」
「ウッウッ!」
女は首を縦に振る。
「そうか。でもこうなっちまったらもう家には帰れねぇぞ。」
女は俺からの「死の宣告」を聞いて涙を流す。
そりゃそうだ。生きてる事が当たり前だったのが、突然今日で終わるよと見ず知らずの男に言われるのだ。
ヤクザでも怖がるだろう。
俺は作業でもするかのようにその辺りのロープを持ってきて一方を柱に括り、ロープの中間を女の首に縛った。我ながら慣れた手つきだ。
「悪いな。アイツは俺にとっちゃ使える奴なんだ。姉ちゃんは別に居なくなっても悲しむのは親くらいだから。どうって事はねぇ。」
「フッフッフッフッ!フー!!!!」
命乞いだろうか。俺は気にせずロープの端を引っ張った。
「グーッ!グググッ!」
口に巻いたタオルと鼻の間から泡が出てきた。
俺はさらに力を込めた。
「グエー!グエー!」
泡に血が混ざっている。目は真っ赤で血管が額に浮き出てきた。そろそろ死ぬだろう。
女はションベンを漏らしながらビクビクと痙攣をし出した。
「アグッ…」
女の痙攣が止まった。死んだようだ。
俺はロープをほどいて女の両足を掴むと、そのまま倉庫の外に連れ出した。
「チッ、暗いな。」
暗闇に苛立ちながらも女を倉庫の裏手に引きずると俺は倉庫に引き返した。
「う〜ん。」
俺は使えそうな物を探した。あの廃材の入ったドラム缶が使える。
ドラム缶と灯油を見つけ出した俺は女の元にそれらを持っていくと、女をドラム缶に入れた。
「う〜!くせぇ!」
凄まじい臭いだ。
俺は灯油をあるだけ女にかけて新聞紙に火を着けるとそれをドラム缶に放り込んだ。
しばらくして火の勢いが収まるとそこに廃材をぶち込んだ。少しでも「ヒト」の気配を無くしたい。
火が消えるまで俺はそこに居たが、ここは街灯もない町の外れだ。人は誰も来なかった。
「よし。」
ドラム缶の中身が確認できる頃にはすっかり朝になっていた。俺は組員を5人呼んだ。
「ご苦労様です!」
ほどなくして組員達が集まった。俺はドラム缶の中身が何かを伝えず、奴らにドラム缶ごと埋めるように指示を出す。中身はすっかり炭のようになっている。
組員達は不思議そうにしていたが、黙々と作業をした。
どのくらい作業をしたか。時間は昼を過ぎた頃だ。
「よし、お前らその辺でいいだろ。これ、帰りに遊んでこいよ。」
俺は財布にあった札をあるだけ渡して奴らを帰した。
俺は奴らを見送った後に後藤を呼び出した。
恐る恐る来た後藤は「カンペキ」な俺の仕事に終始驚いていた。
「この倉庫な、潰してなんかの建物立てちまえ。もちろんウチの系列の会社に頼んでな。」
「草野さん…アレはどこに…?」
「そんな事気にしなくて良いよ。」
クスリと笑う俺に後藤は身震いをしていた。
さすがにあの女をどうしたのか、後藤にも分かったんだろう。
しかし誤算だったのがこの事を組員の1人がどこかで喋ったらしく、しばらくして俺は親父に呼び出された。
「親父。お呼びですか?」
「うん。義一よ、お前この前大原の外れにある峠で何してた?」
(誰かチンコロしやがったか…)
「いや…実は…。」
俺は親父には忠誠を誓っていた。こうなっちゃ隠すハズもない。
親父は黙って聞いていたが俺が説明を終えると片手に持っていた湯呑みを俺に投げつけてきた。
「馬鹿野郎!アレだけ「カタギは殺な」と言っただろう!カタギまで殺すようじゃヤクザとしてお前は半人前以下だ!!カタギに多少の迷惑をかけるのは俺達はヤクザもんなんだからしょうがねぇ、殺すってのはどういうつもりなんだお前!!」
凄まじい怒りだ。これだけ怒ってるのは初めて見た。今までカタギを怪我させてもここまでは怒らなかった。やっぱり殺すとなると違うんだろう。
