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番外編〜事件後夜-7


 エレナが出ていってしまうと、病室には重苦しい沈黙が流れた。


 岩波はどっかと椅子に座り、ヨーコはベッドの端でちょこんとしている。二人とも、どう会話を進めたら良いか解らないでいる。


 それでも岩波は、何とか口を開きかけた。隼人に託された『約束』のことを、ヨーコに話そうかと思ったのだ。彼が最後まで彼女の将来を気に掛け、岩波に彼女を見守るよう頼んだことを…。それを知れば、きっとヨーコだって喜ぶはずだ。


 しかし、岩波は思い直したように口を閉じた。

 言ってしまえば、自分はヨーコに厳しくなれない。彼女も、岩波に対して甘えが出るだろう。そんなことでは、彼女は立派な刑事になどなれない…。

 刑事は、グッと言葉を飲み込んだ。



 その間、ヨーコは岩波を見つめられないまま、目を伏せていた。この刑事と二人きりで居るのは、やはり緊張する。彼女は布団の下にそっと手を潜り込ませ、隼人の指先を握り締めた。


 血の通った、あたたかい彼の手。彼が、ヨーコの傍で生きている証。



 小さな幸せを感じて、ヨーコは少し落ち着いた。エレナの言ったとおりだ。隼人が一緒なら、何も怖くない。

「私…」

 ヨーコは、ためらいながらも凛と声を発した。

「私、絶対、刑事になります!」


 岩波は、窓の外を見つめるばかりで、決して少女に目を向けようとはしない。けれど、彼の全意識はヨーコの言葉に注がれていた。



「隼人と約束したんです。どんな人でも信じてあげられる刑事になる、って」

 ヨーコは、真っすぐに岩波を見ている。その視線は、どこか隼人の視線に似ていた。

「昔、隼人の無実を信じてくれた刑事さんみたいに…」


 岩波は、わずかに目を見開いた。



 その刑事こそが岩波だということを、話し続けるヨーコは知らない。

「隼人を信じた刑事さんみたいに…被害者の痛みも、加害者の痛みも、汲み取ってあげられる刑事になりたい…そう思います」

 


「…そうか」

 岩波は、深く息をつきながら言った。

「そうか…───」




 岩波とヨーコ。

 その日、二人の視線が重なることは、最後まで無かった。


 それは、岩波がヨーコの真っすぐにひたむきな瞳を避けていたからかも知れない。あまりにも隼人に似ている、彼女の瞳を。


 目を合わせてしまえば、彼女に隼人が重なって、“厳しく”なんてなれない気がした。




 病院を出て、欠け始めた月の下を歩きながら、岩波は決意を新たにしていた。



 ───隼人。


 俺は守ってみせるからな、お前との約束。


 あの子を、一人前の刑事にしてやるから。


 だから、心配するな…





 賑やかな夜の街角を、刑事の靴音が厳かに遠ざかっていった。




番外編〜事件後夜〜

  END


゜+。*′:。+゜。*`。+:゜。*′



 これにて、『事件後夜』も完結致しました。少々長く引っ張ってしまった感もありますが、罪を犯してしまった二人の少年の姿をしっかりと描きたかったのでご了承ください。



 この番外編で始まった、「刑事としての」岩波刑事とヨーコちゃんの関係は、本編に繋がっていきます。


 近日『Mr.Justice〜真実と現実』episode2の連載を開始します!!ヨーコちゃん、岩波刑事は勿論、山川くん・角川刑事の活躍、そして恋の模様を…お楽しみに!!

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