(…臓器が、非人道的?)言わせておけばいい。元気がいいのも、今だけだ。いずれ、わしに許しをこう。哀れを誘う声でな。みなそうだった……。
檻に入れられたアスリー。もう夜も遅い……はずはないのだけれども。暗い。灯りは少しだし。でも眠るには、逆にあの灯りは邪魔そうだけど……。
『すぐねむーる』 (睡眠薬)と媚薬の『火照るんです』 (ほてるんです)。どちらの効果がどう出るかはわからないが、睡眠薬そのものはもう飲んでしまったのだ。やはり眠るべきだろう。眠るしかない。いや何とかして眠らねばならない。
『アップ系とダウン系を同時に摂ったから、どうなるかは知らない』……ミュールちゃんのそんな言葉が頭をよぎった。
「(下手に寝ると、なんかヤバい時に反応できないかも)」
それは怖かったが……仕方ない。
しかしそもそも、こちらはまだ『犯人』とかではない。この先どうなるかわからない、仮置きな状態な人間なのに。あまりに理不尽すぎではないだろうか(主にミュールちゃんが)。
アスリーは暗闇の中、少し顔を上に上げて、思った。
「(酷いや……警察って。やっぱり酷い)」
そして。
頑張って(?)涙を流してみる。
#アスリーは、そのテクで『自在に涙をコントロール』することが可能だった。お風呂に入ってた時に頑張って訓練していたのだ。これは割とよく役立った。
だが『時々、一緒に鼻を吹いてしまう』と言う欠点がある。まだ改良中である。
#なお、後に出会う、孫弟子に当たる『アヤナ・フランソワーズ』は。欠点がなく自在に涙をコントロールできる模様。割と凄い。
アスリーは(無理矢理)泣いて……そして思った。
「こんな、無実の罪(?)で国家権力に掴まり、監禁されて……私って、凄くヒロインっぽいよね(あっ。やべー。コレ思いのほか、興奮する)」
すると牢屋の外からミュールちゃんの声がした。
「アスリー先生。もう寝なさーい」
「誰? そのジジイ?」
「いいから寝なさい!」
#ここでアルテナ中尉は。ミュールを見て「この子……本当に13歳なのかな?」と思ったらしい(今更である)。
アスリーは弁解するように言う。
「でもミュールちゃん……やっぱアップ系の薬物 (媚薬)があると、なんか、こう……」
「トイレで処理していいわよ。一人なら」
「処理って……」
「でも先生。ちなみに、見つけたら注意処分」
「どうしろって言うのよ!」
ミュールちゃんの横にいたアルテナ中尉も少し顔を伏せながら言う。
「アスリー先生。他のトコは知らないけど、この留置所の囚人のスケジュールは、こうです。
朝7時頃に起床し、洗面や点呼を行う
8時に朝食をとる
12時に昼食をとる
13時に運動を行う
18時に夕食をとる
21時に就寝する
だから早く寝ないと、次の日の朝に起きられなく……は、ならないわよねぇ? 10時間とか寝ることになるし」
#ちなアルテナさんはいつもナチュラルに間違えているが、ココにいるのは『被疑者』であって、有罪も無罪も確定していない人たちである。別に懲役囚の『囚人』と言うわけではない。
ミュールちゃんが腰に手を当てて言う。
「明日になれば、弁護士とか、警官立ち会いの下で面会もできるわ」
「そうなんだ。じゃあすぐに出れる……よね?」
ミュールちゃんはクスクス笑う。
「前に少し説明したけどアスリー先生。釈放は検察や裁判官次第で最短二日。でもまだ起訴の判断が下りなかったりで、プラス10日の勾留。それでもムショ行きが決まらないとプラス10日追加。アスリー先生の場合は合計22日を留置所で過ごし、裁判があって、それからムショへ行く。そしてムショからは永久に出られない」
(……。アルテナさん、なんでミュールちゃんは、こんなに私にキツいの!?)
(ごめんなさい、ごめんなさい……! 私にはよくわからなくて……!)