「でも親父、後藤は使えるんです。シノギの話も持って来ます。一家の為にもなるかと思って…」
「バカたれ!そんな木端議員大して役に立たねえ!そんなクズさっさと警察に突き出せ!!それでそいつがお前がやったと言えばお前も刑務所だ!そしたら破門だ!」
ここまで言われるとは思いもよらなかった。
正直、なんで人殺しくらいでこんなに怒られるのか分からない。
でも親父が真剣に怒っているのは分かった。それに俺は初めて「親」を感じた気がした。
その途端、妙な満足感が俺を満たしたと同時に親父に対して強烈な罪悪感を抱いた。俺は「この人」に全てを捧げたい。
「親父、本当にすみませんでした!!」
はじめて「謝罪」をした。
親父は黙って自分が投げた湯呑みを自分で拾うと、普段幹部連中が座るソファーに座った。
時計の音しかしない時間がしばらく続いた。
俺が突っ立っていると、ゆっくりため息をついて親父が口を開いた。
「義一。俺達はな、「極道」を目指しているんだ。極道っていうのは「男」を磨くって事だ。俺はお前を本当の子供だと思って接している。だからこうしてお前を叱っている。それがわかるか?」
「はい。」
俺はまっすぐ前を向いて返事をした。
「いいか義一。カタギに恐れられるような奴はヤクザじゃねぇ。カタギに頼られてこそヤクザだし極道だ。」
「親父、俺はどうしたら良いですか…?」
俺の問いかけに親父はまたしばらく口を閉じた。
「義一。本来ならお前は刑務所だ。こんだけの事してるんだ。無期懲役でも仕方ねぇ。でも俺がお前を頼りにしてる事も確かなんだ。だからお前に居なくなられても困る。これが正直なところだ。」
親父はそういうとまた口を閉じた。
相変わらず時計の音だけが部屋に響く。
「頭の良いお前の事だ。その木端議員をこれからも使っていこうって腹なんだろう。だったらそんな外道だ、とことん絞れるだけ絞れ。今回の事もお前が全部責任持ってやれ。それがお前の「ヤクザ」としてのケジメだ。」
親父はそう言って自分の席に戻った。
「親父、俺は出頭するべきですか?」
「それはお前が考えろ。すべて…責任を持て。」
「わかりました。親父、迷惑かけてすみません。」
「うん。」
親父は小さく頷くとどこかに電話をかけ始めた。
俺は足早に部屋を出ると、そこには秀成が居た。
「親父、なんだって?」
「ああ、最後まで責任持てって…」
俺は秀成と短く会話をするとそのまま大原に戻った。
大原に戻った俺は早速このことを話した奴を突き止めて軽く「制裁」を加えた後、自分の指を詰めた。
初めての指詰めは想像以上に痛くはなかった。
次の日、早速俺は詰めた指を親父に持って行った。
親父にはその場で激怒されたが、一先ず俺の本心からの親父に対しての詫びの気持ちを示したかった。
俺はまるで働き盛りのサラリーマンのようにその足でまた大原に戻り、後藤に会った。
「おう。後藤、見ろよこの手。」
俺は指先が赤く滲んだ左手を見せつけた。
「え、草野さん…あの件、大丈夫ですよね?」
自分の「保身」しか考えてない姿に、さすがの俺でも腐った奴だと思った。でも、コイツは金ヅルだ。俺も自分の組の奴らを食わせなきゃならない。それに親父から「責任」の話もされた。いつものように頭に来ても手はあげない。
「俺はこの通りケジメつけてきたんだ。お前、ここまでの話になってこのまま議員でいようってそんな都合の良い話はないぜ?」
本心からの詫びで落とした指だが、「仕事」の話となれば詰めた指だって交渉材料に使うし、なにより「使えるものは何でも使う」のが俺のポリシーだ。
