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質量を持った、例のアレだというのか!?

 留置場の中。

 もう夕食の時間も終わり……夜も更けていた。

 と言うか基本的に密閉室なので時間の感覚がよくわからない。

 いやいやそもそも、これはムショ(刑務所)ではなく留置所の話しなのにも関わらず、今まで取り調べとかだけだったほうがおかしいのであるが。


 少しばかりの火の灯りが灯っている。

 アスリーはアルテナ中尉に言う。

「アルテナさん、灯り、消してもらうわけには……」

「ごめんなさい。真っ暗にしちゃうと警備上……」

 そこでミュールちゃんが、歯ブラシと石鹸、タオルを持ってきてくれた。

「はい、これらがアスリーさんへの支給物」

「うぅぅ……」

「全部外の小さなロッカーに置くのだけれども。基本、歯ブラシは朝夕のみ許可。顔を洗う時は石鹸も許可します。タオルはお風呂以外は首にかけちゃダメ」

「なんで? ジャパニーズ・オンセンと間違えられるから?」

「死のうとしたり、殺そうとしたりする人間がいると困るからよ」

「でも常時、複数人の見張りがついているんでしょ? 眼の前でそんなんあったら、すぐに制圧できそうだけど」

「可能かどうかと、面倒かどうかは別なんで」

 物凄い効率化(?)がなされている職場だ。


 ミュールちゃんはポンと手を叩いた。

「忘れてたわ。ここらへん、場所とかでも変わるんだけど。留置場には基本、色々なものは持ち込めないの。ほら指輪とかイヤリングとかネイルとか」

「さっき没収したやん」

「食事のための総入れ歯なら認められたはずだけど」

「私、歯は平気」

「そう。ウチの場合はカツラもダメ。建前上は窒息するかも、って理由はあるけど。本音はやっぱ、めんどーだから」

「……」


 アスリーは少し考え込んでから、ミュールちゃんに聞いてみた。

「ミュールちゃん。カツラはダメなんだよね?」

「そうよ」

「ウィッグは?」

「ダメに決まってるでしょ」


「エクステは?」

「ぅっ……ダメよ」


「貞操帯は?」


 ミュール准尉とアルテナ中尉の動きがビタッと止まった。


 アルテナ中尉は明らかに挙動不審になっている。

「え!? アレって、鍵がなくても取り外せるのかしら!?」

「どうなんでしょうね……!」

「見たことないし……!」

「ちゅ、中尉! アバカム申請をしますか!?」

「ちょっと気になるわ……!?」


 アルテナ中尉は僅かに頬を赤らめてドキドキしている。

「でも貞操帯って金属製なのよね。重くないのかしら。ってか動けなさそうだけど……」

「ですね」

「金属が皮膚に擦れて酷そう……それにその、お手洗いとかどうするのかな」

「……」

「謎のテクノロジーとかあるのかも。拷問とか刑罰、観賞用とかプレイ用にとかも聞いたことあったけど……!」


 ミュールは少し顔をそむけた。

「何気にアルテナ中尉、貞操帯に興味あるような気がしますけど」

「えっ!?」

「中尉のそんな一面、知りたくなかったかなー、って」

「ち、違っ!」

 アルテナは悶えている。だが、そもそもミュール准尉のほうこそが色々と一面を見せた(見せすぎた)気もするけれども。


 ミュールちゃんはビクッとなった。

「あ」

「どうしたの、ミュール准尉」

「そもそもさっき身体検査してるんで……アスリー先生はそんな貞操帯着けてるはずはなかったです」

「あ、そうだったわね」


 アスリーは小さく舌打ちする。今着けている下着は『官製下着』。ベージュ色のダサいやつ。貞操帯のほうがまだオシャレだろう。

 悔しくなって、呟いた。

「くそぅ。いつかこの世の下着全てを、官製下着だらけにしてやる」

「人類に絶望して世の中を破壊しちゃう系の魔王って多いけど、流石に下着のダサさにブチギレる悪のラスボスって聞いたことがないわ……」


#なんか、ここらへんの経験がアレな模様。


 ミュールちゃんはクスクス笑った。

「そういうわけでアスリー先生。わかりましたか? 留置場には基本、色々なものは持ち込めないの。あとこっち側でもチェックが面倒なので、廃棄していい?」

「ダメ! サラッと捨てんな!」

「チッ……じゃあこっち側で一旦チェックするんで。外します」

「くっ……」


 アルテナ中尉はぽかーんと「それ」を見ていて……ぶっ飛んだ!





 ミュールちゃんが。アスリー先生のメガネを。外して手に持ったのだ。





「ちょちょちょちょ!? なになになになに!?」

 混乱するアルテナ中尉。それに対してミュールちゃんは不思議そうな顔だ。

「ん? どうしたんですか、アルテナ中尉?」

「だってアスリー先生のメガネ……!」

 アスリーも不思議そうだ。

「アルテナさん。私のメガネがどうかした?」


「え。だって。メガネが急に出現するから……」


 アスリーは、にゃはは、って感じで笑っている。

「そんなそんな、ダメっすよアルテナさん。メガネが急に出現するはずないですよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」

「え。え。でも。じゃあいつからメガネなんて……」

 アスリーとミュールは真顔で顔を合わせてから……アスリーは答える。

「いつからも何も。第一話で初手で逮捕されてた時点で」

「え!? そもそも最初から着けてたの!?」

「うん。そうだけど?」


 ミュール准尉は何度か肯く。

「『描写されてない』ってのが、何がどういう意味なのか。そこらを考えながら読むのもミステリーの醍醐味よね」

 アルテナ中尉は興奮しながら呟く。

「この作品って、ミステリーだったんだ……!」

#違います


 アスリーは悔しがった。

「この作品と一般のミステリーの類似点って『警察』ぐらいな気もするけど」

 ミュールちゃんはアルテナ中尉にグッと親指を立てる。

「ちなみに中尉。アスリー先生はパイパンでした」

「マジ!?」

「嘘です」

「ぉぉぅ」


「あー、ミュールちゃん。上官で遊ばない」


 そんなこんなでひと悶着合ったが、ミュールちゃんが言う。

「このメガネはこちらでチェックしてから渡すから。ちなみにコレに何か機能的なものとかある? 乱視とか、何か光の屈折やら遮光やら」


 アスリーは頷いて、言う。

「サムシング・チップが。メガネフレームの中に内蔵されている」



 ちょっとの間、静寂が訪れた。

 ソレは何なのだ、と言うか。だから何なのだ、と言うか。

 恐る恐る、アルテナ中尉が尋ねてくる。

「アスリー先生……それはどういう?」

「いや、反応速度がぁー!」

「!?」

「しかも脳波コントロールができてぇー!」


「……」

「いや怪しいモノじゃないってば! アヤナ・インダストリィで造ってもらってさ。しかもアヤナのほうにも技術を上げたんだよ!?」

 アルテナ中尉とミュール准尉は陰でこそこそする。

「ねえミュール。アスリー先生って……思った以上にやべーやつ?」

「そんな気はしますね」


「違うって、違うんですってば!」


#アスリー先生はうっかり忘れてますが。今現在アヤナは9歳です。当然まだ面識もありません。





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