ヨーコに迫る危機
更新が遅くなってすみません…(´`)
受験勉強のため、ご了承ください。
駅ビルから出た途端、ひたすら気だるい熱風がヨーコを襲った。
カッと照りつける日差し。肌がジリジリと焦げる。
「本当は家まで送ってやりたいんだけどな」
隼人が、固い表情のままヨーコに言った。
通り魔は、どこに潜んでいるかわからない。
駅ビルを捜索中だが、すでに街中に逃げ出してしまっている可能性もある。
こんな危険な時に、ヨーコを一人で出歩かせるのは気掛かりなことだ。
しかし、ヨーコは輝く笑顔を見せた。
「大丈夫ょっ。一人で帰れないんじゃ、刑事なんて目指せないでしょっ」
「ヨーコ…」
「心配しないで。隼人は、私なんかより仕事に集中しなきゃ」
威勢よく言うと、ヨーコはバイバイッと手を振り、雑踏の中に消えていく。
隼人は、その後ろ姿を黙って見送った。
ざわざわと波のたつ心を抱えたまま…。
…ヨーコは。
俺のしてきたことを知ったら、どう思うだろう?
警察官になるまでは、人に暴力をふるい、傷つけてきた。
学校にもろくに行かず、夜の街でほっつき歩いていた自分を、今までと同じように『好き』だと言ってくれるだろうか??
隼人の脳裏に蘇ったのは、やはり先ほどのヨーコの言葉だった。
『私、そんな人きらい…』
…俺のことも、嫌いになるのかな。
そう思うと、隼人は身が凍てついてしまうような気がした。
だから、言えなかった。
自分もレッドイーグルのメンバーだったことを。
*
駅から大分歩いた。
日はますます高く昇り、気温もどんどん高くなる。
暑い…。
肌にピリピリとした痛みを感じたヨーコは、日焼け止めを塗ってくるのを忘れたことに気が付いた。
「やばっ。肌、赤くなってる…」
あちゃ、と顔をしかめる。これ以上焼かないためにも、はやく家に着かなければ。
ヨーコは足を早めた。
後ろから、不審な影が彼女を見つめているとも知らずに…。
*
岩波は、花火の広場で行われている現場検証の間を塗って、走り回っていた。
一度など、指紋採取をしている監察官たちの中に突っ込んでしまった。
「おい!何やってんだテメ…」
怒鳴りながら振り向いた監察官は、相手が岩波だと気付くなり、言い掛けていた言葉を飲み込んだ。
ガクガク震えながら指紋に顔を戻すとき、
「すいませんでした…」
と小さく呟くのが聞こえた。
岩波は、誰からも恐れられる存在なのだ。
本庁のエリートですら、実績のある岩波には何も言えない時がある。
この男を制御できるのは、妻子の他にはマドンナしかいないだろう。
そんな彼は、あわてたように広場を走り回っていた。
目的は、ただ一つ。
隼人を探すためだ。
レッドイーグルとブルーシャークに話が及んだ以上、隼人を頼るのが最善策だと岩波は直感していた。
もちろん、部下に頼るのは気が進まない。
しかし、犯人逮捕を急がなければ、第二、第三の通り魔事件が発生しないとも限らない。
くだらないプライドは捨て去らなければならないのだ。
しかし、隼人の姿は広場のどこにも見当たらない。
…サボってんじゃないだろうな。
もしそうだったら、タダじゃおかねぇぞ。
そんなイライラを、岩波は何とか押さえ込んだ。
*
ヨーコは、家へと続く住宅街の路地を曲がったところだった。
日差しは、相変わらず強く差し込んでくる。
その光を家々の庭の常緑樹が受けとめ、ギラギラと照り返す。
アスファルトから湯気が立ち上ってくるかのように感じる。
「ゆだっちゃいそー…」
ヨーコは、思わずひとりごとを呟いた。
ダラダラと流れる汗を拳で拭う。
彼女は、ハンカチのような女子的小物を持っていない…。
『アイロンかけるのが面倒くさいから』
というのが、その理由である。
隼人は、彼女のこのダメッぶりも、個性のうちだと感じているのだが…。
その時、背後から車がゆっくり近づいてくる音がした。
*
「どこ行ってたんだ、お前はぁぁっ!?」
岩波の大声。
「スイマセン!」
隼人はあわてて頭を下げた。
岩波は、怒らせるとなかなか止まらない。
『言い訳するより、サッサと謝ってしまった方が長引かない』のである。
「…まあいい」
隼人の予測どおり、岩波は落ち着きはじめたようだった。
ここは、花火の広場から少し奥に入ったところ。
井の頭公園への道に抜ける通路だ。
普段は人が激しく絶え間なく行き交っているが、警察が通行止めを行っている今、ここにいるのは岩波と隼人だけだ。
「話がある」
岩波が切り出した。
「…予想はついてます」
隼人が答えた。
「坂上竜也について、聞きたいんスよね」
岩波は頷く。
「その通りだ。警察内部で、やつらに一番詳しいのはお前だからな」
「…」
隼人は、フッと笑ってみせた。
「詳しいって言っても、ここ2年間はあいつらと接触してないんで。
話せることもアテにならないっスよ?」
「かまわない」
岩波は唸った。
「なんでもいい。坂上達也…いや、ブルーシャークとレッドイーグルの関係について教えてくれ。
今回の事件に繋がりそうなことなら何でもいい!」
*
後ろから近づいてくる、車の気配。
ヨーコは、パッと道の脇に寄って、車が通るスペースを空けた。
こんな住宅街に車が入ってくるなんて、珍しい。
ヨーコはチラッと振り向いて、車を見た。
黒いボディのワゴン車だ。後部座席にはカーテンがひかれ、まるで容疑者を護送する車のよう。
車は、スーッとヨーコの横を通り過ぎていった。
すれ違った瞬間、車の放つ熱気がむわっと襲いかかってきた。
蝉が、急に鳴きはじめた。
ヨーコは首を傾げた。
そのまま行ってしまうだろうと思っていた車は、ほんの3メートルほど先で停車したのだ。
「?」
ヨーコも、つられて歩みを止める。
バタン。
車の扉が開いた。
そして、中から黒ずくめの男達が飛び出してきた!!