「え、いやっ…は、はい。」
「でも後藤な、これからも草心会と仲良くやっていこうって気があんなら、こんな指安いよ。」
「草野さぁん。そんな怖い事言わないで下さいよ。僕だって草野さん信用してるからあの日電話したんですよ。縁切るなんて考えてませんよ。」
後藤は半ベソ顔で俺にそう言うと、工事の書類を見せてきた。この間の倉庫の跡地にビルを建てるようだ。
「これほら、この間草野さんが何か建てろって言ってたから早速検討してます。」
「ビルか。これウチの会社に回すんだよな?」
「もちろんですよ!丁度経営してる会社の事務所が手狭になってたんで、あそこに建てちゃおうかなんて…山中で静かですし。」
「よし、じゃあ早速会社手配するよ。早くやらねぇと「バレる」からな。」
「よろしくお願いします。」
後藤は安心したように微笑んだ。
「あとな、もう一つ話があんだよ。」
「え?はい。」
「お前あんだけの事してまだ女遊びとかやってねぇだろうな。」
「え、いや…」
「もうやめろ。次やったらお前殺すぞ。」
多分コイツは前にも何度か同じような事をやっている。これ以上「被害者」を出してはいけないだろう。
俺が言うのも変どころか説得力がないが…。
「わかりました。やりません…。」
「ヤクザ舐めるなよ。すぐに分かるからな。」
「え?はっ…はい!」
親父は「ヤクザ」としてのケジメは全部の責任を持つ事だと言っていたが、「人」としてのケジメは言わなかった。俺に出来る唯一の人間らしい事はこれ以上コイツに悪さをさせない事だろう。正直あの女に謝るつもりはないが、俺にとっては親父の言葉が全てだ。親父はなんだかわからないが、俺に「人間らしさ」を持ってほしいらしい。それは感じる。だとすりゃこれは立派に「人間らしい」行いだろう。
それからというものの、後藤には草心会の拡大に金の面で協力させた。
あれから10年…。草心会も大きくなって、後藤も市長になった。資金面でも苦労しなくなって来た俺は、後藤とは最近めっきり会う事もない。
昔を思い出していた俺は梅津の声で現実に戻された。
「親分。ところで最近気になる事が…。」
「ん?なんだ?」
梅津は少し苛立った顔で言う。
「最近、大原連合の残党がまたウロウロしてるみたいで。」
大原連合は草心会がまだ愚連隊だった頃に大原にあった同じ愚連隊だ。小沼一家に入る事になった俺達は大原連合を潰す必要があった。
とはいえ向こうは草心会より小さなもんで、潰すのに時間はかからなかった。総長の輿田は俺が殺した。何も殺しはあの「カタギ」だけじゃない。
「あー、輿田のとこか。懐かしいな。」
「はい。小さいシノギに手出してるって噂です。一応気をつけて下さい。」
「シノギ?なんの?」
「多分シャブじゃないかと。」
「ふーん。そいつは穏やかじゃねぇな。とはいえすぐに手は出せねぇ。総長に聞いてみねぇとな。」
「はい。」
「まったく、こういうとき愚連隊の方が良かったと思うよ。自由だからな。」
金曜になった。後藤と会う日だ。俺と梅津は三星ビルに向かった。
三星ビルには後藤が経営する託児所があり、託児所と同じ階に託児所の事務所がある。
昼間はガキの声で賑やかなフロアだが、夜になるとそんな雰囲気もなく、2つ下の階のクラブの音がけたたましい。
梅津が事務所のドアをノックする。
(ガチャ)
「あ〜草野さんご無沙汰です!」
後藤が居た。相変わらずのヘラヘラ顔だ。
「お前もそんなツラしてよく市長になったな。」
会って早々に俺も相変わらずの毒を吐く。
「そんな事言わないで、さっ!どうぞ!」
俺は梅津と案内された来客用のソファーに座る。