ミュールちゃんはクスクス笑ってる。よっぽどムショが好きらしい。やべーやつ。
アスリーは、わたわた慌てる。
「でもミュールちゃん。永遠に、って……」
ミュールちゃんは、またもクスクス笑う。
「確かに先進国じゃ死刑廃止とかが流行ね。懲役1000年とかあるし。全部の国がそうなればいいのに」
「……」
「この国の『無期懲役』は、仮釈放あるんだけど。でもアスリー先生は仮釈放されないわ」
「(既に最高刑行くのが確定みたいなんだけど……) 仮釈放って、何年で出れるの?」
「40年とか、50年とか」
「ほぼ一生やん!」
「当たり前でしょ。アスリー先生はそれだけ許されないことをしたのだから」
アルテナ中尉はぼんやり思う。
(アスリー先生って、そんなに許されないことしたのかな……)
しかし、やはり目の前の13歳女子が怖くて、何も言えなかった。
ミュールちゃんは言う。
「色んな国では刑が『合算』されるからね。どこぞの国の『無期懲役』 (仮釈放あるかも)ではなく、『死ぬまで』の『終身刑』(釈放なし)があって……色々とメリット・デメリットがあるけど、個人的には懲役1000年とかの方が好き」
そりゃアンタはそうだろ、とかアスリー(とアルテナさんも)は思った。
が、とりあえず、そんなミュールちゃんの気合いを削ごうと言ってみる。
「で、でもミュールちゃん。ムショに入ってるだけでカネ……税金がかかるって話があったよね?」
ミュールちゃんは舌打ちをする。
「そうよ。囚人も何か生産的なことができれば解決なのに」
そこでアルテナさんが、おずおずと片手を上げる。
「特に先進国では色々とプログラムがあるわ。技能をつけたり、就職先も少しは理解あるとこを斡旋させてもらえたり……」
ミュールちゃんは不服そうだ。
「中尉。わざわざ、出所前提のことなんてしなくていいと思います」
アルテナ中尉はさらに慌てて続ける。
「で、でも。そう言うのがあれば、再犯率も低くなって、社会全体で考えればコストが……」
やはりアルテナさんは良識派のようだ。軍人でも優しい。アスリー先生は感心する。一方のミュールちゃん……子供(13歳)のはずなのに、ヤバい。思想がヤバい。
そのミュールちゃんは、やはり不服そうなままだ。
「しかしアルテナ中尉。色々な試みは刑務所に直接は還元されないですし……。一般の囚人は確かに家具とか作ってますがあんまり高値では売れない&安定供給や量産が効かないとかで、やっぱり刑務所って『刑務所自体』の取り分は限られてきます。だいたい家賃と人件費が高すぎるんで、どんなにしても採算は取れないですね」
「でもミュール准尉。それが時代や技術で何とかなっていけば、うまくすれば……」
「いえアルテナ中尉、そんな簡単には……」
そしてミュールはボソッと言う。
「血液……」
ミュールの言葉に、アスリーは顔を上げた。
「ん? ミュールちゃん?」
「ねえ先生。私、常日頃ムショについて考えてるんだけど」
「(それはそれでヤバいような……)」
「多くの(先進国の)囚人は、体調管理がされている。そして大勢の人が集まる。だから彼らの『血』を医療機関に送ればWIN-WINじゃないかしら!?」
アスリー先生は言う。
「えぇ……。ミュールちゃん。それは流石に非人道的な気がする……」
「レバーいっぱい食べさせれば、可能じゃないかしら!?」
「いやいや。絶対ソレ、やりすぎだってば!」
「だったら臓器を(以下、自粛)!」
「ダメだってばああああ!」
何にせよ怖い13歳である。
そのミュールちゃんは、クスクス笑って言う。
「これからアスリー先生はムショに入るんだけど。ムショにも時代や地域によって色々あるんで、良いムショに出会えるといいわね! あーっはははは!」
アスリーは、チラッとアルテナ中尉を見る。
そのアルテナ中尉は、やはり肩身が狭かった。
「(何でミュール准尉は、こんなにムショが好きなのかしら……)」
#多分、伏線とかはありません。
『こんなムショはイヤだ!』
・通貨でペリカが流通している。
・賭博は一応あるが、競馬・競輪・宝くじあたりの公営賭博のみである。
・カポエイラ(踊りのような格闘技)が推奨されている。
・貸し出し図書に『To LOVEる』が存在する。
・しかも、なんかページが、ヘンになっている。
・囚人から血液を奪うために、夜な夜な、鷲巣麻雀が開催されている。
・しかも倍プッシュである。
・にも関わらず常駐医が、三鷹駅前の樋口クリニックの院長、樋口 祥一 医師である
・高須クリニックと連携しているので大丈夫だと自負している
・少女を盗撮し逮捕された小学校の先生が、勉強を教えている
・シャバに戻った時に時代に遅れないようにと、囚人には携帯電話などの電子機器が貸与されている。
・しかし型落ちに型落ちを重ね、未だにdocomoのi-modeのまま
・こっそり、修繕積立費まで発生している
・実はソ連製




