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女暗殺者リリィと異世界から転移した小説家との恋の物語  作者: 日向 たかのり
第一章 小説「異世界小説家と女暗殺者の物語(異世界からの恋文編)」
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第三話 変わる運命(2)

 自分の宿に、いったん戻った後、異世界人が立ち寄った軽食店に入った。

 買った本をそこで読みながら、誰かが話掛けてくるのを待つことにしたのだ。

 店に案内され、いくつか注文をした後、本を読み始めた。


 異世界小説家が書いた本のタイトルの下には、「拝啓、愛しの女暗殺者様へ」とあった。

(女暗殺者? 私のことか? 愛しの?)

 この本の1つの目的が、帝国が世界の驚異になることしていることを世間に知らしめようとしている内容だった。

 もう1つテーマは、あの異世界小説家から女暗殺者へのラブレターだった。

 そして、その物語のヒロインのモデルとして、選ばれたのが私のようだ。


 パラパラと本を見て、私は面食らってしまった。

 異世界人がこの世界に来た顛末や、帝国の思惑も書いてあった。

 だが、そんなことは私にはどうでも良い。

 私と最初に会った時の異世界人と私の心の中を書いてあった。

 それが、私には、受け入れがたい内容だった。


(私はこんなこと、一言も言っても、思ってもいないぞ)

 異世界人は、暗殺者としてやってきた私に、”一目惚れした”と告白している。

 ”俺は、君と会う為に、この世界に来たんだ!”、と書いていた。


(馬鹿なのか? 馬鹿なのだろう?)

 目の前にあいつがいたら、そう言っていただろう。

 某国に匿われてからのことも書いてあった。

 全て事実ではないにしても、これに近い状況だったろう。

 私の経歴も調べているらしい。

 そのことについても、多少なり書いていた。

 私の生い立ちが、あいつの心に、さらに火を付けたらしい。

 私を救いたい。

 私を連れて来て、一緒に暮らしたい。

 そんなことが書いてあった。

「……」

 どう判断すれば良いんだ?

 この本を、世界中に配りまくっているのか?

 

 改めて、あいつと初めて出会った時のことを思い出した。

 いくら、相手が女でも、それが刃物を構えて迫ってくれば、普通は怯えるものだろう。

 しかし、あいつは、私の目から目をそらすことはなかった。

 私の考えは、全て、あいつに伝わってしまっていた。

(どうして、私の考えが、あいつには伝わるのだ?)

(仮面をしていたのに。何で、わかるのだ?)

 私が、あいつの言葉で、腹を立てていることも書いてあった。

 もちろん、一字一句、同じではないが。

 

 何故か、少し胸が熱く、苦しくなり、軽く抑えた。

(何なのだ? この気持ちは? 呪いでも掛けられてるか?)

 あの異世界人の気持ちが、本を通して伝わってくる。

 それに応える私の言葉が、私の中に埋もれていた言葉を引きずり出してくるのがわかる。

 私とは、あの場面でしか会話していない。

 それなのに。


 あいつの放ったあの言葉を、また思い出していた。

「ペンは、剣よりも強いんだ!」

 私の剣では、あいつの命は奪えなかった。

 しかし、あいつの”ペンの剣”は、私の心に届いて、突き刺さっていた。

 こんなに、距離が離れているのに。

 会っていたのは、あの一瞬しかない。

 ”ペンの剣”は、私の心の壁を、切り開いていた。

 そして、無防備な心を、見せていた。


 私と近い年の女性が2人入って来て、少し離れた席に座った。

 私は、飲み物を口にしながら、壁に寄りかかり店内をボンヤリと眺めていた。


 2人の女性は、注文をし終えると、少しヒソヒソとしながら話しをし出した。

「ねぇ。あの本読んだ?」

「え? もう読んだの? やっぱり、もらったの?」

「そう。お父さんが、もらったって言ってた。読まなければ、売ってしまおうと言っていたわ」

「あれ何? あの”小説家”って人、自分を殺しに来た女の人、好きになっちゃったの?」

「そうみたい」

「女の暗殺者の子も、実は惹かれていたって感じ」


 自分のことを言われているようだ。

 耳がどうしても、そちらに向いてしまう。

「それで、もう一度会いたいから、本にしたんだって」


 その部分は、その本の主人公が再び帝国に再潜入し、女暗殺者と再会。

 自分の思いを伝え、一緒に皇国へ行こうと口説いているシーンだ。

(あんな、本しか書けないような奴に、そんな腕はないぞ。いや、度胸だけは、あるかもしれないが)

 

「その本、見つかったらヤバいんでしょ?」

「そう。だから、読んで直ぐ、人に売っちゃった」

「でも、他の国にもたーくさん出回っているみたい。『帝国は、転移者に教えてもらって、それで軍隊強くしようとしている』と言われて、警戒されてるんでしょ?」

「そんなこと出来るの?」

「だって、でっかく光る爆弾も作ってたって書いてあったよ」

「それ、魔力でも似たようなこと出来るじゃない?」

「魔力使える人がいなきゃダメでしょ? これは、作る道具があれば、誰でも沢山作れるって。それが、”禁忌”に触れるって」

「それで、この「本」を書いた人が、異世界人ってことなの?」

「だって、こんな「本」を書く人って、他にいないよね? だから、異世界人が本当にいて、”帝国”が何かしようとしてるのは本当じゃないかって言われてる」


 私が、どうでも良いとしたところが、帝国としては問題だったのか?

 言われてみれば確かにそうだが、しかし、物語を信じる人がいるのかと不思議に思った。

 だが、書いてある内容が事実かを調べて事実と近いものがあれば、信じたくなるだろう。

 私の仕事は『暗殺』なので、どのような思惑が、あろうとも関係ない。

 殺せば良いので、あまり気にしていなかった。

 帝国は、その知識を他に漏らされたくなくて、あいつを消そうとしたのか?

 

「付いて行くのかなー?」

「だねぇ」

「やっぱり、好きになったら、こんな風になっちゃうのかなぁ?」

「これって、ラブレターだよね?」

「ねー」

「俺に付いて来い何て言ってるし」

「ヒロインさんも、色々言い返しているけど、ただの確認をしてるだけで、嫌だって中々言わないからね」

「ねぇー」

 二人は顔を見合わせて、クスクスと無邪気に笑っていた。


(はずかしいな)

 しかし、付いて行くなどありえない。

 私は指令を果たして、それで終わり。

 それで。

 終わり、なんだ。


 だが、胸が少し苦しくなった。

 落ちた時の痛みは、もうないはずだ。

 手を胸元に充てて、ギュッと掴んでいないと辛い。

 死ぬことは怖くない。

 指令を果たして、自分も死ぬ。

 ”この男に深く関わった者も含めて、全ての人間”を殺すのだ。


 付いて行ったら、何かが変わるのだろうか?

 なんで、あんなに自信があるんだろうか?

 あの目は、どこを見ている?

 この世界にいなかった、あの異世界人の男が見ている先には、何が見えている?


 一度会って確認したい。

 だけど。

 あいつは、この国には、いないのだ。

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