「どうだ市政は?」
「いやぁ〜なかなか議会もうるさくて、困ってますよ。まっ、大原ここまで発展させたのは僕ですから。次の選挙も勝ちますよ。」
「そうか。それにしてもこんなとこに託児所なんて、ガキの教育に悪いんじゃねぇのか?」
「いえいえ、結構下のクラブの従業員の子供預かってるんですよ。需要ありますよぉ?今日は店仕舞いですけどね。」
後藤はそう言うとヘラッと笑った。
俺は出された紅茶を一口飲むと本題を切り出した。
「ところで後藤。この間桑子の連中ここに来たろ。」
「え?」
「隠すなよ。分かってるから。」
俺はそう言って左手を顔の横まで挙げた。
「お前、忘れてねぇよな。」
後藤は引き攣った顔で俺の左手を見るとすぐに目線を俺に戻した。
「もっ…もちろんですよ!今でもあの時の事は感謝しています。」
「じゃあなんで桑子の奴らが来た時に草心会の名前出さなかったんだよ。」
「いやいや、ご迷惑になるかと思って…。」
「何の話したんだ?」
「いやっ…。これは…言って良いのかな。」
(ガシャーン!!!)
俺は紅茶のカップを床に投げつけた。
「おいコラぁ。ウチに感謝してるって言っておきながらてめぇ俺に言えない話ってなんだコラおい。」
「いや、まだわからない話ですし。」
「お前あの後ウチと桑子が揉めたの知ってんのか?お前が早々にウチの名前出しとけばこんな事になってねぇんだよ。話せコラ!」
後藤は紅茶を人啜りすると口早に話し出した。
「今度うちの市にリゾート複合施設を作るんですよ。それをどっから聞きつけたのか、桑子さんとこが公共事業で入れてくれって…。」
俺は耳を疑った。桑子は当然大原が草心会のシマだって事は知ってるはずだ。これは舐められたも良いトコだ。
「で、お前なんて言ったんだ。」
「さすがに今は暴力団との付き合いはまずいって言いましたよ!昭和とは違うって…。」
「そしたら?」
俺は腹が立つのを堪えながら淡々とそのあとも後藤に「尋問」していった。
隣では梅津も苛立ちを隠せないのが分かった。
「そしたら桑子さんの組員は物分かりが良いみたいで…すぐにわかったって言って帰っちゃったんです。」
「ふーん。そうかあ。」
俺は煙草に火を着ける。
「あっ!でもそのあとまさか草野さんのところと揉めたのは知りませんでしたよ!さすがに犯罪の詳細までは僕には上がってこないので…。」
俺はしばらく考えた後、梅津に言った。
「梅津、この件で総長に会う。アポは大丈夫だ、俺が取る。」
「はい。」
心配そうに後藤がこっちを見る。
「なんだ?」
「あの〜。大丈夫ですよね?」
相変わらずの奴だ。
「まだ出てねぇ話なんだろ?大丈夫だよ。でもお前、死ぬかもな。」
そう言って俺は笑った。
今にも泣きそうな後藤を置いて、俺達は三星ビルを後にした。
次の日、俺は早速秀成に電話をかけた。
秀成は直ぐに電話に出た。いつもの事務仕事中だったらしい。
「どうした?草野から電話なんて珍しいじゃねぇか。」
俺は秀成に対して挨拶を適当に済ませると、すぐに本題を話した。
「総長。桑子が大原狙ってますが、どういう事でしょうか?」
俺は秀成が藤村の指を持って桑子に会いに行く事を知っていた。
多分この話を秀成は知っているに違いない。そう思って俺はどういう事かと秀成に問いただした。
「あぁ、桑子と話をしてきたんだ。それも含めてお前に話がある。こっち来れるか?」
ため息混じりに秀成はそう言うと、俺に逆にアポを取ってきた。
「もちろんです。これから行きます。夕方には…。」
「分かった。」
電話を切ると俺は梅津を呼び出して秀成の元に向かった…。